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リストラ担当者の苦悩から見る会社で働くということ(映画『ただ、やるべきことを』)
2月21日(土)から名古屋キネマ・ノイで上映される映画『ただ、やるべきことを』は、組織の論理と個人の良心の狭間で葛藤する労働者の姿を静かにしっかりと描いた作品だ。本作は第28回釜山国際映画祭でチャン・ソンボムが「今年の俳優賞」を受賞したほか、韓国の主要な独立映画祭の賞を席巻しており、新鋭パク・ホンジュン監督の長編デビュー作として大きな注目を集めている作品だ。
あらすじ
舞台は2016年の韓国。造船業界が深刻な不況に見舞われ、パク・クネ大統領の退陣を求める「ろうそくデモ」が激しさを増していた時期。漢陽重工業に入社して4年目のカン・ジュニは、人事チームへの異動と同時に、150人のリストラ対象者を選定する名簿作成の任務を命じられる。
上司のチョン・ギュフン部長から「会社を救うためのやむを得ない措置だ」と諭され、ジュニは自身の良心に蓋をして業務をこなそうとする。しかし、リストラの対象が絞り込まれていく中で、彼は前の部署の上司と親しい友人のどちらかを切り捨てなければならない過酷な状況に追い込まれていく。組織の一員として「やるべきこと」と、一人の人間として「やるべきこと」。ジュニは二つの感情の間を揺れ動く。

©Nareun Cinema/Myung Films Lab.
実際に造船所の人事部で働いた経験を持つパク・ホンジュン監督が自身の経験を元に書き上げた。会社の組織の一員でありながらリストラする側とリストラされる側に分かれた様々な立場の人々が登場し、リストラ対象者をどのように選別するか、そしてどんな退職勧告をするのかが詳細に描かれる。仕事が出来ても女性であることと学歴が理由でやりがいのある仕事をやらせてもらえないソン代理、人間関係を気にしてリストラの仕事をしない部長にもの申すイ・ドンウ次長、一回の失敗で自身の得意分野から遠ざけられ、リストラ対象になる人々、そして異動早々、人事の重みを知らないままリストラ対象者を選ぶことになったジュニは自身の大義と「やらなければいけないこと」に挟まれ苦悩の日々を送ることに。ジュニは会社からの融資で家を建てた。恋人との新たな未来に進もうとすれば、自身の大義を理由に今の立場と状況から逃げ出すことは絶対に出来ない。資本主義社会で働くということの厳しい現実がこの作品にはある。

©Nareun Cinema/Myung Films Lab.
作品のリアリティを支えているのは、実力派揃いのキャスト陣だ。人事チームに異動し、リストラ実行という重責を担うことになった主人公カン・ジュニを演じるのはチャン・ソンボム。実際に造船所の人事部で働いた経験を持つ監督の分身とも言える役どころを繊細に演じ、釜山国際映画祭で「今年の俳優賞」を受賞した。「会社への忠誠心」を誰よりも強く持ち、組織を守るために冷徹な判断を下す人事チーム長チョン・ギュフン部長にはキム・ドヨン。本作でソウル独立映画祭の「独立スター賞」を受賞しており、その圧倒的な存在感は本作の大きな見どころとなっている。ジュニの上司として共にリストラ業務にあたるイ・ドンウ次長には多くのドラマや映画で活躍するソ・ソッキュ。組織の中で淡々と任務をこなす中間管理職をリアルに体現している。ジュニが人事異動前に所属していた資材チームの上司チャン・イルソプ部長にはカン・ジュサン。リストラの嵐にさらされる現場の象徴的な存在として描かれる。ジュニが直面する倫理的な葛藤を浮き彫りにする重要な役割を果たしているジュニの婚約者ホン・ジェイはイ・ノアが演じている。

©Nareun Cinema/Myung Films Lab.
加害者の視点から描く労働の真実
仕事としてやるべきことは時に人としてやるべきことと矛盾する。リストラする側、される側。どちらも会社の被雇用者であることに変わりはなく、働く部署で最善を尽くそうと努力しているだけだ。解雇される側が会社と戦う姿を捉えた作品は沢山あるが、リストラを実行する側からの不況を描いている作品は珍しい。ドラマチックな演出はほぼなく、とても静かに進む。だが、その静かな映像が職場の閉塞感や、個人の尊厳が削られていく過程をより冷静に厳しく映し出す。会社のために仕事としてやるべきことを遂行すればするほど、自分自身の気持ちをすり減らしていく働き方は果たして正しい働き方なのか。組織の中でどう生きていくのが正しいのか。観る側に強く問う作品になっている。
映画『ただ、やるべきことを』https://worktodo-film.com/ は2月21日(土)より名古屋キネマ・ノイで公開。

©Nareun Cinema/Myung Films Lab.
『ただ、やるべきことを』
監督・脚本 パク・ホンジュン
出演 チャン・ソンボム ソ・ソッキュ キム・ドヨン キム・ヨンウン チャン・リウ イ・ノア カン・ジュサン キム・ナムヒ
製作:映画会社ナルン ミョンフィルムラボ
原題:해야 할 일 英題:Work to Do
日本語字幕:田中三紗子 配給・宣伝:太秦
【2023年|韓国|101分|アメリカンビスタ|5.1ch|DCP】
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