
一本の糸からつながる世界(映画『YARN 人生を彩る糸』)
冬になると得意ではないのに編み物をやりたくなるのはなぜだろう?
一本の毛糸を編むことで生まれる新たなもの。
美しく、あたたかく。
マフラーや手袋、帽子。様々な形に姿を変えて糸は私たちを幸せにしてくれる。
最近は手作りということへのこだわりにスポットが当たり、
各地で行われているクラフトフェアも盛況だという。
編み物もその人気の中にある。
ズパゲッティで作ったカバンや小物は主婦層に一大ブームを巻き起こし
編み方の本の売れ行きも好調らしい。
手作りに欠かせない糸がテーマのドキュメンタリー『YARN 人生を彩る糸』が
公開されている。
登場するのは世界各国のアーティスト
映画に登場するのは4組のアーティスト。
家の外へ飛び出し街で編み物の芸術性をアピールする
ヤーン・グラフィティアーティストのティナ。
ポーランドを飛び出し世界で活動するかぎ針あみアーティストのオレク。
パフォーマー集団サーカス・シルクール。
人と触れ合う大きな網というテキスタイルで表現する堀内紀子。
世界各国の4組のアーティストの生き方と表現を通して
糸とはどんな存在なのかを考えることができる。
芸術家として生きる彼女たちはそれぞれに目的を持ち
ジレンマを抱えながらも創作を続けている。
この4組に共通するのは外に出て表現しようとした点だ。
編み物は元来1人でもくもくとやるものというイメージがある。
綿や動物の毛から一本の糸を作り出し、
それが人の手を介すことでまた違う新たなものへと生まれ変わるという過程は
祖先たちが編み出した技であり、美しさでもある。
その伝えられた技でイメージを変える新たな挑戦をしているのだ。
自然や建物、造形物に溶け込む作品を作り、表現する。
そしてさらにこの作品を支える2人のアーティストがいる。
監督のウナ・ローレンツェンとドキュメンタリーを繋ぐ役割の
短編小説を書いたアメリカのベストセラー作家バーバラ・キングソルヴァーだ。
随所に自然と入ってくるアニメーションにも糸が使われている。
そのアニメーションを手掛けたのがアニメーターとしても活躍する
ウナ・ローレンツェン監督自身だ。
2年に渡って撮影されたこの作品はアイスランド、デンマーク、ドイツ、
ポーランド、スペイン、イタリア、ハワイ、キューバ、カナダと
世界をめぐって撮影された。
4組の物語を順に繋げるのではなく、バラバラにして組み込むことで
糸が世界各国を繋いでいるように見えてくる。
そして監督が気に入って起用したのが
話の合間に登場するバーバラ・キングソルヴァーの小説のフレーズ。
作品に合わせて作られたかのような世界観でこの作品を
1つのストーリーにまとめあげている。
毎年挫折している編み物だが
今年はかぎ針で何か編んでみよう。
糸が変化する姿を楽しもう。
編んでみれば彼女たちのように外の世界へ飛び出せるかもしれない。
映画『YARN 人生を彩る糸』http://yarn-movie.com は
渋谷シアター・イメージフォーラムで現在公開中。
東海地区では12月9日より名演小劇場で公開。
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