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太宰治の名作が再び映画化(映画『鳩のごとく 蛇のごとく 斜陽』)
2022/11/04
太宰治。戦後、流星のごとく現れ、数々の傑作小説を生み出し早逝した天才作家である。38歳の若さでこの世を去った太宰は自身で作品を生み出す中で複数回の自殺未遂や薬物中毒を起こした。そんな破滅型の本人のキャラクターにも注目が集まり、太宰治コーナーが設置されている書店も多い。令和になった今でも太宰と彼が描いた人物達の生き様は愛され続けている。
太宰治が名を知らしめた作品『斜陽』が再び映像化。映画『鳩のごとく 蛇のごとく 斜陽』が11/4(金)より全国ロードショー公開される。
あらすじ
太平洋戦争が終わった昭和20年、当主である父を失い、没落貴族となったかず子と母・都貴子は東京の実家を売って西伊豆で暮らすことになった。かず子は隣の農夫・茂助から畑仕事を教えてもらい、新しい生活を始める。戦地から弟の直治が帰国するとの知らせが入ると、母は家族が三人になればさらに生活が苦しくなるので、かず子に再婚相手を探している歳の離れた資産家に嫁いだらどうかと話す。激しい口論の末、激怒したかず子は6年前の出来事を想い出した。まだ学生だった直治が師匠と仰ぐ中年作家、上原二郎との出会いはかず子にとって一夜の恋心の目覚めであり、ずっと秘め事として自分の心に閉じ込めていた感情だった。
帰国した直治は東京の上原の元へと早々と出かけてしまう。かず子は弟の荒れた生活を止めさせる為に東京へ向かい、上原と再会することになる。かず子の中で秘めてきた思いが再び動き始める。
主演は映画初出演で主演・宮本茉由
監督は大映作品で巨匠たちの助監督として多数の作品に参加してきた近藤明男。1972年の大映倒産後に元大映の名プロデューサー・藤井浩明のもと、脚本家・白坂依志夫と監督・増村保造の2人が書いた脚本で映画化出来ていなかった幻の企画をベースに近藤監督自ら加筆。自身の闘病、コロナ禍を経て、5年以上の歳月をかけて作品を完成させた。
華族の娘としての上品さもありながら、自立し、自由に生きたいと考えるかず子には映画初出演にして主演を射止めた宮本茉由、かず子の弟・直治には奥野壮が抜擢された。かず子が思いを寄せる作家・上原には安藤政信、家とお金もなくしても、華族としての誇りと優しさを忘れない華族の中の華族として育った女性、かず子の母・都貴子には水野真紀。その他、萬田久子、田中健、柄本明、細川直美、三上寛と演技派が揃い、作品の世界を作り上げている。
没落貴族の娘、その母、街の居酒屋や市場で店を切り盛りする女店主、自身の体を売る女性達。戦後復興のエネルギー溢れる時代の中で生きる女性達の前向きで意志の強さを感じることが出来る作品だが、一方で、人気作家になった上原や、戦地から帰ってきた直治には変われない自分への憤り、社会への絶望からくる厭世的な面が現れている。
かず子はとにかく自分の気持ちに正直だ。妻帯者である上原に自身の思いをぶつけに行く。そして、自分の理想を実現する力がある。戦後、まだ女性の地位が高くない時期にこの選択をした彼女の強さ。「斜陽」には太宰自身の経験や、太宰が出会った太田治子の経験が反映されているという。太宰は太田治子に何を見ていたのだろう。したたかであり、凜として美しい。宮本茉由が演じるかず子には元華族というレッテルを自ら剥がし、自由に生きていくのだと狂気にすら感じる勢いがある。
恋とは気づいてしまえば止められないものだ。
叶わぬ恋を遂げたかず子、叶わず苦しむ直治。
かず子の勢いも、不貞寝する直治の姿にも太宰の姿が重なる。太宰も恋多き人だったのだろうと思う。
白坂依志夫と増村保造が昭和に書いた脚本が近藤監督の手によって令和の時代に世に出た。
なぜ今、この作品なのか。
生き方に迷う人々は令和の時代もなくならない。
戦後、新たな生き方を見つけた人々の姿はたくさんの選択肢から自身の人生を決めなければいけない今を生きる人々にも通じるものがある。自分はどう生きたいのか。道に迷い、恋に悩み、人は生きていかなければならない。
人生の最期までもがき苦しんだ太宰治が書いた作品にはあの当時の人々の姿がありありと見える。
久しぶりにまた太宰作品が読みたくなった。
映画『鳩のごとく 蛇のごとく 斜陽』 https://syayo.ayapro.ne.jp/ は10月28日(金)TOHOシネマズ甲府にて先行ロードショー中。11月4日(金)TOHOシネマズ日本橋 他全国ロードショー。東海3県では11/4(金)よりコロナシネマワールド(中川、大垣)、イオンシネマ各務原、11/11(金)より名演小劇場で公開。
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