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映画『インビジブル ハーフ』西山将貴監督が語る「締め切りのない追求」が生んだ新感覚ホラー

14歳から独学で映像制作を始め、縦型短編ホラー『スマホラー!』で世界を驚かせた西山将貴監督。彼が6年の歳月をかけて完成させた初の長編監督作『インビジブル ハーフ』が、いよいよ7月31日(金)に全国公開を迎える。

ミックスルーツを持つ高校生のアイデンティティの葛藤を描いた本作は、ホラーでありながら、瑞々しい「青春映画」としての側面も強く併せ持つ。

今回、キャスト陣との知られざる撮影秘話、前例のない音響・音楽へのこだわり、映画作りの原点までじっくりとお話を伺った。

恐怖の先にある「ワクワク感」を届けたい

Q.西山監督のホラーへの深い愛と同時に、演出面での強いこだわりを随所に感じました。ホラー映画を撮る上で、監督が絶対に守っている演出のポリシーや基準はありますか

西山将貴監督(以下、西山監督):
「僕は元々ホラーが大好きで、いろんなホラーゲームや特に洋画のホラーに強い影響を受けてきました。僕の中で「ホラー」というジャンルは大きく2つにカテゴリー分けできると思っています。1つは、邦画の『リング』や『呪怨』に代表されるようなじわじわと恐怖が迫る「ゾクゾクする怖さ」。そしてもう1つが、ホラーゲームの『サイレントヒル』や『バイオハザード』をプレイしている時の、「立ち向かいたくなるワクワクする怖さ」です。「ゾンビは怖いけれど、倒して進みたい!」と思わせるあの感覚ですね。僕が映画として目指したいのは、まさにこの後者の「ワクワクする怖さ」なんです。今回の作品で言えば、正体不明の「透明な怪物」という脅威に対して、主人公たちがどう立ち向かい、どう乗り越えていくのか。観客の皆さんが一緒になってワクワクできるようなホラー作品にしたいという想いを常に核に置いて演出していました」

西山将貴監督

西山将貴監督

五感にアプローチする「映画を体験する」ということ

Q.前作の『スマホラー!』ではスマートフォンというデバイスを、今作では「イヤホンによる音の曇り」を効果的に使われています。ツールの選択や五感へのアプローチは新感覚ですね。どのように生まれるのでしょうか

西山監督:
「「ただ映画を観る」というだけでなく、「映画を通して体験する」に近い作品を作りたいという強い想いがあります。今回、劇中で「主人公がイヤホンをつけている間は世界の音が曇ったまま物語が進行する」という演出を取り入れました。これは映画音響の常識からすると非常にチャレンジングな試みでしたが、映画館という空間で体験した時に、最も観客に刺さる表現になり得ると確信していました」

ⒸTest 8 Pictures All Rights Reserved.

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Q.音の演出といえば、ホラー特有の「急に大音量が鳴る恐怖(ジャンプスケア)」の使い方も非常に独特でしたね

西山監督:
「実は、僕は映画館でホラーを観る時はジャンプスケアがあまり得意ではないんです。一番の理由は「騙された気持ちになるのが嫌だから」(笑)。さっきまで小さかったはずのドアを開ける音が、急に爆音で鳴るのって、演出としての“嘘”じゃないですか。どうにかして嘘をつかずに、観客を納得させた上で大きな音を鳴らせないかと考えた結果、たどり着いたのが「イヤホン」でした。登場人物がイヤホンをつけている設定なら、音が大きく鳴ることに必然性がありますし、逆にイヤホンを外した瞬間に「無音」になれば、それはそれで全く違うベクトルの恐怖が生まれる。「ジャンプスケアじゃないジャンプスケア」をいかに作るか。今後もホラーに限らず、「なぜこのジャンルにはこの定番演出があるんだろう?」という疑問に対して、自分なりの実験を繰り返しながら映画を作っていきたいですね」

手探りで駆け抜けた、若いキャスト陣との2週間

Q.ホラーとしての恐怖描写が際立つ一方で、本作には「青春映画」の空気感が漂っています。主演のシエラ璃砂さんや奥野みゆさんなど、若いキャストの皆さんとの現場はいかがでしたか?

西山監督:
「シエラ璃砂さんをはじめ、長編映画への出演がほぼ初めてというフレッシュなキャストが多い現場でした。そして僕自身も、これが初の長編映画。お互いに手探りの状態からスタートしたのですが、撮影初日にいきなり「透明な怪物に襲われるシーン」を持ってきたんです。これが結果的に大正解でした。最初の日に過酷なホラーシーンを共有したことで、「この映画はこういうテンション、こういう熱量で進んでいくんだ」という共通のゴールがチーム全体にしっかりと見えました。特にシエラさんは、画面には映らない「見えない怪物」と対峙するシーンが非常に長かったため、現場でミリ単位のすり合わせを重ねました。「今、ここに怪物がいて、これくらいのスピードで歩いて近づいてきています」と僕から細かく説明をさせてもらって。僕は長年VFXを扱ってきたので、頭の中で補完できるのですが、役者さんにとっては見えないものと戦うのは本当に大変なことですから、そこは丁寧に言葉を交わしました。全体の撮影期間はわずか2週間。長編映画としては異例の短さで、1カットの取りこぼしも許されない極限状態でしたが、俳優陣とスタッフの並外れた集中力があの映像を成立させてくれたと感謝しています」

ⒸTest 8 Pictures All Rights Reserved.

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【取材こぼれ話①:松山東雲高等学校でのロケ】
本作の主要な舞台となったのは、四国で最も古い歴史を持つ100年以上の歴史を刻むクリスチャンの学校「松山東雲高等学校」。現役の校舎や制服をそのまま借りて撮影が行われた。西山監督は「独特の建築構造や特殊な雰囲気が素晴らしく、非常に撮りがいがあった」と振り返る。

Q.奥野みゆさん演じる「あかり」というキャラクターも、物語のキーパーソンとして強烈な印象を残します。彼女のキャラクター設定はどのように深めていったのでしょうか

西山監督:
「あかりは「誰とでも仲良くなれるけれど、実は自分の本当に大切な核心部分は誰にも見せていない」という、非常に繊細で難しい立ち位置の女の子です。撮影前に奥野さんとは4、5回ほど稽古の時間を設けたのですが、毎回みっちり6時間ほどかけて話し合いました。「自分の周りにこういう人っていたよね」という僕の実体験をベースに話しつつ、奥野さん側からも「私の周りにはこういう発言をする子がいました」というリアルな意見をどんどん出してもらって、二人三脚でキャラクターの肉付けをしていきました。序盤のあかりが見せる絶妙なキャラクターの度合いやトーンは、奥野さん自身のアイデアから生まれた部分がかなり大きいです」

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「分かり合えない距離」を徹底した大人世代の描写

Q.本作では、若い世代の葛藤だけでなく、小沢まゆさんが演じる母親達、「親世代・大人世代」との間に漂う、ヒリヒリとした軋轢や距離感も大きなテーマになっています。親子関係の演出において意識されたことはありますか

西山監督:
「シエラさんと小沢まゆさんの親子関係について、撮影中にあえて変化させず、むしろ徹底して守り抜いたポリシーがあります。それは「分かり合えそうで、最後まで絶対に分かり合えない距離感」です。お芝居というのは、実力のある役者さんたちが長い時間向き合って感情を高めていくと、どうしても自然と心の距離が近づいて、映像的にもグッと関係性がしっかりと見えてしまいがちなんです。そこを僕はあえて「すいません、これ以上近づかないでください。もっと離れてください」と引き剥がす演出を徹底しました。というのも、本作で描きたかった大人の姿は、僕自身が「学生時代に感じていた大人の理不尽さや不気味さ」そのものだからです。大人になってから振り返れば、「ああ、あの時の先生や親の言葉って、実は優しさだったんだな」と理解できることもたくさんありますよね。でも、当事者である高校生の頃はそんな優しさには気づけない。今回はあえて、その「気づけなかった当時の大人の姿」のままでいてほしかったんです。だからキャストの皆さんには、いわゆる一般的な“大人の正解”の演技を1回すべて排除してもらい、ある種のファンタジーのような、冷徹で掴みどころのない大人像を作っていただきました」

唯一無二のチームが貫いた「締め切りのない」クオリティ

Q.VFXのCao Mojiさんや、音楽の堀本陸さんなど、初期の短編時代から苦楽を共にしてきたクリエイターたちが集結しています。このチームだからこそ到達できた「一番のこだわり」はどこにありますか?

西山監督:
「一番のこだわりは、答えとして正しいか分からないんですが「すべての工程において締め切りを設けない」ということでした。本当によくプロデューサーの坂本篤さんが許してくれたなと思います(笑)。締め切りがないからこそ、妥協のない実験を果てしなく続けることができました。結果として、プレテストの段階から数えると映像制作にも音響・音楽にも約4年という歳月を費やしています。CGに関しては、最初にCao Mojiさんと二人で近所の公園に行き、僕が怪物の動く真似をして、彼がそれをスマホで撮るという原始的なテストから始めて、2年間ずっとブラッシュアップを重ねました。さらに撮影が終わってからも、2年間ひたすらVFXの落とし込みを行っています」

Q.音楽に関しても、後半の壮絶なバトルシーンと楽曲のシンクロ率が凄まじいです

西山監督:
「音楽の堀本さんとは「和洋折衷のホラーサウンド」をテーマに掲げ、ベースは洋風のスタイリッシュなテンポでありながら、いかにコメディ調にせずに和楽器の不気味さを融合させるかという作業に3、4年をかけました。特にこだわった終盤のバトルシーンでは、映画のカットが変わる瞬間にジャストで音がはまるよう、曲のテンポやBPM(1分間あたりの拍数)をすべての映像のフレームに合わせて完全に構築しています。最後の最後には、堀本さんとスタジオにこもって「ここのドラムの1音だけ、4フレーム(約0.1秒)後ろにずらしてください」というレベルのやり取りをひたすら繰り返していました。この執念とも言える細部へのこだわりを通し切ることができたのは、やはり「締め切りを設けない」という贅沢な環境があったからこそだと思います」

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自身のふるさと・愛媛の海から世界へ

Q.初の長編映画のロケ地に、ご自身のふるさとである愛媛県松山市を選ばれた理由は?

西山監督:
「僕が14歳で初めて撮った自主制作の短編映画も、地元の愛媛の海が舞台でした。それから10年以上、東京や海外で経験を積んできましたが、やはり「初の長編映画」というのは監督にとって一生に一度しかなく、生涯残り続ける特別なものです。それならば、自分が最も美しさを知っていて、最も原体験が詰まっている場所で、自分のすべてを表現したいと思い、再び愛媛の海へと戻ってカメラを組みました。作中に出てくる海のワイドショットは、実は10代の頃に撮ったアングルとほとんど同じなんです。あの頃の「映画を撮りたい」というパッションと初期衝動をもう一度呼び起こすための挑戦でもありました」

【取材こぼれ話②:観客が愛さずにはいられないキャラクター「ニャン」】
作中で平澤瑠菜さんが演じ、強烈なインパクトを残すキャラクター・ニャン(猫歌)。

西山監督によると、脚本段階を遥かに超えて現場のスタッフや上映後の観客から「スピンオフを作ってほしい!」と熱烈なラブコールを受けているという。

監督は「スピンオフの具体的な予定は現時点ではありませんが、実は彼女のバックボーンや、エレナとは『見えている怪物の姿が違う』といった裏設定までかなり深く作り込んでいました。本編の尺の都合で泣く泣く削った部分が多いので、いつか何らかの形で彼女の物語も表現できたら嬉しいですね」と、笑顔でファンへの期待を覗かせた。

ⒸTest 8 Pictures All Rights Reserved.

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Q.これから映画館へ足を運ぶ観客の皆様へのメッセージをお願いします。

西山監督:
「この『インビジブル ハーフ』は、ミックスルーツを持つ高校生の女の子が、自身のアイデンティティと向き合い、最終的に「見えない怪物」と対峙していくホラー映画です。しかし同時に、それと同じくらい、彼女たちの揺れ動く心を切実に描いた「青春映画」でもあります。ホラー映画が大好きな方はもちろん、普段は怖くてホラーを観ないという方にも、ひとつの瑞々しいドラマとして必ず楽しんでいただける作品になっています。ぜひ、映画館という最高の暗闇と音響空間の中で、この物語を「体験」しに来てください」

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映画『インビジブル ハーフ』https://invisiblehalf-movie.com/ は7月31日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷他で全国公開。東海三県ではミッドランドスクエアシネマ、ユナイテッドシネマ(豊橋18、阿久比)で7月31日(金)より公開。

『インビジブル ハーフ』
出演:
シエラ 璃砂
奥野 みゆ 平澤 瑠菜
小沢 まゆ あゆみ 石井 亜未
大澤 由理 酒井 貴浩
監督・脚本・編集: 西⼭ 将貴
プロデューサー: 坂本 篤 共同プロデューサー: 鈴⽊ ⿓
エグゼクティブプロデューサー: 坂元 裕樹
撮影監督: 山本 周平 照明: ⿃内 宏⼆ 録⾳: 三⾨ 優介
美術: 西⽥ 頌⼦ 制作: 皆尾 裕 助監督: 芳賀 直之
衣装: 杉 雛乃 ヘアメイクアップ: 黒⽥ 菜々美 ⼀ノ宮 萌
特殊造形・キャラクターデザイン: 快歩
音楽: 堀本 陸 VFX: Cao Moji
後援: 愛媛県 / 松山市
助成:「エールラボえひめ」認定プロジェクト
製作:Test 8 Pictures
配給・宣伝:ギークピクチュアズ
2025 / 日本 / カラー / シネマスコープ / 5.1ch / 106分

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