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映画『星と月は天の穴』荒井晴彦監督 咲耶さん登壇 名古屋舞台挨拶レポート
12月11日、映画『星と月は天の穴』の舞台挨拶が名古屋伏見ミリオン座で開催され、脚本監督を務めた荒井晴彦監督と瀬川紀子役の咲耶さんが登壇した。
小説家の矢添(綾野剛)は妻に逃げられ独身の40代。心に空いた穴を娼婦・千枝子(田中麗奈)で埋め、また誰にも知られたくない自身の“秘密”にコンプレックスを抱き、恋愛に尻込みしていた。そんなある日、画廊で大学生の瀬川紀子(咲耶)と出会い、奇妙な情事へと至ったことで、矢添の日常と心が揺れ始める。愛をこじらせた男の、滑稽で切ない愛の行方を描く。

©2025「星と月は天の穴」製作委員会
荒井晴彦監督は「荒井です。今日は、ありがとうございます」と挨拶。2年前の舞台挨拶(『花腐し』)では女性ファンが多かったが、今回は自分に近い年齢層の観客が多いことに触れ会場の笑いを誘った。
咲耶さんは「瀬川紀子役を演じさせていただきました咲耶です」と緊張した面持ちで挨拶した。今回が人生で2度目の舞台挨拶であり、予想以上の観客の多さに非常に緊張している様子。初めて名古屋を訪れたという咲耶さんは「東京よりも道が広い」と感想を述べ、昼食に初めて食べたひつまぶしは「とっても美味しかった」と語った。

咲耶さん
荒井監督は、吉行淳之介の原作小説を10代で読んで以来、いつか映画化したいという強い思いを抱いていた。脚本化については「原作を写しただけだから」と多くは語らない。原作は1966年の物語だが、映画は1969年が舞台に設定された。監督は、当初現代に移そうとしたが、最終的にこの時代設定になったと説明した。

荒井晴彦監督
荒井監督は、18歳で原作を読んだ際の情事に至るシーンについての強烈な表現に「セックスは、ラーメンに胡椒がいるように、何か胡椒的なものがちょっと必要なのかなと思った」と感じており、そのシーンを再現する小道具を用意することに苦労したと振り返った。
ヒロインに抜擢された咲耶さんは、オーディションを受ける前は荒井監督に対しちょっと怖い、気難しい方というイメージを持っていたが、実際に会ってみて「とってもチャーミングというか、可愛いおじいちゃんだな」という印象に変わったと語った。

荒井監督は、オーディションでなかなか自分がイメージする紀子が見つからない中、最後に現れた咲耶さんを見た際に「やっと、やっと現れた。これだこれだ」と感じたという。60年代の女性像に合う背が小さかったことや、暗い雰囲気を持っていたことが決め手になったと明かした。現場での咲耶さんについては「いい根性してるなと思いました」と評価した。

和気藹々とした雰囲気の撮影ではあったが、咲耶さんが最も大変だったと告白したのは、ラブシーンの撮影だった。3つのシチュエーションのラブシーンを会話なども含めて丸1日かけて撮影した際、体力的・精神的に追い詰められ、「途中で集中力が切れて、ちょっと現場を止めてしまったことがあって、ご迷惑をおかけしました」と振り返った。荒井監督は「回復するのを待っていたよ」と優しく話し、咲耶さんのケアを最優先に、回復を待ったことを伝えた。

©2025「星と月は天の穴」製作委員会
主演の綾野剛さんについては「ものすごく頼りになる先輩」だったと語る。荒井監督の演出は文学的な言い回しが多く明言されないため、綾野さんが意図を汲み取り、「『荒井さん、今こういうことが言いたかったんだと思う』とわかりやすく説明してくれました」と、技術面・精神面でのサポートに感謝を述べた。また作中で登場する矢作の衣装や車は、職業が作家というところから、原作者の吉行淳之介さんが実際に着ていた服のスタイルで製作し、乗っていた車種を探して使用している。荒井監督は綾野さんが運転するシーンで、「ものすごくハンドルが重いと苦労していた」と明かした。
咲耶さんは、見どころを聞かれると主演の綾野剛さん演じる矢添のセリフ「隠しているものが現れた時に1つのことは終わるのさ。そしてまた新しいものが始まるんだ」に注目してほしいと述べた。
荒井監督は、本作がかつてのATG(アート・シアター・ギル)映画のような「冒険的な映画」を目指したと語り、自身がシナリオ指導で禁じているナレーションやモノローグといった「やるなといったことオンパレード」の作品になったと説明した。
最後に咲耶さんは、「本作が全編モノクロで純文学原作という堅苦しいイメージがあるかもしれませんが、実は結構笑えます。「気楽に見る文学、読む映画」これは綾野さんの言葉ですが、そういう気持ちで観てください」というメッセージを送った。荒井監督は、「原作バスターと言われていますが、「Love is blind」で好きな作品には批判的になれないんです。ほぼ原作通り、書き足したのは二行ぐらいで、きっとどこかわかると思います。それが1969年にした理由です。次回作に繋げるためにもぜひ宣伝してください」と観客に呼びかけた。

映画『星と月は天の穴』 https://happinet-phantom.com/hoshitsuki_film/ は12月19日(土)よりテアトル新宿他で全国ロードショー。東海三県では12月19日(土)より伏見ミリオン座、ユナイテッド・シネマ豊橋18、ミッドランドシネマ名古屋空港、2026年1月17日(土)より岐阜CINEXで公開。

キャスト:
綾野 剛
咲耶 岬あかり 吉岡睦雄 MINAMO 原一男 / 柄本佑 / 宮下順子 田中麗奈
脚本・監督: 荒井晴彦
原作:吉行淳之介「星と月は天の穴」(講談社文芸文庫)
製作・配給:ハピネットファントム・スタジオ
レイティング:R18+
©2025「星と月は天の穴」製作委員会
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