映画『花緑青が明ける日に』名古屋ミッドランドスクエアシネマ2 四宮義俊監督Q&Aイベントレポート
日本画家としての活動を軸に、新海誠監督や片渕須直監督など名だたる監督のアニメーション作品に参加し、CMやミュージックビデオなどジャンルを超えて様々な創作活動を行ってきた四宮義俊が、自身のオリジナル脚本で描いた初の長編アニメーション監督作で、第76回ベルリン国際映画祭コンペティション部門に選出された映画『花緑青が明ける日に』が絶賛上映中だ。3月26日、名古屋ミッドランドスクエアシネマ2で四宮義俊監督Q&Aイベントが開催された。その様子を一部お届けする。
Q.名古屋でのイベントは初めてですが、街の印象はいかがですか?なごやめしは何が好きですか?
四宮監督
「僕は明治・大正・昭和初期の近代建築が大好きなんです。名古屋は明治村や愛知県庁、名古屋市役所、裁判所跡地(市政資料館)などが集まっていて、必ず行きたくなってしまいます。建物を見るには最高の環境ですね。なごやめしなら、やはりみそカツが好きです」

四宮義俊監督
Q.千太郎が酔ったシーンで風景がストップモーションになる演出が印象的でした。アナログアニメも実写も「カメラで撮る」という本質は同じだと感じましたが、どういった意図があったのでしょうか?
四宮監督
「今回は「花火職人」という、手仕事(アナログ)で表現する世界を描いています。僕自身が絵描きということもあり、全編に「人間の手の技」を散りばめたかったんです。今回は日仏共同製作で作っていまして、あそこはフランスのVictor Haegelinさんにお願いしています。チッチ(千太郎)の手がぐわっと入ってアニメーションに変わるシーンがありますが、あれは実はフランスの方の手なんです。ちょっと年齢違うかも?という手だったりします(笑)。大きな映画館で上映されているので、精度の高い工業製品のようにしっかり組み立てられて制作しているように思われますが、実際の現場では「あれはどうしよう、これはどうしよう」の連続で「じゃあ、あの人に手をやってもらおう」とその場にいる人を使うということがあったり、非常にスピード感がある中で撮影しています。そういった手仕事の現場感、現場の即興性のような勢いを画面に封じ込めたかったんです。その結果、無茶を通り越してあのシーンが存在しています」

©2025 A NEW DAWN Film Partners
Q. 「ポケットモンスター」や『言の葉の庭』のポスターなど、監督の作品には「緑」が印象的なものが多いと感じます。本作もタイトルに「緑」が入っていますが、色へのこだわりはありますか?
四宮監督
「そもそも好きな色ではあるのですが、日本画を描いていて「花鳥風月」を扱ってきた中で、動植物は避けて通れないテーマで、10代の頃から永遠に植物を描き続けた時期がありましたし、特別なものになっていきました。日本画では「群青」や「緑青(ろくしょう)」は非常に貴重で付加価値の高い色として扱われますが、日本画の世界を一歩出た時、周囲がその色を新鮮に捉えてくれることに気づき、そこに特化したいと思うようになりました。劇中の「水切り(水の中で花を切ること)」のシーンも、日本画や花を扱う人にとっては日常的ですが、制作スタッフには「水切り」と言っても何のことかわかりませんでした。それは観ている方も同じで、僕の植物に対するアプローチや距離感、色、扱い方を思った以上に観てくださった方に新鮮に感じていただいているのかなと思います」

©2025 A NEW DAWN Film Partners
Q.「花緑青」は鮮やかな青色ですが、今は花火には使えないものだと調べて知りました。このアイテムはどの段階で着想したのでしょうか。また、劇中のドライフラワーにはどのような意図がありますか?
四宮監督
「18歳の頃、日本画の絵の具の講義で「今は使われなくなった明治の色」として「花緑青」を教わりました。その後、花火の取材をしていた際に、花火屋さんも「昔あったハナロク」という言葉を使っているのを聞いて、花火の映画を作りたくてやりとりしている中で僕が聞いていた絵の具としての花緑と彼らの火薬が繋がったんです。この発見を物語に使いたいと閃きました。またタイトルも元々は『新しい夜明け(A New Dawn)』という仮題でしたが、話し合いの中で、読みにくいけれど印象に残る「花緑青」という言葉をタイトルに入れることになりました。ドライフラワーについては、4年後にカオルが帰ってきた時を見ると家の中で増えています。これは息子の敬太郎が間違いなく作っていると思っていて。父の植物への意思を敬太郎がわかっているか、わかっていないかは別として意思を継ごうとして無意識に続けていたのではないかと。制作上の都合をぶっちゃけると、天井が見えていると描きづらいんです。天井をドライフラワーで隠して作画のパーツの狂いをごまかせるという実用性もありました(笑)」

©2025 A NEW DAWN Film Partners
Q. 千太郎はなぜ「チッチ」と呼ばれているのでしょうか。また、故郷に対して弟ほどの熱量がなく悪役のようにも見えましたが、監督はどう捉えていますか?
四宮監督
「「チッチ」という響きは、僕の子どもが小さい頃、誰のこともそう呼んでいたことから着想しました。子どもにとって発音しやすい言葉なんです。また、登場人物の名前が「千太郎、榮太郎、敬太郎」と「太郎」続きなので、キャラクター三者三様の個性を引き出すためにあだ名を付けて呼ばせています。チッチが悪役に見えるという点ですが、彼は敬太郎とは真逆に成長して、ある種最低限の成功を収めている「一般人代表」としてのリアリティを持つ存在です。物語は敬太郎とチッチという正反対の兄弟が、お互いを認めていく過程を根幹に据えています。カオルがいるので、三人の関係で描いていますが、チッチと敬太郎がそれぞれ自己成長、実現した姿として存在しているという物語の構造があります。油断するとチッチが主人公みたいになりがちです。現実の社会と自分の家との狭間にいるのがチッチだったりするので、そこのバランスは結構難しかったかなと思いますね。敬太郎から見れば千太郎が「敵」に見えるのはしっかり観てくださったということだと思います」

©2025 A NEW DAWN Film Partners
Q.監督は本作の企画に10年かけられたそうですが、ご家族の反応はいかがでしたか?
四宮監督
「子どもが小さい頃にソーラーパネルを遠くから見て「あれは海?」と言ったのが物語の骨格の一部になりました。その子が今や中学生です。思春期なので感想を詳しく聞くのは控えていますが、随分時間がかかったなと感慨深いです」

Q.最後に観客の皆様に一言お願いいたします。
四宮監督
「公開から1カ月経ちましたが、今日のように皆さんと面と向かって感想や鋭い質問をいただけるのは本当に貴重な機会です。もしこの映画を気に入っていただけたら、ぜひ周りの方にも勧めていただけると嬉しいです。本日はありがとうございました」

映画『花緑青が明ける日に』https://hanaroku.asmik-ace.co.jp は現在公開中。
【ストーリー】
「その花火は、宇宙を切り取ったんだ――」
老舗の花火工場・帯刀煙火店は、町の再開発により立ち退きを迫られている。
そこで育った帯刀敬太郎(萩原利久)は、蒸発した父に代わり幻の花火<シュハリ>を完成させようと独りで奮闘していた。
夏の終わりの日、東京で暮らす幼馴染のカオル(古川琴音)が地元に戻ってきた。
敬太郎の兄で市役所に勤める千太郎から立ち退き期限が明日と知らされ、4 年ぶりの再会を果たす 3 人。
失われた時間と絆を取り戻すようにぶつかり合いながら、花火の完成と打ち上げを巡る驚きの計画を立てるのだが――。
幻の花火に託された希望と、その鍵を握る「花緑青」。火の粉が夜を照らし、新しい朝を迎えるとき、敬太郎たちが掴むそれぞれの未来とは?
【花緑青(はなろくしょう)】とは
燃やすと青くなる緑色の顔料。しかし、その美しさと引き換えに毒性を含むため、現在ではほとんど使用されなくなった。
映画『花緑青が明ける日に』
声の出演:
萩原利久 古川琴音
入野自由 岡部たかし
原作・脚本・監督:四宮義俊
主題歌:imase「青葉」(ユニバーサル ミュージック/Virgin Music)
キャラクターデザイン:うつした(南方研究所) 四宮義俊
作画監督:四宮義俊 浜口頌平 美術監督:四宮義俊 馬島亮子 音楽:蓮沼執太
色彩設計:四宮義俊 水野愛子 齋藤友子 岡崎菜々子 撮影監督:富崎杏奈
特殊映像:SUKIMAKI ANIMATION
ストップモーション映像:Victor Haegelin
CG ディレクター:佐々木康太郎
編集:内田 恵 音響監督:清水洋史
録音・調整:太田泰明
音響効果:中野勝博 音響制作:東北新社
アニメーションプロデューサー:藤尾 勉
製作:A NEW DAWN Film Partners
制作:アスミック・エース/スタジオアウトリガー/Miyu Productions
配給:アスミック・エース
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