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心の傷を癒すのは島の人々のあたたかさ(映画『とべない風船』)
広島発。豪雨災害後の瀬戸内海の島を舞台に傷ついた心の癒しと再生を描いた映画『とべない風船』が1月6日から全国公開される。
あらすじ
太陽の光があふれる瀬戸内海の小さな島。数年前の豪雨災害で妻子を失って以来、自ら孤立している漁師の憲二は、疎遠の父に会うために来島した凛子に出会う。凛子もまた、夢だった教師の仕事で挫折を味わい、進むべき道を見失っていた。
凛子は島の生活に心身を癒されていくが、憲二の過去を知って胸を痛める。最初は互いに心を閉ざしていた二人は、あたたかくてお節介な島の人々に見守られ、少しずつ打ち解けていく。
人はなぜ、そこに住み続けるのか
憲二の家の庭には黄色い風船がある。洗濯竿に糸で結ばれ、ずっと飛んでいくことなく誰かの帰りを待っているかのようだ。妻と息子がいない家に憲二は今も住み続ける。凛子の父・繁三は、妻・さわが他界した後も島に残り住み続けている。
悲しい思い出もあるのに、なぜそこに彼らは居続けるのか。
2018年6月28日から7月28日にかけて西日本で降り続いた雨は「平成30年7月豪雨」と呼ばれる。土砂崩れや浸水が相次いだ広島県では、死亡者108名、行方不明者6名の人的被害があり、14,109戸の住宅が被害を受けた。出身地でもある広島を拠点にCMディレクターとして活躍しながら、中編映画『テロルンとルンルン』(18/岡山天音主演)で国内外の映画祭と映画ファンの熱烈な支持を得た宮川博至監督は、身近で起こったこの豪雨災害について映像化を決意。被害にあった人々を取材し、初長編作品を作り上げた。災害を語るだけではなく、取材した人々から得た言葉や、エピソードを脚本に反映させた。
豪雨災害で妻と息子を亡くした漁師の憲二と教師の仕事に挫折し、友人から復帰を勧められても返事ができない凛子。疎遠の父の元に来たことで、凛子は自分が知らなかった父と母の思いを知ることになる。二人のエピソードが少しずつ絡み合い、展開していく。
憲二を演じるのはこの年末、『天上の花』と本作の二本の主演作が公開される東出昌大。豪雨の中で妻と息子を亡くし、心を閉ざした寡黙な男が凛子の前に現れる冒頭の登場シーンから、心を掴まれた。妻と息子を外に行かせた後悔、自分だけが生きている今。時間だけが過ぎていく虚しさ。凛子や周りの人達と関わりを再び持つ中で変化していく憲二を繊細に演じている。
凛子を演じるのは『ドライブ・マイ・カー』、そして現在主演作『そばかす』も公開中の三浦透子。憲二とは対称的に表には心の傷を出してこない凛子だが、島の人たちとの交流、美しい景色で疲れた心が解れて柔らかくなっていく女性を自然体で演じる。
二人の傷を癒す美しい景色、優しい人々
凛子の父・繁三には小林薫、凛子の母・さわに原日出子、憲二の友・純に笠原秀幸、誰にも慕われる居酒屋の女将に浅田美代子、憲二の義理の父に堀部圭亮と演技派キャストが揃う。
撮影は広島県呉市、江田島を中心に行われ、地元の人々も撮影に参加した。島々が連なり海に浮かぶ【多島美】と呼ばれる風景が美しい。島の人たちの優しさ、島ならではの連帯感が作品全編で登場する。
島に来ると癒されるということを描いた話ではない。地元にいるからこそ分かるその土地の魅力を伝えながら、そこに住む人々が抱える問題もしっかりと訴えている。
地元に住み続け、地元を愛する人が東京から迎えた役者達と日本全国、世界に向けて撮影した映画だ。「平成30年7月豪雨」を忘れないために。広島で生きる監督が、今の広島を通じて、人が人を思う優しい気持ちと再生を描く。
映画『とべない風船』https://tobenaifusen.com/ は2023年1月6日より全国順次公開。東海3県では1月6日より伏見ミリオン座、MOVIX三好、1月13日よりコロナシネマワールド(中川、豊川)で公開。岐阜CINEX、伊勢進富座は順次公開予定。
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