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映画『高津川』甲本雅裕さん、錦織良成監督インタビュー

高津川流域で生きる人々を描いた映画『高津川』。
先日、まだこの作品のレビューを書いたばかりなのだが、
名演小劇場での名古屋公開記念舞台挨拶に登壇した主演の甲本雅裕さん、錦織良成監督にお話を伺うことが出来た。

『高津川』レビューはこちら

コロナ禍を経て4年越しの公開

Q.コロナ禍を経ていよいよ公開ですね。

錦織良成監督(以下 錦織監督)
「嬉しいしかないですね」

甲本雅裕さん(以下 甲本さん)
「「やっと」という思いもありますし、「いよいよ」という思いもありますし、公開できるという事実自体がありがたいなという思いでいっぱいです」

錦織監督
「今までいろんな映画を作って公開準備もしてきましたが、まさか途中で止まるなんて思っていませんし、何気なくやっていた映画作りではなく、みんなで一生懸命作っているんですが、普通に公開されて、こうやって取材を受けるということが、当たり前ではなかったのだと今さらながら思いましたね」

Q.撮影はいつだったんでしょうか。

錦織監督
「2018年です。4年越しの公開になりました。企画自体はもっと前です。僕が生まれたのは島根県の出雲市。この映画の作品の舞台までは出雲から車で3時間ほど西に下がって、ほぼ山口県が近い場所なんですね。そこの土地の方から「いつも出雲とか松江とか隠岐とかで撮影しているけど、こっちに来て映画を撮りませんか?」と言われたのが10年ほど前です。それからずっと考えていて、一級河川で一つもダムのない高津川という川に出会いまして。なぜこの川が有名じゃないんだろう?って思ったんです。それにびっくりして。これは映画にできるんじゃないかなと考えました。ご当地映画に括られがちな映画ですが、そうじゃなくて日本のどこにでもある一級河川、でもダムは一個もないのはここだけ、ここでこんなに素敵な暮らしをしている人たちがいるということで何気ない物語が出来ないかと考えていった結果、企画からだと10年越しの映画になりました」

Q.10年越しというのは相当長いですね。

錦織監督
「甲本さんとの出会いも十数年前なんですけど、いつかというか今すぐにでも主演が出来るぐらいのものすごい俳優さんなので、僕の映画にいつか主演で出演してほしいとずっと言っていたんです。僕の映画には観光地は出てこない。そういう映画作りはずっとしてこなかったので、まちから依頼があったからそこに乗っかって映画を作るのではなくて、どうしても自分の中からここで映画を作るんだというテーマが出てくるまでは映画が撮れなかったんですね。やっと撮ろうと思って、取り掛かったのが2018年だったんです」

Q.甲本さんも錦織監督の作品に多数出演されていますね。『ミラクルバナナ』(2006)からでしたか?

甲本さん
「そうですね」

錦織監督
「甲本さんと初めて出会ったのは名古屋だったんですよ」

甲本さん
「名古屋で1日ロケをするというのに参加させてもらったのが出会いなんです」

錦織監督
「あの時も甲本さんがいいねという話になって出ていただいて。1シーンだけなんです。面接官の役でセリフも本当に少ないんですが快く出演していただいて、そこから何本も出て頂いたんです」

甲本さん
「今回が7本目ですね」

Q.ではいよいよ甲本さん主演で撮影となったわけですね。

錦織監督
「甲本さんだからこその難しい役、甲本さんだったら演ってもらえるんじゃないかなと甲本さんを頭に思い浮かべながら書いた台本です」

Q.監督からでは今回は主演でということでお話があったんですね

甲本さん
「決定稿の前にある準備稿が届いて、マネジャーにまず読んで欲しいと言われたんですね。紙に印刷されているわけでもなくまだデータだったので、スマホで読んで、読み終わった時に主役って気づいたんです。マネジャーに「これ、僕が主役じゃない?」と聞いたら「そうですよ」という感じで(笑)。もちろん主役をやるという目標で役者をやってきたわけではないですが、主演に抜擢してもらえるということはありがたいことですし、マネジャーもそれはわかっていると思うんですが、きっとマネジャー的にはシンプルにこの台本を読んでほしかったんだろうという思いを感じました。この作品を読み終わった時に自分が主役だと気づきましたけど、知らないまま読むことでこの『高津川』という映画の全貌を感じられたので、2つ返事でお受けしました」

Q.主人公は学ですが、他の人物の生活もしっかり描かれた作品になっていると思います。

甲本さん
「この作品は主人公である学という人がどれだけいろんなものを見ているか、いろんな人の話を聞いているかが本当に大切な物語なので自分から何かを話しかけていくのではなくて、人が何を思っているのかを聞いて、預かっている役どころだなとすごく感じたんですね。そういう意味での主役というのが僕的にはすごく嬉しかったですね。せっかくだったら前に出ていく主役よりも一歩下がったり、じっとしていることで何を魅せることが出来るだろうということを自分で考えられたので苦しかったですけど、楽しかったです」

錦織監督
「セリフの量だけ見るとわからないんですよ。できた準備稿をとにかく甲本さんに読んでいただきたいと思って一番初めにお渡ししたんです。パソコンで打ったばかりで、ト書きもそんなに多くないですし、セリフだけ見ていると誰が主役かわからない人もいるかもしれないです」

甲本さん
「登場人物の説明も書かれてなかったですしね。マネジャーからは「学という役名のものを読んでください」とだけ言われて読みましたから」

錦織監督
「それを読んで「ああ主役じゃないか」と思ったと甲本さんがいろんな取材でお話されているのを聞いて、やっぱり甲本さんだからわかったんだなと。7本目ですし、どう描くんだろうなというのがある程度その準備稿で想像がついたんんだと思います。この映画は主役にずっとアップがいく、主役以外の人にはフォーカスされない、声が聞こえないという映画ではない、何回見ても印象が違うという感想を聞くと甲本さんに上手く演じていただけたなと思うんです」

Q.高津川が流れるあの土地にずっと住んでいるような、なじんだ感じでしたよね

甲本さん
「そう見えたのは僕が演じようとするのではなくて、高津川のあの環境が自然にそうさせてくれていたんです。このまま自然体のままでいればいいのかなと思えて。もちろん体内ではいろんな芝居を考えていますけど、自然との付き合いだったり、住んでいる人との付き合いだったりというものがこの映画の全てで、人もそうですけど急激に仲良くなろうとすると妙に遠ざかったりとかするじゃないですか。この映画では自然な歩みで行けばいいのかなと思ったんですね」

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地元の方と接して分かったとてもシンプルなこと

Q.撮影中は2018年ごろなので現地に宿泊されて、地元の方との交流もあったんですか?

甲本さん
「撮影中はずっと島根というか益田市のあたりからは出ませんでした。地元の方との交流はありましたね。この映画自体が言ってみれば何もない映画なんですが、そこにある日、何かが見えてきて、こんなこともあったんだとそれまで気づいていなかったことに、小さなことでもふと気づけてとてつもなく嬉しかったりとかすることがたくさんあって。撮影がない日もこの映画の中にいるようだなと思って過ごしていました」

錦織監督
「俳優さん達との共同作業で映画を作っていくんですが、甲本さんがそれを一番わかっている方で、誰が主役で誰が脇役でとか、そういうのがわかってしまったらこの映画は大失敗なんですよ。チェーホフの「わが町」という戯曲みたいに出てくる人がみんな主役。もちろんセリフの数や出演するシーン数で主役だ脇役だと映画業界では言いますが、でも物語ってみんなが主役でなければ成立しません。誰かがヒーローで誰かが脇ですという映画ではこういう映画は絶対に成立しないんです。大変満足しているところは、甲本さんがそれをはじめからわかっていて、東京に帰ったら、東京の空気を背負ってしまったらまた元に戻すのに時間がかかってしまうんだと言われていたんですね。そういった繊細な役作りをしてくれていましたので、安心して現場は他のことに注力できるといいますか、演出というものがあるといえば、この映画は甲本さんを主役にしたことでほぼ軸は決まっていたのかなと思います」

Q.今回そんなに島根の方言を感じなかったような気もしているのですが…

錦織監督
「出雲弁とはまた違うんですよ。岡山弁とか広島弁に近いです。なので甲本さんや戸田さんは普通に話している感じですね」

甲本さん
「台本にも方言はそんなに書かれているわけではないので、その辺りは自由なんですよ。やってくれとも言われなかったので、演者同士が地元の方に聞いて自分たちで作っているんです。そのナチュラルさを監督が切り取ってくれたんですね。方言でないといけないと監督に指定はされなかったので役者がそこにいるうちに、せっかくだからここに住んでいる方たちの空気感でいたいなと僕も他の役者も思うので、聞いて作って、監督に見せてそのまま採用されるという」

錦織監督
「失敗したわけではないんですが『白い船』という映画を撮った時に、10代から40代までのそれぞれの出雲弁を地元の方に話してもらって録ったものを聞いて覚えてもらおうとしたんですが、うまく行かなかったのでフリーにしています。なぜならば50代でも標準語に近い人もいますし、テレビが普及しているので若い方だとあまり出ないんですね。70代ぐらいの人だと結構出雲弁を話しますが、それとも石見弁は全く違うんですよ。違う国のような方言になります。むしろ広島弁に近い。でも広島弁に近い話し方をしている人もいますし、岡山弁に近い方もいますし、標準語に近い方もいますし、出雲弁を話している人もいますし。とにかく10人が10人とも話し方が違うんですね。この地方の言葉がこうだというものがなくなってきているんですよ。30代、40代ぐらいだと標準語に近いので、セリフとしての方言はやめようと。地元の方と話す中で甲本さん達が語尾を研究されて。戸田菜穂さんは広島弁とどこが違うんだろうと研究されていましたね。語尾がちょっと違うみたいで、それ以外はほぼ広島弁と一緒、山口弁にも近いのかも…ということもあり、言語学者でもないので甲本さんや戸田さんは中国地方ご出身で石見弁も近いのでその辺りはお任せしてうまく行った感じです。むしろ自然体でした」

Q.高津川もすばらしいですよね。川が映しだされるシーンでもとても癒されました。

錦織監督
「この作品を作った時には今のこんな状態ではなかったんです。コロナ禍もなく、ウクライナ情勢も先日の地震も心配ですよね。何か刺激が欲しいから映画を観に行くという方もいると思いますが、この作品は非日常よりも日常を愛でる映画です。公開が遅れましたが、より今公開できてよかったなと思っています」

甲本さん
「コロナ禍があったからこそ、日々日常にあった刺激を感じられたような気がすごく僕はしていて、コロナ禍が自分の中でスキルアップの時間だったと思います。いろんなことでやれたこともやれなかったこともあったんですが、総合的に見てスキルアップだった気がするんですね」

Q.錦織監督もコロナ禍で製作がとまっている状態でしたか?

錦織監督
「そうです。完全に1年半は脚本を書いたり、企画を考えたりしているんですが、だからといってすぐ作ろうという声もないですし、俳優さん達も大変ですが、スタッフも大変で。ただ僕らも大変ですが、世の中の皆さんも大変です。今ニュースを見ているとヨーロッパの方たちも大変なんですけど、全員がウクライナの人たちに比べたら大変じゃないと言われる。それは僕たちも同じ気持ちだなと思っているんです。映画はなくても生きていけるんですが、だけど、その中でやっぱり「あってよかったね」と言ってもらえる映画作りを作り手である僕らは俳優さん達の力を借りてもっともっとしたくなりましたね」

Q.石見神楽も伝承していく文化として登場してきます

甲本さん
「この映画を通して初めて出会ったんです。伝承している人たちと交わって映画を作ることが出来ました。その人たちの思いやどういう気持ちで神楽を続けていけるのかとかということが分かった時に、周りから見ているといろんなことに対してそうですが、すごく敷居が高いものだろうなとか、苦労もたくさんあるんだろうなと思うじゃないですか。単純に言われたのが「好きだからやっているんですよ」。このひと言がジーンと来ましたね。自分も好きで役者をやっていると。だからみんながそうであったらなんか平和になる気がするんですよね。神事ごとだから何かを重んじなければいけないと気をつけながらやっていると思っていますが、それは当たり前であって、向かうエネルギーは何が必要かと言えば、好きであるという気持ちからしか出ないという。ああ、そうだよなと。僕が複雑に考えすぎていたことをシンプルにさせてくれました。素敵な出会いでした」

Q.これから観る方にひと言メッセージをお願いします

錦織監督
「何気なく僕たちは生活していますが、日々の生活に疲れた方、不安だなと思っていらっしゃる方がいらっしゃいましたら、もしかしたらこの映画が少しでも一助になれるかもしれません。そんな大げさなことではないかもしれないですが、俳優さんやスタッフ、何よりも多くの協力者の方たちと柔らかくがっちりとスクラムを組んで作りましたので、観ていただくと何かを感じていただけると思います。よろしくお願いいたします」

甲本さん
「本当に何もない映画ですが、何もない映画ではないのでぜひ観ていただきたいです。よろしくお願いいたします」

左:甲本雅裕さん 右:錦織良成監督

左:甲本雅裕さん 右:錦織良成監督

映画『高津川』https://takatsugawa-movie.jp/ は3月18日(金)より愛知 名演小劇場で公開中。4月9日より三重 伊勢進富座で公開。

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