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孤独や寂しさから解放してくれる「茶飲友達」とは?(映画『茶飲友達』)
2013年に起きた高齢者売春クラブ摘発のニュースに着想を得て生まれた映画『茶飲友達』が2月4日(土)から公開される。
あらすじ
新聞の三行広告に小さく書かれた「茶飲友達、募集」の文字。妻に先立たれた寂しさから老人が電話をすると年齢の近い女性がやってきて、おいしいお茶を入れてくれる。そのお茶を高い値段で老人は買い求める。茶飲友達の正体は、高齢者専門の売春クラブ「茶飲友達(ティー・フレンド)」。「ティー・ガールズ」と名付けられたコールガールたちは代表のマナとごく普通の若者たちから仕事を斡旋され、働いている。マナはティー・ガールズや若者たちを “ファミリー”と呼び、それぞれ孤独や寂しさを抱えて生きる彼らにとって大事な存在となっていた。
ある日、高齢者施設に住む老人から「茶飲友達が欲しい」と救いを求める連絡が入る。
助けを求める声に応えることは罪なのか
脚本・監督は、2013年、吉行和子主演の『燦燦-さんさん-』で高齢者の婚活をチャーミングに描き出して長編デビューを飾った外山文治。その後も『わさび』、『春なれや』など、短編作品を精力的に発表。2020年には、若い男女の逃避行を描いた村上虹郎、芋生悠主演の長編話題作『ソワレ』を製作。そして今回の『茶飲友達』では群像劇に初挑戦。寂しさを抱く人々を丁寧に捉えた。発せられる言葉も役者を通して声になることで一層刺さる言葉になった。
キャストの多くはワークショップを経て選ばれた。若手だけでなく、60歳以上の役者達がワークショップに参加し、キャスティングされている。
高齢者専門の売春クラブ「茶飲友達(ティー・フレンド)」を経営する主人公・マナを演じたのは、幅広い役柄をこなし、活躍を続ける岡本玲。マナ自身が母との確執を抱え、辛い経験をしてきた過去を持ち、理想の家族を作ろうともがく。今までの役柄では観ることが出来なかった岡本玲の魅力を知ることが出来る。

妻に先立たれ「茶飲友達(ティー・フレンド)」を利用し、次第に生きる活力を取り戻していく時岡茂雄には名脇役・渡辺哲。茂雄の背中が寂しさや喜びを物語る。演技とはセリフを話すだけではないということを改めて気づかされる。
注目は「ティー・ガールズ」に扮する高齢女性達だ。演じたのは、様々な経歴を経た60歳以上の役者たち。孤独な暮らしをしているところをマナに救われ、ティー・ガールズにスカウトされる松子を演じた演劇集団円所属の磯西真喜や慈愛に満ちたティー・ガールズのナンバーワン・道子に49歳で女優としてのキャリアをスタートさせた瀧マキ、稼いだ金をギャンブルにつぎ込んでしまうカヨに岬ミレホなど、個性的なメンバーがそれぞれの事情を抱えながらも「茶飲友達」利用者を優しく包む高齢のコールガールを体当たりで演じた。
今泉力哉監督作品などで活躍めざましい海沼未羽、様々なジャンルの映画や舞台への出演が続く中山求一郎がティー・ガールズで働く若者としてワークショップを通じてキャスティングされた。

たくさんの家族、知人に支えられ、生きていける世の中はどこに行ったのだろう。核家族化が進み、高齢者と若者が一緒に暮らさなくなったことで高齢化による老老介護、介護疲れによる無理心中、孤独死、引きこもり、若年低所得者層の増加による未婚率の増加、少子化、DV、児童虐待と様々な社会問題が浮き彫りになる。悲しいニュースは後を絶たない。
この作品の中ではティー・ガールズとして働く高齢者達の問題だけでなく、ティー・ガールズを送り出す若者達の問題も描かれている。高齢者達は「茶飲友達」と出会い、元気を取り戻していくが、若者達は未来への希望を持てない毎日を生きているように感じる。夢を描いても、実現させられないたくさんの壁が立ちはだかる。本人達ではどうすることも出来ない現実をリアルに描き出す。

長い人生を生き、その先に訪れる豊かな老後。それを夢見て働いても、たどり着いた先に、寂しい日常しかなかったら。それからの日々をどのように生きていくのだろう。
ひとときの幸せを提供すること、寂しさを埋める時間を買うのは罪だろうか。この映画に問われている気がした。
人は死ぬときは一人。わかってはいる。しかし生きている間は誰かに近くにいて欲しい。だが本来の茶飲友達すら身近にいない人もいるのが今の日本の現実ではないだろうか。
映画『茶飲友達』http://teafriend.jp/ は2月4日(土)からユーロスペース他で全国順次公開。東海3県では2月17日(金)より名演小劇場で公開。
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