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日本初ARRIが機材提供。美しきふるさとの映像と音に触れ、自身を回顧する(映画『郷』小川夏果プロデューサーインタビュー)

数々の国際映画祭で評価を重ねてきた鹿児島出身の新進気鋭の伊地知拓郎監督が、構想から完成まで約10年かけて製作した映画『郷』が2026年1月9日(金)よりミッドランドスクエアシネマで公開される。

プロ野球選手を目指す高校球児・岳(がく)が野球部で人間社会の理不尽さや不条理に苦しみながら、自らの弱さと対峙する。挫折、葛藤を経験しながら、周りの人々との会話や再会を経て、新たに動き出す姿を描く。

日本初ARRI提供の映像機材による撮影を行い、日本、鹿児島というふるさとの自然とそこに生きる人の美しさを存分に捉えた。伊地知拓郎監督と北京電影学院監督学科で出会い、この作品でプロデューサーとして作品制作を担った小川夏果さんに伊地知監督との出会いや映画製作についてお話を伺った。

Q. 銀行員から女優業に戻られた後、突然「学びたい」という思いから北京に留学されたとのことですが、北京に行こうと決めた理由を教えてください。

小川夏果プロデューサー(以下、小川P)
「2019年5月に出演していた舞台(『信長の野望』の舞台化)がとても出たい舞台で、それに出られた後で「一旦休憩して、海外でチャレンジしてみたいな」という思いになりました。それで、アメリカかイギリスか中国に行くかを考えて、あえて自分に負荷をかけ、中国で中国語をマスターすれば、この先、3年後、5年後、10年後の未来がもっと広がると思ったんですね。また中国の映画産業が当時かなり伸びている状況だったので、それを自分の目で確かめたいという思いもあって、中国を選びました」

小川夏果プロデューサー

小川夏果プロデューサー

Q. その時点では中国語は全く話せない、ゼロの状態だったのですか?

小川P
「はい、全くゼロの状態で行きました。本当にやばいなと思ったんですが、覚悟を決めて行ったので、毎日朝から晩まで、寝ている時もずっと中国語を流して勉強していました」

Q. 伊地知監督とはどのような出会いがあったのですか?

小川P
「監督とは、知人の誕生日パーティーのような会で初めて会いました。最初はお互いに印象が良くなかったと思います。私は「小川夏果と申します」と日本語で挨拶したのですが、監督は日本語を絶対に喋らないと決めていたようで、私がいくら日本語を喋っても英語で返してくるので、すごく厳しそうな人だなと思いながら話していました。その後、大学で映画制作課題があった時に、突然監督から「小川さんに出てほしい作品があるんです」と連絡が来て、脚本を見せてもらいました。読んだ時に、すごくピュアで綺麗な文章を書くなという印象があって、「いいよ」とお返事して、お手伝いで出演しました。その撮影現場では、伊地知さんが監督だとは知りませんでした。というのも一人で録音のセッティングをして、ガンマイクを持って走り回っていたんです。完成したものを観た時に、自分の想像している以上の完成度の高さのものが出てきてびっくりして、最後にスタッフロールを見ると「監督」と書いてあったので、監督なんだと知りました」

Q. 監督の音へのこだわりは、その頃から強かったのですね。

小川P
「そうですね、昔から音にはかなりこだわっていました」

Q. 最初はプロデューサーを絶対にやりたくないとおっしゃっていたそうですが、初めての長編映画プロデュースに踏み切った具体的なきっかけは何ですか?

小川P
「私は女優としてプロデューサーの大変さを重々承知していたので、当初はプロデューサーをやる気は全くなく、「絶対にやりたくない」と言っていました。ちょうどコロナ禍で帰国していた鹿児島出身の伊地知監督が、「日本に知り合いがいないけれど、鹿児島で映画を作りたい」と連絡してきたので、助けてあげたいという思いで、スタッフやキャスト紹介などのお手伝いから始めました。半年ほど経った頃まで、監督から「この作品は小川さんにプロデューサーをしてほしい」「小川さんの生き方や性格はプロデューサーに向いている」とずっと言われ続け、「この作品だけは最初から最後まで責任を持ってやり通せるのは私しかいないのかな」と思い、引き受けることを決意しました」

Q. 銀行での営業経験など、今までの経験がプロデューサーの仕事に役立ったと感じることはありますか?

小川P
「全てが繋がったという感じがしました。銀行員時代は自分の夢ではないと感じていましたが、プロデューサーになって、あの時銀行で働いていてよかったと思えるようになりました。これまでの人との繋がりを活かすことができる職業なので、非常に役立っています」

Q. 福知山線脱線事故に遭われた経験から、命の尊さを伝える使命を持ったとのことですが、この使命感は、制作過程や作品が持つメッセージに具体的にどのように反映されていますか?

小川P
「元々、女優を目指した動機が「有名になったその先でいろんな人を助けたい」という思いでした。この映画の脚本と伊地知監督の制作理念を読んだ時、監督が日本の「子どもたちの精神的幸福度の低さ」に危機感を抱いていることを知り、私と目的が一緒だと強く感じました。この作品を通じて、命の尊さや生きる上での大切なメッセージを伝えたいという思いが、制作の原動力になっています」

Q. 本作の制作において、一般的な映画制作のようにディレクターが先に現地に入るのではなく、プロデューサーご自身が鹿児島に移り住む形になったのは、何かきっかけがあったのですか?

小川P
「住まないとできないと思いました。撮影期間もコロナ禍でとても長く続いて、1年半ぐらいずっと撮影していました。プロデューサーなのですが、現場ではずっと助監督のような動きもしていて、キャストさんと監督の仲介役をずっとしていたので、プロデューサーだからこうしなくてはいけないということが私の中にはなくて、何でもできることはやろうという気持ちで動いていました」

Q. 初期はカメラマンと監督と小川さんの3人で撮影されていたとのことですが、野球の素振りや公式戦のシーンで、たくさんキャストが参加しています。何十人分もの制服やユニフォームの準備は、誰がされたのですか?

小川P
「それも私です(笑)。スポーツ用品店を探したり、学校にお願いしたりしました。背番号を作ったり、皆さんの名前を一人一人字体を変えて手書きでユニフォームに書きました。でも私はそういう美術担当の作業が好きだったので、そんなに苦ではなかったです。ただ私の知識不足で「しまった」と思うことがありました。野球の公式戦と練習の時のユニフォームの白の種類が違うということを知らなくて。公式戦で綺麗な白のパンツを揃えてくれた学校さんがいたのですが、私が揃えていたユニフォームの上着の色が、練習試合で使うようなちょっと黄色みがかった白だったんですね。上は黄色みがかっていて、下が綺麗な白になってしまい、上下がちぐはぐになりそうだったのですが、その時に機転をきかせてくれた学校の先生が全部持って来てくださって助かりました」

©郷2025

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Q. 制作を通じて最も大変だったエピソードは何ですか?

小川P
「映画の中で最も大変だったのは、ほとんどが屋外での撮影で、特にマジックアワーを狙ったシーンが多かったことです。マジックアワーは一瞬で消え去るため、短い時間で撮影を完了させるのが非常に難しく、天気との勝負でした。実際に撮影した年の夏は、1ヶ月のうちに3日しか晴れの日がなかったため、その中での撮影は大変でした。完成後も劇場公開が決まらないなど、苦労がありました」

Q. 世界的な機材メーカーARRI(アーノルド&リヒター社)の企画プロジェクトで、アジア唯一のスポンサーシップを勝ち取り、3,000万円相当の機材提供を受けたとのことですが、どのような内容、どのような点が評価されたと思われますか?

小川P
「提供条件として、監督、プロデューサー、カメラマンのプロフィール、ARRIで撮った素材を送ってほしいということ、「なぜこの『郷』の企画がARRIの機材でないといけないのか」という思いを書くという課題もあり、合わせてそれを送りました。監督が「この作品の主役は人ではなくて自然だ。自然をいかに美しく撮れるかがこの企画の勝負だから、絶対にARRIがいい」と強くこだわっていました。最初はARRIの中古を探し、クラウドファンディングで資金を集めて購入して野球のシーンなどを撮影しました。その素材をプログラムに送ったところ、ARRIの本社の方が「すごく綺麗だ」「ARRIのことを理解して、ちゃんと映像に落とし込んでいる」と評価してくれました。私たちは日本人だけでなく、オーストラリア人や中国人など、グローバルなチームを組んでいたので、そこにARRIの方が「こんな面白い日本人のビデオメーカーがいる」「自然を美しく撮りたいという挑戦もすごく面白い」ということで選ばれたのだと思います」

Q. 「郷」というタイトルには故郷や郷愁の思いが込められているそうですが、今を生きる、未来を生きる上で、故郷や原風景が果たす大切な役割をどのようにお考えですか?

小川P
「私は転勤族で、自分にとっての故郷がないとずっと思っていました。しかし、鹿児島での撮影で自然と触れ合い、心が洗われる経験をして、自然と触れ合うことが人にとって大切だと強く感じました。故郷がなかったとしても、自然と触れ合うことで故郷を思うことができる。誰の心の中にも故郷はあるのではないかという思いを込めて「郷」というタイトルをつけました」

©郷2025

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Q. 制作の拠点を東京や海外ではなく、ご自身が移り住んだ鹿児島の地方に置いたことで、作品や、作品を世界に発信していく上で、どのような影響がありましたか?

小川P
「まず、鹿児島という地方で映画作りをすることで、地元の子どもたちや若い人たちが「鹿児島でもこういうことができるんだ」と希望を持ってくれるきっかけになっています。また、海外に作品を見せると、「日本=東京」というイメージが強い中で、「まだこんな美しい場所が日本に残っているんですね、新しい日本を発見した」という意見や、「これこそ日本らしい」という感想を多くいただいています」

Q. プロデューサーとして、地方での映画制作において、地元の方々の協力を得るためにどのような努力をされましたか?

小川P
「地方では、最初は「女性プロデューサーという怪しげな人が来た」という扱いもあり、協力を得ることは簡単ではありませんでした。住むことによって遊びでやっているわけではないという本気度と、どれだけ真剣に映画制作に取り組んでいるかを理解してもらうことが大事だと思いました。地元のためになるような活動をしながら、少しずつ理解を得て、今ではたくさんの方が応援してくださるようになりました」

Q. 伊地知監督は本作を「教育的な意味も込めて、子どもたちに見てほしい」という強い思いで作られたそうですが、文部科学省の選定映画に認定されるまでの経緯を教えてください。

小川P
「完成する前から監督は「学校向けに何かできないか」と、教育的な意味や子どもたちに見てほしいということをずっと話していました。ある方から文部科学省選定映画という制度があるというアドバイスをいただき、誰でも提出ができることを調べて知って提出したところ、認定をいただけました。監督の明確な思いが強かったことが、認定に繋がったと思います」

Q. 今後、プロデューサーとして、一人の女性として、どんな活動をしていきたいですか?

小川P
「まずは、この作品を世の中に出して、たくさんの人に届けることです。そして、次の作品、その次の作品と、色々な企画を鹿児島から作って発信できるよう、準備を進めています。また、特に地方では女性の立場の問題も感じており、自分の意見が言えなかったり、我慢して生きている方も多いので、そういった方のロールモデルになれるような人間になりたいと思っています」

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映画『郷』https://www.goumovie.com/ は2026年1⽉2⽇(金)より鹿児島ミッテ10にて先行公開、1⽉9⽇(金)より名古屋ミッドランドスクエアシネマほかで公開。

 

出演:
泉澤祐希 (ナレーション) 小川夏果
古矢航之介 阿部隼也 千歳ふみ

監督:伊地知拓郎
プロデューサー:⼩川夏果
製作:LETHEANY 機材提供:ARRI
配給:マイウェイムービーズ/ポルトレ
配給協力:MMCエンタテイメント/キネマ旬報
2024年|日本|カラー|ビスタ|5.1ch|日本語|93 分 映倫 G|©郷

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