天に伝える星の神楽を繋げる人々(映画『銀鏡 SHIROMI』)
2022/03/25
宮崎県西都市銀鏡。銀鏡と書いて「しろみ」と読む。
この地に500年以上続く銀鏡神楽がある。
神楽とは神事において神に奉納するため奏される歌舞で日本全国それぞれの場所で独自の文化になっているものもある。
銀鏡神楽は「星の神楽」と呼ばれ、真冬の夜空に瞬く星の下、古来より伝わる舞が執り行われる。
西都市は、宮崎県の県央地域に位置する市で、日本最大級の古墳群である国の特別史跡・西都原古墳群や、日向国主伊東氏の居城都於郡城で知られる歴史ある市だ。その中の銀鏡集落は市内からも車でかなり山奥に入った集落。銀鏡神楽は宮崎県の神楽で一番はじめに国の重要無形民俗文化財に指定された。
この銀鏡神楽に写真家でもある赤阪友昭監督が密着したドキュメンタリー『銀鏡 SHIROMI』は神楽の意義と、神楽を舞う人々の日々の生活の両方を捉える。
限界集落で存続していく人と人とのつながりの強さ
まちの生活を支える店は一店舗、診療所には医者が週に二回しかこないという「ポツンと一軒家」に出てきそうな限界集落だが、銀鏡には柚子や唐辛子を生産し加工までを担う会社をつくることで雇用を生み出し、村に住み続けて神楽を守ろうとする銀鏡の人々がいる。山村留学などの活動を経て、若者たちの移住も増え、様々な年代層の人が生活している。過疎化を防ぐモデルケース的な存在でもある。その中で神楽は若い者達が年輩者達から習い、引き継がれている。銀鏡には現代の都会にはない地縁、人々の強い繋がりがある。

ドキュメンタリー前半では祭りに関わる人々の普段の生活「ケ」が描かれている。自然は美しいだけではなく恐ろしいものであること、時に味方になり、敵になることがひしひしと今でも感じられる銀鏡の地で生きる人々の生活からは日常の中でも八百万の神、自然への感謝がある。
神楽に関わる人たちにインタビューした内容を聞いていると、アニミズム信仰や、狩猟文化、八百万の神への信仰と様々な信仰が重なって伝えられてきたものであることがわかる。様々な思想を受容して生きてきた日本人の先祖から伝わる日本固有の文化だ。伝統を伝えながらも、時代に応じて変化しているということも見えてくる。昔のままの伝統が形を変えて来ているとはいえ、ここまで続いているということは素晴らしい。神楽の歴史を嬉々として語る老人は自分が死んだらもう誰も知らなくなってしまうという謡をカメラに向けて残す。受け継いだ若い世代は昔に比べて時間の流れが速くなっていて、昔と同じように準備するのは難しいと話しながら、文明の力も使いつつ、準備していく。伝統の重みを感じながら一所懸命に準備している姿が映し出される。
神楽に思いを込めて
後半では夜から明け方に舞われるいくつもの神楽と、神楽に関わる人々を描く。「ハレ」の日を迎えた人々は普段の表情とは違う表情を見せる。神と共に踊る者、拍子を刻む者たちによる神楽は光る星へと捧げられる。そこには神々や先人たちへの感謝の思いが込められている。ひとつひとつの舞に天への力が感じられるだろう。

銀鏡神楽という伝統、そして自然と共存して生きる。忘れてしまった日本の心が残る場所。
銀鏡という魅力的な集落の姿がここにはある。
神楽とともに生きる人たちから自分たちが生かされているという感謝の気持ちを学ぶことができる作品だ。
映画『銀鏡 SHIROMI』https://shiromi-movie.com/ は3月25日(金)より名古屋 名演小劇場で公開。3月27日 (日)に赤阪監督の舞台挨拶が予定されている。
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