
娘が回し続けたカメラが捉えた夫婦の姿(映画『ぼけますから、よろしくお願いします。~おかえり、お母さん』)
2018年に動員20万人を超える大ヒットを記録した『ぼけますから、よろしくお願いします。』
SNSや口コミで評判が広がり、映画館だけではなく、地方の文化ホールでの上映も満員となる勢いで、令和元年度文化庁映画賞、文化記録映画大賞を受賞するなど、高い評価を得た。
泣き笑いがあったこの作品を観終わった後、これから二人はどうなるのだろう。と思った人もいるのではないだろうか。
あれからも実は娘のカメラは回っていた。
日本中を深い感動で包んだあの物語には続きがあるのだ。
公開から4年。待望の続編が、ついに完成した。
あらすじ
東京で働くひとり娘の「私」(監督・信友直子)は、広島県呉市に暮らす90代の両親を1作目完成後も撮り続けた。
2018年。父は家事全般を取り仕切れるまでになり日々奮闘しているが、母の認知症はさらに進行し、ついに脳梗塞を発症、入院生活が始まる。外出時には手押し車が欠かせない父だったが、毎日1時間かけて母に面会するため足を運び、母を励まし続け、いつか母が帰ってくるときのためにと98歳にして筋トレを始める。その後、一時は歩けるまでに回復した母だったが新たな脳梗塞が見つかり、病状は深刻さを極めていく。そんな中、2020年3月に新型コロナの感染が世界的に拡大。病院の面会すら困難な状況が訪れる。
それからの二人はどうなった?
今回は前作で始まった父が母の面倒をみる生活のその後を描いているが、一作目を観ていない方にもわかるように今までの二人もしっかりと収められた。
前作で描かれた部分からの続きには、さらに父の母への愛がつまっている。映画が公開されて観にいく父の様子、容態が思わしくなく入院した母の元に毎日駆けつける姿、何より自分が元気で生きようと体力づくりをする父の姿に感動する。
娘に頼らず、90代という高齢で老老介護をする父の姿に高齢化社会の問題を映しながらも、なんと素敵な夫婦なのだろうと心が熱くなる。
娘としての立場、監督として事態を冷静に捉えなければならない立場だった信友監督の胸中を慮ると複雑ではあるが、冷静に捉えるもうひとりの自分がいたからこそ、実の両親の素敵な夫婦の在り方をカメラに収め、必ずいつかは来るその日を自分の中でしっかりと迎えることが出来たのかもしれない。
いつか来るその日をわかってはいるが、果たしてしっかりと心構えを持って迎えることが出来るのかとまた前作とは違う涙を流しながらこの映画を観た。
映画『ぼけますから、よろしくお願いします。~おかえり、お母さん』https://bokemasu.com/ は3月25日(金)より全国順次公開。
東海3県では伏見ミリオン座、ミッドランドスクエアシネマ、イオンシネマ豊田KiTARAで3月25日(金)より、三重 イオンシネマ津で4月1日(金)、岐阜 岐阜CINEXで4月16日(土)より公開。
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