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香港アクション映画を支えたスタントマンの歴史と真実を語るドキュメンタリー(映画『カンフースタントマン 龍虎武師』)
2022/12/26
どうしてこんなに体がしなやかに動き、高く飛んだり、回ったり出来るんだろうと昔の香港アクション映画の役者を観ると思う。今と違って、ワイヤーも、VFXもない。生身の体で戦っていたのは香港のカンフー映画の一時代を築いたアクション映画俳優達だ。
香港映画のアクションが、ハリウッドをはじめとする世界中の映画界に多大な影響を与えたのは映画好きなら知っているだろう。
香港のアクション映画はブルース・リー、ジャッキー・チェン、ジェット・リー、ドニー・イェンといったアクションスターだけで実現できたわけではない。映画の中で、彼らの攻撃を受けて派手にやられ、吹っ飛び、時には彼らの華麗で、危険なアクションの代役(スタントダブル)を務めたスタントマンたちの存在があってこそ出来た。彼らは死と隣り合わせな状況でも、スタントマンとして恐れなかった。
香港アクション映画の発展に身を捧げてきたスタントマンたちの激闘の歴史に迫ったドキュメンタリー『カンフースタントマン 龍虎武師』は観ていると気持ちが昂ぶる。
監督は『ザ・ルーキーズ』(2019)のプロデュースで知られるウェイ・ジュンツー。著名な映画評論家でもある彼は、3年の撮影期間をかけて、100人近くの香港アクション関係者を徹底取材した。そんな彼の熱意に応えてアクションスター、映画監督、スタントマンがあの頃を振り返る。香港スタントマン協会が全面協力した事により、彼らの証言の間には『大福星』(1985)、『ファースト・ミッション』(1985)、『おじいちゃんはデブゴン』(2016)のメイキングなど膨大なアーカイブ映像が入ってくる。
話は時系列に進むので、とてもわかりやすい。香港アクション映画は京劇が衰退し、仕事がなくなったことで京劇の役者が映像の世界に入っていったというところから始まる。アメリカ帰りのブルース・リーが、リアルなアクションを求め、世界的に有名になるが、ブルース・リーの死後、衰退する。一度衰退したカンフー映画をサモ・ハン・キンポー、ジャッキー・チェン達が再び盛り立てていく。
アクション映画に求められる内容は1980年代が一番危険であったことはジャッキー・チェンの主演作を観ているだけでも充分分かることだが(エンドロールのNGシーンでもかなり痛そう)、主役以上に周りの役者達は危険なアクションに挑戦していったことがスタントマン達の証言で明らかになる。

ブルース・リーが求めたアクションを語る中で、アクションの敵役が担う役割が説明されている。
なぜかかっていく時に必ず声を出すのか、カメラ位置を確認してアクションをするのか。
アクションをやりたい人にはぜひ知っておいてほしいことだ。主役を輝かせているのは脇役に他ならない。
映画は一人では作れない。サモ・ハンがこの作品の中で自分のアクションチームが一番だったと言い切るシーンがある。先輩達からの教えを受けたサモ・ハンの要求に応えて、高いレベルのアクションを生み出した後輩達。その後輩達がまたアクションの歴史をつなぐ……はずだった。
しかし、香港映画業界は映画会社がスタジオを閉鎖していくことで1990年代後半から縮小。製作は中国へと移り、スタントマン達も中国や海外へ進出。今香港には抜きに出たスタントマンがいない。これからの香港映画のために若者を育成する様子も描かれる。昔のような再生の日は訪れるのだろうか。

怪我もするし、辛い経験でもあるはずだが、インタビューを受ける役者も、アクション監督も誰もがあの頃自分達が作った作品に誇りを持ち、楽しそうに語る。今だから言えることもあるだろう。たくさんのスタントマンの中で夢を叶え残ることが出来るのは一握りだ。彼らは夢を諦めるしかなかった人々の思いも抱えてこの業界で生きている。
ただ作品を観ていた時は主役を中心に観ていたものが、本作を観ると周りの役者達にも注目して観たくなることは間違いない。
改めて香港のカンフー映画を見直したくなった。今度はブルース・リーやサモ・ハン、ジャッキーにやられる側の役者達の動きをしっかり見たい。
映画『カンフースタントマン 龍虎武師』 https://kungfu-stuntman.com/ は1月6日(金)より新宿武蔵野館他で全国順次公開。
東海3県では1月6日(金)より名演小劇場、イオンシネマ(名古屋茶屋、桑名)、ユナイテッド・シネマ(豊橋18、岡崎、稲沢)、1月20日(金)よりイオンシネマ各務原で公開。
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