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SF映画の脚本 キャスティング 世界観を彩る特殊効果の秘密 『ブラックホールに願いを!』渡邉聡監督 × 『センターライン』『INTER::FACE 知能機械犯罪公訴部』下向拓生監督 スペシャル座談会(前編)
第一線の特撮現場で活躍している若手スタッフが集結!
新進気鋭の映像制作者集団「STUDIO MOVES」の初⻑編映画『ブラックホールに願いを!』が 12月6日(土)より池袋シネマ・ロサで現在公開中だ。全国順次公開が決定している。人工ブラックホールテロによって引き起こされる時間犯罪を描く本作は、三池崇史監督が主催する企画コンペ「カチンコ Project」にて優秀企画賞を受賞。2016年の企画開始から完成までに 8年間を費やし、ユネスコの世界文化遺産に登録されている端島(軍艦島)や、最先端の大型粒子加速器を有する高エネルギー加速器研究機構(KEK)などで本格的なロケを敢行。第一線の特撮現場の若手スタッフたちによる、誰も見たことのない迫真の特撮映像と力強いドラマによって描かれた空想特撮映画となっている。
2021年に行われた製作費のクラウドファンディングでは、開始 2 日で目標額を達成し、最終的に達成率 267%(1,602,833円)を記録。完成後には若手映画監督の登⻯⾨とされる『SKIP シティ国際 D シネマ映画祭 2025』にてワールドプレミア上映を果たした。
生まれてはじめてしゃべった言葉が「ゴジラ」だったという根っからの特撮オタクである渡邉監督は、幼少期からゴジラの監督を目指し続け、『シン・ゴジラ』から特撮現場に携わっており、8年越しの渾身作で⻑編映画デビューを飾る。
『ブラックホールに願いを!』公開を記念し、渡邉聡監督と脚本協力を務めた下向拓生監督とのスペシャル座談会が実現。下向拓生監督は『センターライン』で高く評価され、今年、近未来SFサスペンス『INTER::FACE 知能機械犯罪公訴部』を全国公開、12月26日からデジタルレンタル配信も開始される。圧倒的な熱量で自主製作の大作を撮り上げた渡邉監督と下向監督はどこで出会い、繋がってきたのか。『ブラックホールに願いを!』の世界観はどのように作られたのか。
たっぷりお話を伺った。(聞き手 Café mirage ライター 涼夏)
第一章
運命の出会い-「ライバル」としての衝撃
涼夏
「最初の直接的な出会いは、2018年の第3回四万十映画祭だったそうですね。渡邉監督は短編『メンタルスケッチ』を、下向監督は長編の『センターライン』を出品されていました」
渡邉聡監督(以後 渡邉監督)
「僕は朝一で上映された『センターライン』を観て、本当に度肝を抜かれました。自主映画で、登場人物の内面を描くような映画的なものではなく、本当のエンタメとして純粋に面白い映画が目の前に現れたことに、「負けた!」と心底思いました。上映が終わると同時に、僕は他の同行メンバーを置いて全力で走り、下向監督に「面白かったです!」と伝えたのを覚えています。その後、カフェで仲間とお茶をしながらずっと「『センターライン』は面白かった」「負けた」という話を何時間もしていました」

四万十映画祭にて左:下向監督、右:渡邉監督、中央は両監督作品に出演している星能豊
下向拓生監督(以後 下向監督)
「その後、福岡インディペンデント映画祭でもお会いして。その時は二人の作品に出演している吉見(茉莉奈)さんもいて。渡邉監督には『センターライン』の初期の頃から熱心に応援していただき、シネマロサの上映時に一緒にビラ配りもしていただきました」
涼夏
「その頃渡邉監督はもう脚本は書き始めていたんですか?」
渡邉監督
「下向監督との出会いは2018年なんですが、『ブラックホールに願いを!』の企画自体は2016年から動いていて、プロットを考えている期間のまさに最中だったんです。現状のストーリーにたどり着いたのが2019年です。ストーリーが決まってから下向監督にSFとしてどうすればいいのかを相談していました」
下向監督
「僕の記憶だと2回あって、1回目は『ブラックホールに願いを!』のプロットではない別のお話で、怪獣モノの内容だったかな。それを読んで感想を送ったりしていました。そこから1年ぐらい経って、あの時の企画がこうなりましたと連絡が来た時には撮影がもうほぼ終わっていたそうで。「撮影した分を繋いでみたけど、なんかイマイチで、数シーンの追撮部分だけで面白くなるかどうか、脚本を見てもらえませんか」という感じだったんですよ」
第二章
改稿を重ねた脚本と三幕構成、科学的リアリティの追求
涼夏
「下向監督は、撮影がほぼ終わっているその段階で、具体的に脚本協力として何を助言されたのでしょうか」
下向監督
「科学的な整合性や、物語の奥行きを出すための伏線の張り方について助言を求められました。私自身、仕事で蛍光インクや色彩工学に関わっていた時期があったので、作中で重要な役割を果たす「紫外線で発光する蛍光の仕組み」について、SFとして成立させるためのロジックやリアリティラインをどう設定すべきか、といった具体的な助言をしました」
涼夏
「フィクションの中のリアリティがお二人の作品にはふんだんにありますが、脚本の段階で設定を決めてからストーリーに仕立てるのでしょうか」
下向監督
「私の映画『INTER::FACE』はごく近未来の設定なので、今から何年後という世界をイメージして作っていました。なのですごく突飛な、今の技術の延長ではできなさそうなことは避けて、今の技術プラスもうちょっと条件が揃えば実現できるんじゃないかというラインを考えました」
渡邉監督
「『ブラックホールに願いを!』のストーリーが決まってからは科学的な勉強は色々自分なりにやりました。自分の場合は設定が先ではなく、まず撮影に対して、できるだけとにかくお金がかからない、予算的に負担のならないような方法論と演出を考えています。本作に関しても、立体映像やホログラフを出すという予定は一切なく、そういう想定で撮影していないものだったんですが、繋いでみた時に、未来っぽくないというか、SFっぽく見えないというか。世界観のリアリティラインが全然わからないところが問題として浮かんできたので、編集段階で急遽ホログラフを追加しました。ビルが壊れる特撮カットも最初は撮影する予定はなかったんですが、そういうカットがないと世界が崩壊している実感が湧かなかったので、途中で急遽追加で撮影しました」

下向監督
「ビルの爆発シーン大好きです。でも多分ストーリー設定上、重力が変わったとしてもビルが爆発することはないと思うんですよ(笑)。でもそんなことどうでもよくって、ただビルが爆発するその画だけでもうかっこいいし、まさに世界が崩壊するんだってことが真に伝わってくるから、いいんです」
涼夏
「映画は章立てされていて、面白い構成になっています。あの章を入れ替えたらまた違う見方になると思いながら拝見しました」
渡邉監督
「実は元々は短編のつもりで書いていて、その時から章立てしていました。今自分が物語のどこにいるか迷子になってしまうような構成だったので、ちゃんと巨大なボブル空間が現れて、ここからお話のメインがくるよ、ちゃんと見てね、と伝わるようにタイトルをつけました。アイデアとして気に入ったので、長編になっても残しました」
下向監督
「クリストファー・ノーラン監督に影響を受けたりされているんですか?」
渡邉監督
「ここまで『インター・ステラー』みたいな話を作っておいて恐縮なんですが、実は苦手で(笑)」
下向監督
「僕は結構ノーラン監督作品は好きなんですよ(笑)」
涼夏
「私は梶尾真治さんの「クロノス・ジョウンター」シリーズを読んだ後と似た感覚になりました。切なさも残ります。観る人によって思うことは違うだろうなと。撮影までに脚本はどれぐらい時間をかけて作ったのでしょうか」
渡邉監督
「脚本は、厳密な改稿数は不明ですが、少なくとも脚本のフォルダには600以上のデータがあります。最初は短編のつもりで撮影したのですが、繋いでみると「観客目線で見ると構成がわかりづらいな」と感じ、シド・フィールド(*)の脚本術やWikipediaを読み込んで、三幕構成を勉強し直し、構成を徹底的に組み直して、改めて撮影し直しました」
*ハリウッドで定着した三幕構成を確立した脚本家
下向監督
「僕もWikipediaで三幕構成を勉強しました。一番分かりやすかったですよね。ストーリーを第1幕、第2幕、第3幕の3つに分割する構成法なんですが、ストーリーのちょうど真ん中にミッドポイントというものがあると。ミッドポイントが来るまでは主人公達の行動はうまくいっていて、到達すると、実はそれが全部間違っていたという展開になるのがハリウッド式のやり方です。主人公たちが危機に陥り、その原因は、必ず主人公の行動にある、というのがミッドポイントです。『ブラックホールに願いを!』はもうそれがバチっとキマっていてすごく気持ちいいなと思います。わかりやすいし、ワクワクドキドキするし、素晴らしいなと思いましたね」
渡邉監督
「ありがとうございます。僕は『センターライン』の最初の10分間が本当に奇跡のように面白いと思っています。複雑な設定が一切説明的にならずスマートに描かれていて、ストレスなく物語に入れるのが本当に素晴らしい。それを目指しました」

渡邉聡監督
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