Cafemirage

Cafe Mirage--岐阜発 映画・エンタメ情報サイト

カテゴリリンク

©2020 “A Garden of Camellias” Film Partners

EntaMirage! Movie

美しい映像の中にある家族の物語(映画『椿の庭』)

とても静かだが、心に残る映画に出会った。
美しい映像もさることながら、見終わった後に自分ならどうするかを問いかけられているような気がした。

映画『椿の庭』は写真界の巨匠・上田義彦が自身の構想から15年の歳月をかけて作り上げた映画だ。

上田監督が描いたのは海が見える高台の古民家に暮らす女性と家族の生活。ずっと続くはずのこの家での生活に変化が訪れる。

あらすじ

かつて夫と語り合い、子供たちを育てた家に、今は孫娘の渚と住む絹子。夫の四十九日法要を終えたばかりの春の朝、世話していた金魚が死に、椿の花でその体を包み込み土に還した。命あるものはやがて朽ちる時がくる。家や庭の些細な変化や、過去の記憶に想いを馳せる日々の中、ある日絹子へ一本の電話がかかってくる。

上田監督が描く家族の物語

監督はサントリー、資生堂、TOYOTAなど数多くの広告写真を手掛け、その卓越した美学で人々を魅了し国内外で高い評価を得ている写真家 上田義彦氏だ。
本作は撮影だけでなく脚本も上田監督が担当した。15年前に近所の家が取り壊されたことから着想し、監督自身が住む別邸での家族との生活から感じ取った感情、自身の人生の記憶、大切な言葉が脚本に取り入れられた。

©2020 “A Garden of Camellias” Film Partners

©2020 “A Garden of Camellias” Film Partners

上田監督の手によって撮られた映像の色は独特だ。撮影は各季節毎に行われており、作られていない自然な姿の庭が映り込んでいる。
絹子に愛され育った手入れが行き届いた庭には季節毎に藤、紫陽花、牡丹、椿といった花が咲き、井戸の中には金魚が泳いでいる。それらは鮮やかな姿で画面に現れ、私たちを引きつける。監督が撮る映像はどの部分を切り取っても写真のように美しい。そしてどこか儚さも感じられる。

作品全体が暗く感じるのは自然光のみでの撮影にこだわったからだという。
日本家屋独特の奥ゆかしさ、柔らかいほんのりとした外光の当たり方が観る側を落ち着かせる。

上田監督だからこそのキャスティング

庭に咲く色とりどりの草木を愛でる姿、無駄のない着付け。絹子の所作の端々が美しい。絹子がこの家でどんな生活を送って来たのかが見えてくる。夫との生活、子育てを経て、家族との沢山の思い出が詰まっているこの家を手放さねばならなくなった時、絹子は自分がここを離れたら家族と過ごした記憶までも消えてしまうのではないかという不安に襲われる。自分自身を失うような喪失感。普段の生活では常に落ち着き、凜とした雰囲気を外さない絹子が旧知の友人に吐露した思いにはっとする。女として、妻として、母として、祖母として生きてきた絹子を上田監督は日本映画界を代表する女優 富司純子に託した。自身の人生でもその役割を担う彼女だからこその佇まいは誰にも真似出来ない。

©2020 “A Garden of Camellias” Film Partners

©2020 “A Garden of Camellias” Film Partners

絹子の娘の忘れ形見である孫娘の渚には、『新聞記者』で日本アカデミー賞最優秀主演女優賞を受賞したシム・ウンギョンが扮している。上田監督は別の現場で出会ったシム・ウンギョンに渚をインスピレーションし、彼女に演じてもらうために渚の年齢設定を変更した。絹子と暮らす渚は絹子の思いをしっかりと受け止め、ラストシーンである決断を下す。

さらに絹子のもう一人の娘・陶子を鈴木京香が演じ、監督と交流のあるチャン・チェンが弁護士役で特別出演。田辺誠一、清水綋治ら男優陣が登場することで事態が動いていく。

©2020 “A Garden of Camellias” Film Partners

©2020 “A Garden of Camellias” Film Partners

家には人生の記憶が詰まっている。これをなくすことは自分自身をなくすような大きな喪失感に見舞われるかもしれない。

人はものを引き出しに記憶を呼び起こす。
記憶は永遠ではないし、忘れ去られるかもしれない。

だが一緒に時を過ごした人の心の中には必ず生き続ける。私は人の記憶力を信じたい。

映画『椿の庭』http://www.bitters.co.jp/tsubaki/

-EntaMirage!, Movie

おすすめの記事はこれ!

mikaeri1 1
見返りを求める男と恩を仇で返す女。その先にあるもの(映画『神は見返りを求める』)

タイトルを聞いたとき「神は見返りをもとめない」ものじゃないの?と思った。ただ、そ ...

MKE2022_24 2
3年ぶり開催!第9回MKE映画祭レポート

第9回MKE映画祭が6月18日岐阜県図書館多目的ホールで開催されました。 3年ぶ ...

PLAN75_1 3
生き続けていくことはいけないことか(映画『PLAN 75』)

少子高齢化社会となった日本には様々な問題がある。老老介護、孤独死、虐待という家庭 ...

huyusoubi9 4
映画『冬薔薇(ふゆそうび)』伊藤健太郎さん、阪本順治監督登壇名古屋舞台挨拶レポート

映画『冬薔薇(ふゆそうび)』の公開記念舞台挨拶が6月11日名古屋ミッドランドスク ...

kimiton 5
女子高生、日本の経済にもの申す!(映画『君たちはまだ長いトンネルの中』なるせゆうせい監督インタビュー)

2019年に発売されネット上で話題を呼んだ漫画「こんなに危ない!? 消費増税」を ...

officer1 6
自身の信念のもとに冤罪を暴く(映画『オフィサー・アンド・スパイ』)

捏造、冤罪。あってはならないのだが、どの時代にも起こる出来事だ。 フランスで起こ ...

otona_4 7
木竜麻生さん登壇!メ~テレ映画祭『わたし達はおとな』先行上映舞台挨拶レポート

今年開局60周年を迎える名古屋のテレビ局メ~テレは映画製作にも非常に力を入れてい ...

20soul1 8
今も受け継がれる神曲・市船Soul。それは魂がこもる大切な曲(映画『20歳のソウル』)

ある番組の吹奏楽の旅を観る度に号泣している。 私は決して吹奏楽部ではない。コーラ ...

haganeiro9 9
OUTRAGE×現代の若者 名古屋で生きる人達(映画『鋼音色の空の彼方へ』舞台挨拶レポート)

コロナ禍を経て、名古屋発の映画が奇しくも同じ日に2本公開された。一本は先日紹介し ...

mamoriya8 10
僕らの映画はここからはじまったばかり(映画『護り屋「願い」』舞台挨拶レポート)

名古屋発の映画が『護り屋「願い」』が5月20日に公開された。 映画『護り屋「願い ...

creatures 11
人気映画を支えてきた特撮、特殊効果のクリエイター達(映画『クリーチャー・デザイナーズ 特殊効果の魔術師たち』)

映画にはさまざまなジャンルがある。その中でも私たちを日常にはない興奮に誘ってくれ ...

received_2215697365258741 12
「灰色の家族」という台本(物語)が呼び覚ます忌まわしい記憶 KURAGE CLUB新作『灰色の家族』上映会開催

名古屋の自主映画団体KURAGE CLUBが新作『灰色の家族』の上映を5月22日 ...

sanka1 13
撮りたいという強い思いの結晶がいよいよ公開(映画『山歌』)

山の中を漂流して暮らす人々が戦後あたりまでいたことを知ったのは「やすらぎの刻」と ...

bokemasukara1 14
第61回CINEX映画塾『ぼけますから、よろしくお願いします ~おかえり、おかあさん』信友直子監督トークレポート

第61回CINEX映画塾『ぼけますから、よろしくお願いします ~おかえり、おかあ ...

ashitajyugyou6 15
『あした、授業参観いくから。』+安田真奈監督ショートフィルム選 シアターカフェ 舞台挨拶レポート

『あした、授業参観いくから。』+安田真奈監督ショートフィルム選 が4月30日から ...

Ngoutou1 16
映画『N号棟』公開初日 萩原みのりさん、後藤庸介監督登壇 舞台挨拶レポート

とある地方都市に、かつて霊が出るという噂で有名な団地があった。このとある地方都市 ...

sikei 17
阿部サダヲ×シリアルキラー榛村大和が更なる魅力を生む(映画『死刑にいたる病』白石和彌監督・阿部サダヲさんインタビュー)

白石和彌監督の作品にはいつも心を持っていかれる。 5月6日(金)から公開の新作『 ...

ashitajyugyou6 18
ゴールデンウィークに『あした、授業参観いくから』+安田真奈監督ショートフィルム選 上映 シアターカフェで

安田真奈監督とお会いしたのはあいち国際女性映画祭だった。 『36.8℃ サンジュ ...

cmoncmon 19
『パリ13区』『カモン カモン』モノクロの魅力を知りたい二作品

4月22日(金)公開の作品には偶然にもモノクロ映画が2作品ある。 『ジョーカー』 ...

sikei 20
白石和彌監督、阿部サダヲさん登壇! 映画『死刑にいたる病』名古屋先行上映舞台挨拶レポート

映画『死刑にいたる病』舞台挨拶付き先行上映会が4月16日、名古屋ミッドランドスク ...

truth11 21
第60回CINEX映画塾『Trinity』『truth』堤幸彦監督、広山詞葉さん、生島翔さんトークレポート

第60回CINEX映画塾『Trinity』『truth』が3月27日岐阜CINE ...

received_348460247337278 22
映画の街・岐阜が動き出す  映画『逆光』とのコラボで柳ケ瀬が70年代一色になる?! 映画『逆光』試写会 トークレポート

4月4日、岐阜ロイヤル劇場にて映画『逆光』の試写会と須藤蓮監督の舞台挨拶が行われ ...