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日本必敗を予測した若きエリート達。それでも戦争に突き進ませたものは何か。歴史的真実を基に迫真の演技陣が炙り出す「空気」の不気味さ 映画『開戦前夜』
真珠湾攻撃の8カ月前、日本の命運を託した「総力戦研究所」が存在した……猪瀬直樹氏の「昭和16年夏の敗戦」(中央公論新社刊)を原案として制作された映画『開戦前夜』が7月31日(金)から全国公開される。
あらすじ
1941(昭和16)年4月。日本中のエリートたちが集められた「総力戦研究所」という組織が存在していた。
官僚・軍・民間から選りすぐられた、次世代を担う“ベスト&ブライテスト” 。彼らに課せられた任務は、アメリカを中心とした諸外国との戦争の行方を「予測」すること。膨大なデータを積み上げ、苦しみと情熱の中でシミュレーションを繰り返した末、彼らが見たのは原爆投下以外のほぼすべてを的中させた、日本の「圧倒的な敗北」という衝撃のシナリオだった。
一発の弾丸も飛ばない知能の戦場―総力戦研究所
映画『開戦前夜』は2025年夏に放送され、大きな反響を呼んだNHKスペシャル「シミュレーション〜昭和16年夏の敗戦〜」のドラマパート完全版として映画化された作品だ。
石井裕也監督は、国立公文書館等に残る膨大な資料を紐解き、独自に創作した架空の人物像たちにこれを託すことで、歴史の過ちを単なる「過去の悲劇」としてではなく、現代の人間関係や組織にも通じる迫真のドラマとして構築した。
内閣総理大臣直轄の「総力戦研究所」に集められた官・民・軍の若きトップエリートたちが導き出した「日本必敗」の結論。歴史の闇に埋もれた「不都合な真実」に、主演の池松壮亮をはじめ豪華キャスト陣が渾身の演技で挑む。
若手実力派キャスト陣が繰り広げる言葉の戦場
本作の最大の魅力は、30代を中心とする若手キャストたちが一堂に会した「梁山泊」さながらの芝居の応酬にある。机上の駒を動かす密室劇でありながら、彼らの熱演によってまるで本物の戦場のようなヒリついた緊迫感が立ち込めている。
物語の軸となる民間金融機関出身の宇治田洋一を演じたのは、石井裕也監督作品で数々の複雑な役柄を体現してきた池松壮亮。模擬内閣の内閣総理大臣に任命され、当初は軍への反感からシミュレーションに消極的だった宇治田だが、計算が指し示す残酷な数字の裏に「国民の悲惨な未来」を見出し、命がけで「避戦」へと動き出していく。怒りと情熱が静かに爆発する宇治田を目の動きや息遣いで繊細に表現している。そんな宇治田の姿勢を当初は批判しながらも次第に良き理解者となっていく同盟通信社記者・樺島茂雄役を、大河ドラマ「豊臣兄弟」で池松と兄弟を演じる仲野太賀が熱演する。政治部記者らしい鋭い眼光と確かな滑舌で議論の欺瞞を突きつつ、宇治田との間に芽生える絆と心の葛藤を大胆に演じ、物語に大きな動きを与えている。

©2026 ポニーキャニオン/東京テアトル/NHKエンタープライズ/RIKIプロジェクト
議論の火花は軍部や省庁から派遣されたメンバーとの間でも激しく散る。海軍大学校を首席で卒業したエリート海軍少佐の村井和正役の岩田剛典、陸軍少佐の高城源一役の中村蒼、物価局事務官・峯岸草一役の三浦貴大らと経済データの分析を経て熱く議論する。またその他の総力戦研究所所員も演技派揃い。笠原秀幸、前野朋哉、堀家一希、長村航希らが緊迫した雰囲気や必敗という結論への確かなデータを分析する所員として総力戦研究所の雰囲気をがっちりと作り上げている。
国家の重圧と「空気」を体現する重厚な脇役陣
総力戦研究所所員を演じる若手の演技を受け止め、物語に深い重層性を与えているのは、日本映画界を代表するベテラン俳優陣だ。
開戦強硬派の象徴でありながら首相就任後は和平を模索したが、歴史の流れを止められなかった男・東條英機には佐藤浩市、特殊研究を提案した陸軍幹部・瀬古明には佐藤隆太。総力戦研究所のトップである板倉大道には國村隼。企画院総裁の鈴木貞一には嶋田久作、近衛文麿役には北村有起哉、木戸幸一役には奥田瑛二、昭和天皇役には松田龍平、軍部中枢と総力戦研究所を密かに行き来し、正確な情報への期待と改ざんへの懸念に揺れ動く陸軍中佐・西村良穂に江口洋介が扮している。実在の人物と架空の人物が存在するが、それぞれの立場や自己保身、探り合いがある中、彼らが作り出す時代全体の抗えない「空気」の異様さがあり、それは観客にもジリジリと伝わってくるだろう。

©2026 ポニーキャニオン/東京テアトル/NHKエンタープライズ/RIKIプロジェクト
また密室の議論の外側にいる人物として、夫を戦争で失った宇治田の妹・小百合役の二階堂ふみと、これから戦地に赴く弟・二郎役の杉田雷麟の存在感が際立つ。二人の姿は自分の力ではどうすることも出来ない大きな力の中で生き抜く人々の姿を映し出している。
データという完璧な「事実」を積み上げながらも、組織の忖度や自己保身、そして曖昧な「空気」によって破滅へと突き進んだ日本。勝てるという世の中の「空気」を生んだのは一体何だったのか。
実力派キャスト陣が魂を削り合って演じた本作『開戦前夜』は、単なる歴史劇の枠を超え、「今の私たちもまた、同じような「空気」の中で生きているのではないか」という強烈な問いを投げかけてくる。
敗戦から80年が経過した。戦争の歴史を繰り返さないために石井裕也監督が作品に込めた警鐘を感じずにはいられない。
映画『開戦前夜』https://kaisenzenya.com/ は7月31日(金)より全国ロードショー。
東海三県ではミッドランドスクエア シネマ、イオンシネマ(名古屋茶屋、岡崎、長久手、東員)、TOHOシネマズ(赤池、モレラ岐阜)、ミッドランドシネマ名古屋空港、MOVIX三好で7月31日(金)より、伊勢進富座で10/2(金)から公開。
日本語字幕付き上映はイオンシネマ(岡崎、東員)で8/10(月) 開催。
『開戦前夜』
出演:
池松壮亮
仲野太賀 岩田剛典 中村 蒼 三浦貴大 / 二階堂ふみ 杉田雷麟
北村有起哉 嶋田久作 中野英雄 渡辺いっけい 別所哲也 / 松田龍平 奥田瑛二 / 國村 隼
佐藤隆太 江口洋介 佐藤浩市
監督・脚本・編集:石井裕也
原案:猪瀬直樹「昭和 16 年夏の敗戦」中央公論新社
音楽:岩代太郎
制作統括:村上栄一 橋本 櫻 永井拓郎
制作:NHK エンタープライズ
制作プロダクション:RIKI プロジェクト
配給:東京テアトル
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