Cafemirage

Cafe Mirage--岐阜発 映画・エンタメ情報サイト

カテゴリリンク

©2018「孤狼の血」製作委員会

EntaMirage! Movie

東映実録路線を引き継ぐ妥協のない作品(映画『孤狼の血』)

ここまで今の日本でよく作ったと思える映画だった。熱き男達の闘い。それは昭和の時代にある。

あらすじ

昭和63年。暴力団対策法成立直前の広島・呉原。そこでは、未だ暴力団組織が割拠し、新たに進出してきた広島の巨大組織・五十子会系の加古村組と地場の暴力団尾谷組との抗争の火種が燻り始めていた。そんな中加古村組関連企業の金融会社社員が失踪。失踪を殺人事件と見たマル暴のベテラン刑事・大上と新人刑事・日岡は事件解決の為に奔走する。警察組織の目論み、大上自身に向けられた黒い疑惑、様々な欲望をもむき出しにして、暴力団と警察を巻き込んだ血で血を洗う報復合戦が起ころうとしていた……。

原作は柚月裕子。ドラマ化もされた『最後の証人』などの佐方貞人シリーズでは検事や弁護士という表舞台で活躍する人達を描いてきた。

しかしこの『孤狼の血』では裏の社会で自分達の正義のために生きる男達が描かれる。

監督は『彼女がその名を知らない鳥たち』『日本で一番悪い奴ら』の白石和彌。人間の業を隠すことなく描く白石監督が柚月作品をどう映像化したのか。

平成が終わる今。描かれる昭和の終わり

舞台は昭和63年。暴力団対策法成立直前の広島。そこには懐かしさが沢山ある。

パチスロ、ポケベル、車、カラオケ、風景に映りこむテレビの映像。昭和だからこそあった空気やにおいが再現されている。テレビの映像に昭和の終わりを感じずにはいられなかった。そんな頃の日本の極道シーン。平成のインテリヤクザとは違う武闘派極道。やっぱりこのジャンルの映画は広島。映画『仁義なき戦い』の舞台で新たな抗争ものが誕生した。

最初のシーンで観る覚悟を迫られる

話は暴力団と関わることを当たり前として動く刑事大上とそれに納得出来ないながら大上の行動に巻き込まれる新人刑事日岡を中心に描かれる。警察とは何か。正義とは何か。次第に見えてくる真実に見ている観客は心を持っていかれる。抉られるような思いもする。白石監督は人間の弱さ、強さ、欲をしっかりと描き出す。

目には目を歯には歯を。やられたらやり返す。目を覆いたくなるようなシーンがたくさんある。残酷な暴力描写、リアルな血の色、気持ち悪くなりそうな拷問。その加減のなさは映画だからこそ出来るもの。最初のシーンを観てまず覚悟を決めて見て欲しい映画だ。

豪華キャスト集結

一匹狼で暴力団とも繋がっているマル暴の刑事大上には役所広司。久しぶりに野性的でギラギラした役所広司を見ることができる。刑事としての任務を大上は大上らしく遂行していく。平成の世の中では許されない行動も昭和の時代には出来たということは沢山あっただろうが、その行動は観る側からするとぶっ飛んでいる。暴力団にも警察にも一目置かれていた大上。大上はなぜ自由に行動出来たのか。誰のために生きていたのか。孤独な一匹狼の真実がこの作品にはある。

その大上のバディとなる新人刑事日岡には松坂桃李。彼の目は観客の感覚に近い。自然と日岡の考えに同調して観ていくことになる。

尾谷組の若頭・一之瀬には江口洋介、構成員・永川には中村倫也。加古村組の若頭・野崎には竹野内豊。いつもなら優しくて柔らかい二枚目を演じる役者達が眉間にシワを寄せている姿が新鮮であり、狂気が感じられる。中村倫也の登場シーンには特に驚かされる。そして組長役の伊吹吾郎、石橋蓮司というベテランがさすがの睨みを効かせる。

警察組織には滝藤賢一、矢島健一、田口トモロヲとカメレオン俳優が揃う。警察が果たして正義なのかどうか。考えるシーンが幾つもある。

暴力団VS暴力団だけではなく暴力団VS警察も絡んだ駆け引きのある男達のもつれ合いが堪らない。

実は新人刑事の成長物語。変化する松坂桃李を見逃すな

この作品は抗争ものでもあるが一人の新人刑事の成長物語でもある。一人の若手刑事が大上という一人の型破りな警察官と出会うことで変化していく。終始飄々と暴力団とやり取りする大上に振り回され、自分の中の警察のイメージも崩壊し、心が揺れていく。様々な場面に臨場し、時が経つにつれ変わっていく松坂桃李の変化にぜひ注目してほしい。

白石組集結 一癖も二癖もある役者陣

白石組の常連メンバーの芝居も気になる。ピエール瀧、音尾琢真、勝也、中村獅童。沢山出番があるわけではないがしっかりと印象を残していく。なくてはならない役者陣だ。

遊び心を忘れていないのも白石組。冒頭薬局で大上が食べているサメエキスのカプセル。
『日本で一番悪い奴ら』を観た人には分かるニヤリとさせられるネタも用意されている。

観る人によって評価は賛否両論分かれるだろう。映画を作るには今の日本には様々な制限がある。その映画界でここまで遠慮なく生々しさを表現出来る映画はなかなかない。ここ数年では珍しい作品と言えるだろう。

 

映画『弧狼の血』http://www.korou.jp/
5月12日より全国公開。東海地区ではミッドランドスクエアシネマ、岐阜CINEX他で公開。
(公開劇場の詳細は公式サイトへ)

-EntaMirage!, Movie

おすすめの記事はこれ!

20251227_181553~2 1
映画『Good Luck』足立紳監督登壇  名古屋シネマスコーレ舞台挨拶レポート

映画『Good Luck』公開記念舞台挨拶が名古屋シネマスコーレで行われ、足立紳 ...

★メイン 2
過去と現在を繋ぐ難事件に無敵のバディが挑む!(『映画ラストマン -FIRST LOVE-』)

2023年に「日曜劇場」で放送され、大きな反響を呼んだドラマ「ラストマン-全盲の ...

メインビジュアル日本版for先行公開_FIX 3
愛は見える?奇想天外な除霊アクションラブコメディ 映画『見え見え』撮影地愛知で先行公開!

愛知県犬山市で撮影された映画『見え見え』が、12月19日(金)より愛知ミッドラン ...

IMG_2643 4
ANIAFF 開幕!第1回あいち・なごやインターナショナル・アニメーション・フィルム・フェスティバル オープニングセレモニーレポート

2025年12月12日(金)、「第1回あいち・なごやインターナショナル・アニメー ...

20251211_080918 5
SF映画の脚本 キャスティング 世界観を彩る特殊効果の秘密 『ブラックホールに願いを!』渡邉聡監督 × 『センターライン』『INTER::FACE 知能機械犯罪公訴部』下向拓生監督 スペシャル座談会(後編)

『ブラックホールに願いを!』公開を記念し、渡邉聡監督と脚本協力を務めた下向拓生監 ...

1.表面_シネマ・ロサ 6
SF映画の脚本 キャスティング 世界観を彩る特殊効果の秘密 『ブラックホールに願いを!』渡邉聡監督 × 『センターライン』『INTER::FACE 知能機械犯罪公訴部』下向拓生監督 スペシャル座談会(前編)

第一線の特撮現場で活躍している若手スタッフが集結! 新進気鋭の映像制作者集団「S ...

©︎2025「Good Luck」製作委員会(別府短編プロジェクト・TAMAKAN・theROOM) 7
映画『Good Luck』は「ととのう系」!? 自然とサウナと旅先の出会い(『Good Luck』足立紳監督、足立晃子プロデューサーインタビュー)

2025年12月13日からシアター・イメージフォーラム、12月27日から名古屋シ ...

©2025「兄を持ち運べるサイズに」製作委員会 8
兄のことをひたすら考える終いの4日間(映画『兄を持ち運べるサイズに』)

『湯を沸かすほどの熱い愛』や『浅田家!』で数多くの映画賞を席捲し、一貫して家族の ...

©︎2025「Good Luck」製作委員会(別府短編プロジェクト・TAMAKAN・theROOM) 9
映画『Good Luck』先行上映記念 足立紳監督&足立晃子プロデューサー 舞台挨拶レポート

11月24日「NAGOYA CINEMA Week 2025」の一環として、足立 ...

「Traverse 2」main 10
本物の武道空手アクションがここに!映画『TRAVERSE2 -Next Level-』豊橋で先行公開、完成披露試写会 開催!

武道空手アクション映画の金字塔となる二部作の完結編、映画『TRAVERSE2 - ...

司会の松岡ひとみさんも一緒に 11
極寒の会津ロケからベルリン映画祭出品へ! 魂の舞と幽玄の世界が描き出す人間の複雑な心境(映画『BONJI INFINITY』初号試写会 舞台挨拶レポート )

2025年11月3日、映画『BONJI INFINITY(ボンジ インフィニティ ...

©郷2025 12
日本初ARRIが機材提供。美しきふるさとの映像と音に触れ、自身を回顧する(映画『郷』小川夏果プロデューサーインタビュー)

数々の国際映画祭で評価を重ねてきた鹿児島出身の新進気鋭の伊地知拓郎監督が、構想か ...

IMG_2539_b 13
映画『佐藤さんと佐藤さん』名古屋先行上映会舞台挨拶レポート。岸井ゆきのさん、宮沢氷魚さん、天野千尋監督登壇

映画『ミセス・ノイジィ』の天野千尋監督の最新作は夫婦の変化する15年間を描く、オ ...

image (3) 14
運命さえも覆せ!魂が震える慟哭のヒューマン・ミステリー(映画『盤上の向日葵』)

『孤狼の血』などで知られる人気作家・柚月裕子の小説『盤上の向日葵』が映画化。坂口 ...

©ストラーユ 15
本から始まるストーリーは無限大に広がる(映画『本を綴る』篠原哲雄監督×千勝一凜プロデューサー インタビュー&舞台挨拶レポート)

映画『本を綴る』が10月25日から名古屋シネマスコーレで公開されている。 映画『 ...

1759598539764_1 16
いつでも直球勝負。『おいしい給食』はエンターテイメント!(映画『おいしい給食 炎の修学旅行』市原隼人さん、綾部真弥監督インタビュー)

ドラマ3シーズン、映画3作品と続く人気シリーズ『おいしい給食』の続編が映画で10 ...

©️2025『おーい、応為』製作委員会 17
もう一人の天才・葛飾応為が北斎と共に生きた人生(映画『おーい、応為』)

世界的な浮世絵師・葛飾北斎と生涯を共にし、右腕として活躍したもう一人の天才絵師が ...

taiga_B2poster_0710_fix_ol 18
黄金の輝きは、ここから始まる─冴島大河、若き日の物語(映画 劇場版『牙狼<GARO> TAIGA』)

10月17日(金)より新宿バルト9他で全国公開される劇場版『牙狼<GARO> T ...

『アフター・ザ・クエイク』ビジュアル 19
「空っぽ」から始まる希望の物語-映画『アフター・ザ・クエイク』井上剛監督インタビュー

村上春樹の傑作短編連作「神の子どもたちはみな踊る」を原作に、新たな解釈とオリジナ ...

IMG_2338_ 20
名古屋発、世界を侵食する「新世代Jホラー」 いよいよ地元で公開 — 映画『NEW RELIGION』KEISHI KONDO監督、瀬戸かほさんインタビュー

KEISHI KONDO監督の長編デビュー作にして、世界中の映画祭を席巻した話題 ...

image (1) 21
明日はもしかしたら自分かも?無実の罪で追われることになったら(映画『俺ではない炎上』)

SNSの匿名性と情報拡散の恐ろしさをテーマにしたノンストップ炎上エンターテイメン ...

IMG_2332_ 22
映画『風のマジム』名古屋ミッドランドスクエアシネマ舞台挨拶レポート

映画『風のマジム』公開記念舞台挨拶が9月14日(日)名古屋ミッドランドスクエアシ ...

©SHM FILMS 23
あなたはこの世界観をどう受け止める?新時代のJホラー『NEW RELIGION』ミッドランドスクエアシネマで公開決定!

世界20以上の国際映画祭に招待され、注目されている映画監督Keishi Kond ...

48e68d79b718232277b1e5de3297914f 24
『ぼくが生きてる、ふたつの世界』の呉美保監督が黄金タッグで描く今の子どもたち(映画『ふつうの子ども』)

昨年『ぼくが生きてる、ふたつの世界』が国内外の映画祭で評価された呉美保監督の新作 ...

僕花_main 25
映画『僕の中に咲く花火』清水友翔監督、安部伊織さん、葵うたのさんインタビュー

Japan Film Festival Los Angeles2022にて20歳 ...

IMG_2204_ 26
映画『僕の中に咲く花火』岐阜CINEX 舞台挨拶レポート

映画『僕の中に咲く花火』の公開記念舞台挨拶が8月23日岐阜市柳ケ瀬の映画館CIN ...

僕花_main 27
23歳の清水友翔監督の故郷で撮影したひと夏の静かに激しい青春物語(映画『僕の中に咲く花火』)

20歳で脚本・監督した映画『The Soloist』がロサンゼルスのJapan ...

25-08-06-09-10-43-381_deco 28
岐阜出身髙橋監督の作品をシアターカフェで一挙上映!「髙橋栄一ノ世界 in シアターカフェ」開催

長編映画『ホゾを咬む』において自身の独自の視点で「愛すること」を描いた岐阜県出身 ...

IMG_1793 29
観てくれたっていいじゃない! 第12回MKE映画祭レポート

第12回MKE映画祭が6月28日岐阜県図書館多目的ホールで開催された。 今回は1 ...