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生き続けていくことはいけないことか(映画『PLAN 75』)
少子高齢化社会となった日本には様々な問題がある。老老介護、孤独死、虐待という家庭問題や社会的に弱い立場の人々が非難され、生きづらくなっている風潮もある。
高度成長後、核家族化し、家族というコミュニティは数は多いが、お互いに干渉せず過ごすようになった。昔ほどの近所付き合いもなく、隣に誰が住んでいるかを知らないことさえある。孤独から命を絶とうとする人も少なくない。コロナ禍を通して孤独を感じる人は一層増えたのではないか。
誰かが手を差し伸べていたら助かったかもしれない命がある。
あまりにも他人に無関心なこんな社会で本当にいいのか。
もしもの世界を描き、私たちに疑問を投げかけた早川千絵監督の『PLAN 75』がカンヌ国際映画祭での評価を得て、日本でついに上映される。
あらすじ
夫と死別してひとり暮らしの角谷ミチは78歳。ある日、高齢を理由にホテルの客室清掃の仕事を突然解雇され、住む場所をも失いそうになった彼女はプラン 75の申請を検討し始める。プラン 75とは75歳以上が自らの生死を選択できる制度。市役所のプラン 75の申請窓口で働くヒロム、死を選んだお年寄りに“その日”が来る直前までサポートするコールセンタースタッフの瑶子、フィリピンから単身来日し、幼い娘の手術費用を稼ぐため、より高給のプラン 75関連施設に転職したマリア。それぞれの場所で複雑な思いを抱えて働く日々を送る。
プラン 75に翻弄される人々が最後に見出した答えとは?
監督・脚本は、本作が長編初監督作品ながら、2022年カンヌ国際映画祭「ある視点」部門に正式出品し、カメラドール特別表彰を受けるという快挙を成し遂げた早川千絵。75歳以上なら自分で死ぬときを決められ、安らかな死が得られるという法律が動く日本を舞台に、問題提起する。
物語の中心となるミチには、9年ぶりの主演作となる名優・倍賞千恵子。独身で誰も頼らずに生きてきた78歳の女性が人生の選択の時を迎え、プラン 75を申請する様子を淡々と描く。たかお鷹、大方斐紗子ら熟練の俳優陣のリアルな芝居は見事としか言えない。お互いの他愛のない会話でさびしさを埋める同年代の職場の井戸端会議がせつない。日常の何気ない時に感じる孤独、身寄りのない孤独、家族がいるのに一緒に暮らせない孤独。そして襲い来るむなしさ。それに気づかないように生きてきた人々に生きることだけではなく、プラン 75という人生を終わらせるという選択が増えたら、本当にこうなってしまうのだろうと観ながら怖くなった。
プラン 75創設によって出来た仕事で働く若者達の葛藤
市役所でたった30分の面接でプラン 75を選択する人達の申請を受け付けるヒロムには『ヤクザと家族 The Family』他様々な映画、ドラマに出演が続く磯村勇斗。身近な人がプラン 75を選択したことで動いていくヒロムの心をしっかりと捉えている。『由宇子の天秤』、『サマーフィルムにのって』の河合優実はわずか15分ずつのミチとの会話を続けるうちにプラン 75を疑問に感じるようになっていく瑶子を繊細に演じた。
役者達は大きな芝居はしていないが、しっかりと心の動きが見えてくる。
年を重ねて、生きていることは罪か。老後に未来はないのか。
老後生きていくには2000万円が必要というニュースを見ながら将来2000万円を老後に持てる今の40代以下はどれぐらいいるだろうと考える。生きていくお金がないなら死ぬしかないのか。2000万円を持っていなくても生きていける世の中を作らなければいけないのではないか。
映画の中の老後を生きる人々に自分を重ねた。これから30年後の日本では、年金をもらえるのかもわからない。いつまで働けるだろうか、いつまで生きることを続けられるだろうか。
ミチが見つめた部屋の中の暗闇の怖さが身に沁みた。
この映画は私たちに警鐘を鳴らす。早川監督は観客側に静かに訴えかけてくる。
救いのない映画か。そうではない。
早川監督がラストシーンとして撮ったシーンは生きているからこそ味わえるシーンだ。
映像、音、役者の演技。素晴らしい。
最後までしっかりと観て欲しい。
映画『PLAN75』https://happinet-phantom.com/plan75/
は6月17日(金)より新宿ピカデリー他で全国公開。東海3県では6月17日(金)よりミッドランドスクエアシネマ、イオンシネマ(名古屋茶屋、桑名)、ユナイテッド・シネマ豊橋18、コロナシネマワールド(安城、小牧、大垣)、MOVIX三好、8月13日(土)より伊勢進富座で公開。
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