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舞台に命を刻む者の、最期にして最高の輝き(映画『喝采』)

誰もが年を取り衰える。そして昨日まで出来ていたことが急に出来なくなることもある。記憶力と表現力を使って生きている役者にもこの運命は突然やってくる。
1月9日(金)から公開される映画『喝采』はある伝説的な女優を主人公に一人の女性の生き様を描いている。

あらすじ

ブロードウェイの第一線で活躍してきた伝説の大女優リリアン・ホールは、チェーホフの戯曲「桜の園」の公演を間近に控えていた。ところが稽古中に突然言葉を失うアクシデントに見舞われたリリアンは、医師から認知症を患っていることを告げられてしまう。それは引退勧告に等しいあまりにも残酷な現実だった。人生のすべてを舞台に捧げてきた彼女は、病気の事実を胸の奥底に押しとどめ、「桜の園」をやり遂げる決意をする。しかし病状は悪化の一途をたどり、現実と妄想の境目さえも曖昧になっていく。はたして誇り高き大女優は、キャリアのフィナーレを飾る舞台に立つことができるのだろうか……。

役者という職業はいくつになってもできる職業だ。しかし、それはある程度の記憶力を維持していればこそ。ブロードウェイで知らない人はいない大女優は認知症という表現者にとって最も残酷な病に直面しながらも、板(舞台)の上に立ちたいと強く願い、最後の舞台に挑む。

©️2024 Crazy Legs Features LLC

©️2024 Crazy Legs Features LLC

衰えゆく記憶と、消えない自負

アントン・チェーホフの名作「桜の園」のラネーフスカヤ夫人役という役者人生の集大成ともいえる大舞台を控えていたリリアン。稽古でもミスがない完璧主義者である彼女の稽古中の異変は、リリアン自身を一番困惑させる。昨日まで完璧に体に入っていたはずの台詞が、ふとした瞬間に霧のように消える。死んだ夫が目の前に現れ、追いかけるうちに道に迷う。リリアンは自分が輝いていられる場所を失う恐怖と、自分は絶対に今回の舞台をやり遂げられる女優だという自負を抱え、真実を隠して稽古に通うが、病の進行は日を追うごとに進んでいき、演出家、プロデューサーはリリアンを信じながらも、アンダースタディ(代役)を用意し始める。

リリアンのモデルはブロードウェイの伝説的な女優マリアン・セルデス。マリアンも晩年、認知症を患っていた。実際にマリアンに起こった状況を知る姪のエリザベス・セルデス・アナコーンが脚本を手がけ、ドラマに真実味を吹き込んでいる。本作は演劇界を舞台にしているが、演劇を愛する人はもちろん、親の老いに直面している世代、そして「自分らしくありたい」と願うすべての人に観て欲しい作品だ。

©️2024 Crazy Legs Features LLC

©️2024 Crazy Legs Features LLC

ジェシカ・ラングという「怪物」の演技

ブロードウェイの至宝と称される大女優リリアン・ホールを演じるのは、6度のノミネート、『トッツィー』や『ブルースカイ』で2度のアカデミー賞に輝いたジェシカ・ラング。彼女自身のキャリアと重なり合うかのようなリリアンという役において「完璧な大女優」と「認知症の女性」という二面性を、シームレスに行き来し、認知症によって自己が崩壊していく恐怖を抱えながら、それでも舞台に立ち続けようとする女優のプライドを凄まじいリアリティで体現。観る者を圧倒する。

リリアンと関わる人々も演技派揃いだ。リリアンの長年の友人であり、公私ともに彼女を支えるアシスタント・エディスを演じるのは映画『ミザリー』での狂気的な演技で知られるキャシー・ベイツ。本作では一転して、親友の病を最も近くで見守り、献身的に支える頼もしい相棒としての演技を見せている。リリアンの娘・マーガレットを演じるのは、リリー・レーブ。偉大な母のもとで育った娘としての葛藤と、それでも母を愛さずにはいられない複雑な思いを抱く姿が印象的だ。リリアンの隣人であり、彼女に安らぎを与えるタイを演じるのは、映画『007』シリーズのジェームズ・ボンド役で知られるピアース・ブロスナン。渋みを増した大人の色気と包容力を発揮し、一足先にリタイアした立場からリリアンを優しく見守る。「桜の園」の演出を手掛けるデヴィッドを演じているのは、Netflixの『真夜中のミサ』や数々のシェイクスピア劇への出演で知られる、知性派俳優ハミッシュ・リンクレイター。プロの演出家として「舞台を成立させなければならない」という冷徹な現実に直面しながら、伝説的な大女優リリアンを深く尊敬し、彼女の才能を信じ抜こうとリリアンと接していく。

©️2024 Crazy Legs Features LLC

©️2024 Crazy Legs Features LLC

劇中で描かれる舞台「櫻の園」でラネーフスカヤ夫人は自身が所有する桜の園を手放し、パリに旅立つ。
それはリリアンが役者人生に自ら終止符を打ち、人生の終章へ踏み出す姿に重なる。舞台を降り、また新たな生活へ。観客からの喝采は新たな道を進むリリアンへの一番のはなむけになる。

映画『喝采』https://lillianhall.ayapro.ne.jp/
はTOHOシネマズシャンテ他で全国公開中。
東海三県では1月10日(土)よりナゴヤキネマ・ノイで公開、ミッドランドシネマ名古屋空港、ユナイテッド・シネマ(豊橋18、岡崎、稲沢、阿久比)、109シネマズ明和で現在公開中、2月7日(土)より岐阜CINEXで公開。

映画『喝采』
監督:マイケル・クリストファー
脚本:エリザベス・セルデス・アナコーン
撮影:サイモン・デニス
出演:ジェシカ・ラング、キャシー・ベイツ、リリー・レーブ、ジェシー・ウィリアムズ、ピアース・ブロスナン
2024/アメリカ/英語/スコープサイズ/110分/原題:THE GREAT LILLIAN HALL/字幕翻訳:額賀深雪/配給:彩プロ
©️2024 Crazy Legs Features LLC

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