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裏か表か、それとも裏の裏か(映画『密偵』)

『密偵』あらすじ

1920年代、日本統治下の朝鮮半島。
朝鮮独立運動団体「義烈団」に近づき壊滅する特命を受けた
朝鮮人でありながら日本警察官であるイ・ジョンチュル(ソン・ガンホ)は、
義烈団のリーダー、キム・ウジン(コン・ユ)に近づく。
一方、義烈団は日本の主要施設を破壊するため爆弾を京城へ輸送する作戦を
ひそかに進めていた。義烈団と日本警察の諜報戦が展開する中、
爆弾を載せた列車は京城に向かい……。

大変豪華なキャストだ。ソン・ガンホにイ・ビョンホン、
そしてコン・ユ、ハン・ジミン、オム・テグ。
日本でも有名なキャストが勢揃いしている。
このキャストを揃えたのはキム・ジウン監督だ。
ソン・ガンホとは四度目のタッグになる。

押さえておきたい1920年代の朝鮮半島と義烈団

この映画を見るにあたって1920年代の朝鮮半島の状態をまず知っておきたい。
1910年の日本による韓国併合によって朝鮮半島は日本統治下になっている。
この統治は1945年、第二次世界大戦終了まで続くことになる。
独立を掲げて活動した組織「義烈団」は1919年に結成され、
日本組織とその要人達への直接攻撃を計画する。
1920年に釜山警察署、翌年には朝鮮総督府を爆破し、
1922年には、上海で田中義一陸軍大将狙撃事件をひきおこした。
1935年に政治闘争への転換を名目として朝鮮民族革命党に改組するまで
武闘派として戦った。

本作ではこの義烈団の団長をイ・ビョンホン、
隊長をコン・ユが演じており、
義烈団と日本警察との狭間で揺れ動く男をソン・ガンホが演じている。

誰が本当の密偵か。探り合う男たち

主人公イ・ジョンチュル(ソン・ガンホ)は日本語が堪能で
日本の警察で参謀として働く男。
しかし自民族のことを冷たくあしらうわけではない。
旧友のジャンオク(パク・ヒスン)が罠にはまり、命を救えなかったことを悔やんでいる。
上司のヒガシ(鶴見辰吾)から義烈団へ潜り込む指示を受けたジョンチュルは
リーダーのウジン(コン・ユ)に近づいて義烈団の動きを探ろうとする。
ジョンチュルと組むことになった同僚ハシモト(オム・テグ)は、
ジョンチュルの行動を次第に阻んでいく。
義烈団にも日本警察にもお互いの動きを知らせる密偵が
ジョンチュルの他にも暗躍し、お互いの計画がねじれていく。

どこかに紛れた密偵。
誰がどちらの密偵なのか探り合うスパイたちの駆け引きが面白い。

義烈団が爆弾を運ぶ列車のシーンはカット割やシーンの展開が見事で
ジョンチュル、ウジン率いる義烈団がどうなっていくかを
じわじわと来る不安を感じながら見ることになる。
脚本とキム・ジウン監督の演出が光る。

 

何が表で何が裏か

ジョンチュルは警察としてヒガシの下で働いているが
次第に自分が駒としてしか思われていないことを
ハシモトがやってきたことで気がつき始める。
自分の居場所が揺らぐことでアイデンティティーを揺さぶられたかのように
警察の密偵が次第に義烈団の密偵も兼ねていく。
義烈団団長と酌み交わした酒のシーンを境にジョンチュルの行動は変化していく。
ソン・ガンホの笑顔が好きなのだが、この映画ではない。
常に周りに神経を張り巡らしているようなそんな男に映る。
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誰を信じていいかわからない状況で敵であるはずのジョンチュルを信じるウジン。
『新感染ファイナルエクスプレス』のちょっと頼りなさのある父親とは違い、
優しさもありながら革命にまっすぐ生きる青年をコン・ユが熱演する。
団長役のイ・ビョンホンはわずかなシーンの出演だが
わずかな目の動きとセリフで存在感を出してくる。

ジョンチュルのとった行動はどんな思いからなのか。
考えながら見るのが非常に楽しい。
複雑な感情が絡み合いながら進んでいく。
それを考えさせるソン・ガンホの芝居は見事というしかない。

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日本語でも伝わるソン・ガンホの演技力。

ソン・ガンホ、オム・テグは日本語の台詞が非常に多い。
日本語で語るジョンチュルの裁判シーンは圧巻。
芝居は気持ちが大事ということを改めて思い知らされる。
ジョンチュルの主張と涙の本当の意味は
ラストシーンで明かされる。

 

日本の俳優・鶴見辰吾の味

NHKの大河ドラマを見てキム・ジウン監督が総督府警務局部長ヒガシ役を
オファーしたのは日本の作品でも重要ポストで光る演技を見せる鶴見辰吾。
ソン・ガンホ演じるジョンチュル、オム・テグ演じるハシモトの上司であるヒガシは
二人を使い分け義烈団壊滅へ奔走する。
冷静沈着で、基本は静かだがヒガシから滲み出る非情で残酷な雰囲気が
この時代の日本と韓国の関係を匂わせている気がする。
日本でもこういった役を演じることが多い鶴見辰吾を起用した
キム・ジウン監督の洞察眼には驚かされる。

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この時代を描く作品が韓国では数年来いくつも撮影されているが
群を抜いてこの『密偵』はあの時代の匂いを感じることが出来るように思う。
京城、上海という二つの街のあの当時の風景を見事に蘇らせた。
モノクロでもなく鮮やかでもない。独特な色合いが作品全体に漂う。
スパイ映画というだけでなく日本と関わる朝鮮の一時代を知ることが出来る快作だ。

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『密偵』(http://mittei.ayapro.ne.jp)は11月11日(土)より
シネマート新宿、シネマート心斎橋他で全国公開。
東海地区では11月11日(土)より名古屋 センチュリーシネマ、
豊橋 ユナイテッドシネマ豊橋18で公開。

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