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名バイプレイヤー・甲本雅裕初主演映画は地方で生きる私たちの物語(映画『高津川』)
甲本雅裕という役者をしっかりと認知したのは「踊る大捜査線」(CX)だったと思う。
それ以前も、ドラマの脇役として出てくる俳優さんとして少しずつ筆者に記憶されつつあったのだ。
刑事も出来るし、ヤクザも出来るし、インテリも出来るし、ちょっと天然系も出来る。器用な名バイプレイヤーだ。筆者は甲本雅裕という役者が作り出す絶妙な間が好きでたまらない。
映像の世界で引く手数多の彼の原点は演劇だ。三谷幸喜率いる東京サンシャインボーイズに所属。充電期間になる1994年まで出演を続け、映像へも進出した。
「振り返れば奴がいる」(CX)にもいた気がするし、「お水の花道」(CX)にもいた気がするし、ごくせん(NTV)にもいた気がするし……。
今動画配信されている懐かしいドラマの中にもたくさん出演しているはずだ。
近年は「遺留捜査」(EX)で主人公・糸村聡の相棒的存在の科捜研・村木繁と言えば、誰でも「あー、はいはい」と返事が返ってくる。(なお、この役名「大空港2013」(WOWOW)の役名でもある。役柄は全く違うが)
その、名バイプレイヤー甲本雅裕が初主演した映画『高津川』がコロナ禍を経ていよいよ全国順次公開される。監督は彼に当て書きしたというのだが、どんな主人公なのだろうか。
あらすじ
ダムが一つもない一級河川、島根県を流れる日本一の清流「高津川」。地元の誇りである「神楽」の舞いは歌舞伎の源流ともいわれ、代々舞手が受け継がれて来た。その流域で牧場を経営している斎藤学(甲本雅裕)は、今年舞手の舞台を踏む息子・竜也が稽古をさぼってばかりいることや、竜也の進路のことなどを危惧する日々だった。
地方では都会への若者の流出による人口減、祭りや技術、文化の伝承の存続は危機的状況にあり、高津川流域で暮らす人々も同じ問題を抱えていた。そんな時、母校である小学校が閉校になるという知らせや、高津川上流にリゾート開発の話が持ち上がり、学は同級生らと集まって何をすべきか相談することにする。
主人公・学は牧場を経営している。妻を亡くし、家族は母親の絹江、大学からUターンしてきた娘の七海、間もなく将来の進路を決めなければならない息子の竜也の4人。そこにIターンで移住し、牧場で働く佳奈がいる。自身も地元の誇りと思い、伝承することに力を入れる石見神楽に息子がどう向き合うのかに気を揉む。また地域にも目を向け石見神楽の集まりから一線を引いた同級生誠の父・正がひとりで暮らす姿に気をかける。学は妻を亡くしてからずっと子ども達を育て、守り、この地で生きている。自分の胸の内はなかなか表に出さないところもありながら、同級生たちには頼りにされている男だ。
自分の近くにも「こんな人、いる」と思える人物。普通にその辺りにいそうな男である。
だからこそ、演じるのは難しい。そんな役を監督は必ず演じ切ってもらえると信じて当て書きしたのだろう。
役者はそこにはいないのに、あたかも昔からいたような佇まいをすぐに出せなければならない。その技は長年バイプレイヤーとしてたくさんの役を演じてきた甲本雅裕だから出来る役と言えるだろう。
脚本・監督は映画『RAILWAYS -49歳で電車の運転士になった男の物語-』、『わさお』の錦織良成。
学や地元で暮らし続ける人々を通して、今の地方での問題が垣間見える。過疎化は高齢化や文化技術伝承の断絶など様々な問題につながっている。更に自身たちが通った小学校の閉校が決まり、高津川上流のリゾート開発計画も聞こえてくる。過疎化の窮地に追いやられながらもどうすれば自分たちの故郷を今のまま残すことが出来るのか、出て行った人たちが戻ってきてくれるのかと思案する姿に、筆者が住む岐阜と同じ光景を見た気がする。
この映画には地元に残り、地元で生きている人々が描かれている。
錦織監督は自身が生まれ、暮らす島根県を舞台に地元の人たちの生活を描いた。高津川が流れる島根県益田市は豊かな自然と先祖から代々伝わる石見神楽がある場所だ。祭りを伝えるということが生活の一つになっている。石見神楽の稽古や実際の神楽もこの映画にしっかりと収められた。
高津川の周りで生きる普通の人たちを優しく描いている映画。当たり前にその場にあることは実はとても素敵なことなのだと、気づかされる映画。
とにかくゆったりとした時間が流れる中で、後半じんわりと胸が熱くなる。ラストシーンの学の姿に甲本雅裕の真骨頂を見た気がした。
映画『高津川』https://takatsugawa-movie.jp/ は3月18日(金)より愛知 名演小劇場で公開。4月9日より三重 伊勢進富座で公開。
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