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©2023 映画「隣人 X 疑惑の彼女」製作委員会 ©パリュスあや子/講談社

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Xのいる世界を通して気づく大事なもの(映画『隣人X -疑惑の彼女-』熊澤尚人監督インタビュー)

12月1日公開の映画『隣人X -疑惑の彼女-』。故郷を追われた惑星難民Xの受け入れを発表した日本。人間の姿をそっくりコピーして日常に紛れ込んだXがどこで暮らしているのか。Xは誰なのか。そして彼らの目的は何なのか。人々は言葉にならない不安や恐怖を抱き、隣にいるかもしれないXを見つけ出そうと躍起になる。週刊誌記者の笹は、スクープのため正体を隠してX疑惑のある良子へ近づいていく。

パリュスあや子が海外へ移住した経験から想起した小説を、熊澤尚人監督が新たな視点を盛り込み映画化した本作は『虹の女神Rainbow Song』以来17年ぶりのタッグとなる上野樹里、『ダイブ!!』以来15年ぶりのタッグとなる林遣都が共演したことも話題となっている。

愛知県名古屋市出身の熊澤尚人監督に映画について伺った。

⇒『隣人X -疑惑の彼女-』滋賀撮影潜入レポートはこちら

Q.久しぶりの名古屋ですか?

熊澤尚人監督(以下 熊澤監督)
「今回『隣人X -疑惑の彼女-』を撮るにあたって、名古屋オーディションをしたんです。撮影場所が滋賀県の彦根市がメインで。滋賀は実は名古屋からすごく近いんです。彦根にロケハンで行く時も、名古屋から新幹線と在来線で40分ぐらいで行けるので近くて。名古屋には地元で活躍されているタレントさん、俳優さんも、いっぱいいらっしゃるので、募集して何人か名古屋の役者さんに出ていただいています」

色眼鏡で見ること、偏見をテーマに

Q.パリュスあや子さんの原作を読まれた感想をお聞かせください。

熊澤監督
「原作小説は、45歳の女性と26歳の女性と19歳の女性、3人から構成される群像劇なんですよ。映画は36歳の女性が主人公のお話で、そういう意味では全然違う話になっています。原作をちょうどコロナ禍の最中に読みましたが、見えない偏見、無意識の偏見、色眼鏡で人を見ることを描いている小説で、それがすごくしっくり来て、これは今、映画にするべきだなと思いました。僕自身もコロナ禍を経験して、以前と比べると他人との距離感への意識がすごく変わったんです。皆さんもそうだと思うんですが、例えば、電車で知らない人と隣になりましたという時に、コロナの時は隣の人に対して、無意識にフィルターをかけて見てしまったという経験があると思うんです。元々コロナ禍前から他人をちょっと色眼鏡で見てしまうことはあったとは思うんですけど、コロナでよりそういう経験をたくさんするようになって、距離感が変わってきたことをすごく感じていたので、一見、同じ人間なのになにか違和感を感じてしまったり、色眼鏡で見てしまうことは本当はよくないことだよな、それをテーマに映画が作れたら、大切なことが伝えられる映画になるんじゃないかと考えました」

熊澤尚人監督

熊澤尚人監督

Q.映画にするためにどのように脚本化しようと考えられましたか?

熊澤監督
「そのテーマに照らし合わせて、特に女性の30代中盤は、色眼鏡で見られたり、 周りから偏見の目で見られる経験が、すごくたくさんあると思うんですよ。親世代から色々言われたり、仕事、出産、子供をどうするかという話に直面するじゃないですか。そういう中で、自分で本当は考えて決めたいんだけど、周りから結構色々言われて揺らいでしまう経験や苦しい思いをされると思うんですよね。だから、そういう30代の中盤の女性を主人公にすると、すごくポピュラリティもあるし、ドラマとして響いていくのではないかと考えて書いていきました」

Q.脚本作りは順調でしたか?書き上げるのにどれくらいかかりましたか?

熊澤監督
「今回は2年かかりました。僕の中では見えない偏見、無意識の偏見がテーマで、そこはぶれなかったんですが、入口がちょっとSFチックじゃないですか。惑星難民Xが日本に来ましたから始まりますし。「この作品面白いね」と言ってくれるプロデューサーの方が何人もいて。それぞれ「もっとラブストーリーを増やしてみたらどうか」とか「よりSFチックにしたらどうか」とかアイディアを出して下さって。いろんな要素がある映画なので、どこに比重を置くか試行錯誤しました。最終的にはこういうバランスの作品が1番フィットするんじゃないのかなというものを見つけ出す作業に時間がかかりました」

Q.今までの監督の作風からSFが出てくるとは思っていませんでした。拝見してみたらやっぱり良子と笹の出会いのお話でした。

熊澤監督
「入口はSF的なんですが、林遣都くん演じる笹と、上野樹里さん演じる良子の2人の日常の話を僕は描きたかったので、 実はSFではなくて、現実の日常の自分たちと何にも変わらない、本当にそんなに裕福ではなく、厳しい中で働いている女性と、会社で上から色々言われてすごく苦しんでいる30歳の若手男性の等身大の悩みや苦しみ、ささやかな喜びを1番大切に描いて行きたいなと思ったんですね」

Q.撮影や編集でこだわった点があれば、教えてください

熊澤監督
「コロナウイルスも未知の病気で、みんなが「え?そんなのあるの」と思っていたものが広がって、それに対応していくしかなくなったわけじゃないですか。何が起こるかわからないのが世の中で、実際に違う惑星から難民が来た時に、皆さんならどう考えますかというのが、この『隣人X -疑惑の彼女-』の1つの面白いポイントじゃないかと思っています。映画の中で追っているのは、何の変哲もない契約社員の青年だったり、アルバイトをやっている女性なんですが、Xという存在が見えないけど、実は絶えずそこにあるというのを伝えるために映画的なカットや音楽を配置しました。そのバランスの取り方が、上野さんと林くん2人のお芝居が素晴らしくて、そこに1番僕はポイントを置いて編集しているので、結構難しかったですね」

©2023 映画「隣人 X 疑惑の彼女」製作委員会 ©パリュスあや子/講談社

©2023 映画「隣人 X 疑惑の彼女」製作委員会 ©パリュスあや子/講談社

上野さん以外ありえない

Q.上野さんとは17年ぶりのタッグですが、上野さんを良子に決められた理由を教えてください。

熊澤監督
「周りの価値観にちょっと影響を受けたりする事ってあると思うんですが、主人公の良子はそうではなくて、周りの価値観に振り回されないで、自分の心で感じたことを一番大切にして、自分でちゃんと考えて決断する人なんですよ。そういう女性を脚本第1稿として書いている最中に、これは上野樹里さんだなあと僕の中ではなっていったというのが実情です。それは上野さん自身が、周りの価値観に揺れることが全くない女性で、自分の心で感じたことを1番大切にして生きている方だからです。上野さんが20歳の時に一緒に映画を作ったんですが、ずっと変わらないです。上野さんが演じればご本人の持っているものもありますから、説得力もあり、映画にすごくプラスになるだろうなと。それに今回上野さんが演じる役はXかもしれないと言われる訳じゃないですか。ちょっとミステリアスな部分も必要です。上野さんが出ていた韓国映画の『ビューティー・インサイド』を前に観ていて、ミステリアスな役もいいなと思っていたので、良子にはそういう部分もあるので、上野さんならはまるなと思いました。上野さんはすごくナチュラルな芝居をする人だということはよくわかっているので、日常のささやかなことを演じさせれば、すごくリアルに、本当にコンビニで働いている人に見える。上野さん以外ありえないと思ってオファーしました」

Q.脚本を読んだ上野さんとすごく長くお話したと聞きました。それは20歳のころから変わりませんか?

熊澤監督
「そうですね。すごく記憶にあるのが『虹の女神Rainbow Song』を撮った時にあるシーンで「ここのセリフがうまく自分としては行ってない、映画が良くなくなってしまう」と監督の僕に話してきて。1回撮影を止めて、2時間ぐらい話したことがありました。もう10何年も前なので、撮影を止めてはいけないみたいな変な空気があって。そこで20歳の女の子が「監督、すいません」と正直にちゃんと言えるって、すごいことだと思うんですよ。遠慮して言えなくなる人はいっぱいいるじゃないですか。すごく素晴らしい女優さんだなと印象に残っていて、それが今回に繋がっています。今回も脚本の第2稿を渡したら読んですぐ上野さんから電話がかかってきたんです。本人からすごい熱量で、「すごくなんか惹かれる、やってみたい」と。「ここはこういうのをもっと入れたらどうでしょうか」とどんどん話してくれて。かなり長い時間話しました。作品に対する思いは以前よりも強くなっていると感じました。そして上野さんは20歳の時はいい意味で尖った感じがあったと思うんですが、今はすごく柔らかさがあるんです。それを良子というキャラクターにも出してみましょうと上野さんと話しました」

Q.林遣都さんも15年ぶりですね。

熊澤監督
「林遣都くんはすごくかっこいいじゃないですか。「おっさんずラブ」ですごい人気になって、いわゆる2枚目で、美青年で。顔の造形も美しい。俳優さんによってはあまりかっこ悪い役をやりたくないという俳優さんもいますよね、でも林遣都は、昔から変わらないんですけど、真面目なんです。 演技に対してすごく誠実に考える人なんです。僕は笹という人物で人間のダメな部分や弱い部分を徹底的に描きたいと思っていたんです。弱い部分を露呈させることはすごくかっこ悪いじゃないですか。かっこ悪い役をしっかりといい演技でできる俳優と考えた時に林遣都だったら絶対できるなと。彼が15歳の時に一緒に初めてやりましたが、その後の彼の仕事を見てきていますし、業界内で演技に対する彼の真面目なアプローチの話をいっぱい聞いてました。『犬部!』という映画の初号試写を観に行った時に、久々に林遣都くんに会って、今こんな感じになったんだな、笹役が遣都であればすごくいい感じになるんじゃないかと思って、オファーしました」

Q.良子や笹の周りのキャスティングも大変魅力的でした。編集部のキャスティングは濃いですね。

熊澤監督
「嶋田久作さんは前もご一緒していて、今回も楽しんで演じてくださいました。バカリズムさんはテレビで司会されていたり、バラエティに出ていて、どちらかというと柔らかいキャラクターが印象だと思うんですが、ある意味パワハラ的な役をバカリズムさんにやってもらうことで、普段とはちょっと違う面白さというか、独自性がすごく出るんじゃないかなと期待して演じてもらったんですが、見事に狙いを説明しなくても脚本を読んで理解されていて、めちゃくちゃ厳しい副編集長になっていました。それはやっぱりバカリズムさんの才能ですよね。映画が始まり、観客は出演者の誰がXだろう?と思って観ているので、「この人も一見そう見えない?」という個性的な方がいいなと思ってキャスティングしています」

Q.良子の両親役の酒向芳さん、原日出子さんには優しさを感じます。お二人をキャスティングした理由を教えてください。

熊澤監督
「原さんは前作『おもいで写真』にも出てもらっていて、ちょっと天然っぽいところというか、ふわっとしたところがすごく魅力だなと思っていました。今回の役は若干地上から浮いてるというか、いい意味でマイペースな感じのお母さんで、その辺の味を原さんはすごく出すのがうまいだろうなと思ったのでお願いしました。酒向さんは、僕の中では『検察側の罪人』が すごく印象に残っていまして。 とんでもない役、とんでもないキャラクターで、まさに怪演。それ以外も出演されている作品を何本か観てすごく力のある役者さんだなと思いました。今回の酒向さんの役はそれらの作品とは全然違って内向的なお父さんですが、本当は娘のことをすごく考えているのに、それがうまく伝えられないという役を上手にやってくれるだろう、この人ならということで酒向さんにお願いしました」

©2023 映画「隣人 X 疑惑の彼女」製作委員会 ©パリュスあや子/講談社

©2023 映画「隣人 X 疑惑の彼女」製作委員会 ©パリュスあや子/講談社

普通って何だろう?

Q.今回脚本に監督の考え方を反映した部分はありますか?

熊澤監督
「「普通ってなんだろう」とみんなに考えてもらいたいなと思って、普通にまつわる話を書いたんです。「普通はこうじゃん」とか「普通はこうするよね」と日常会話の中でもいっぱい出てきますよね。普通というものを鵜呑みにするだけで、普通が何なのかを考える事はあまりない気がするんです。友達とか上の世代の人たちから「普通はこうだからこうしなさい」と言われてそうしてしまう文化がすごく日本にはあるような気がして。でもその普通は勝手に決められたもので、疑ってみても本当はいいはずなんですよ。 これは私にとっての普通ではない。自分にとっての普通、自然体という言葉に変えて考えると違うということがある気がするんですよ。日本は社会が決めた普通の枠に入らない人はちょっとおかしい人という風にフィルターをかけて見られたり、偏見で見られてしまう気がしています。今、ちょっとずつ多様性と言われて周りの普通じゃなくて、自分の普通を「自分の普通はこれだから、自然体はこれだから」ということを大切にする時代にどんどんなってきていますよね。だから、特に20代、30代の人には周りや上から、今まで普通こうなんだからと言われていたことに対して、それはそれとして、自分だったらどうなのかなと立ち止まって考えるようになってくれたらいいなと思って書きました。実はこれはメインのテーマと繋がっていて枝葉になっているサブテーマだったんです。普通というキーワードにちょっと引っかかってもらいたい、観終わって、普通ってなんだろうなと少なからず感じてもらえるだけでも、映画を作った甲斐があると思っています」

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Xとは誰か。Xを通して笹憲太郎と柏木良子は出会い、変化していく。
コロナ禍で人との接触が希薄になった数年間。これがなければ気づけなかったこともたくさんある。

自分とは違う誰かとの出会い。そして自分とは違う誰かを受け入れること。『隣人X -疑惑の彼女-』を通していろいろなことを考えることが出来るだろう。

映画『隣人X -疑惑の彼女-』https://happinet-phantom.com/rinjinX/ は12月1日(金)より新宿ピカデリー他で全国公開。
東海地区ではミッドランドスクエアシネマ、センチュリーシネマ、ミッドランドシネマ名古屋空港、イオンンシネマ(名古屋茶屋、長久手、各務原、東員、津南)、ユナイテッド・シネマ(豊橋18、岡崎、稲沢、阿久比)、コロナシネマワールド(安城、小牧、大垣)、MOVIX三好で12月1日(金)より公開。

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