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親子の証とは何か かりそめの親子のささやかな時間(映画『ごっこ』)

千原ジュニア主演、熊澤尚人監督で製作された映画『ごっこ』が公開されることになった。2015年に撮影された作品だが、原作者の急逝や撮影仕上げまでの資金繰りなど様々な問題があり、公開されるのかどうかもわからなかった作品だった。いわゆる"お蔵入り"となってしまうところだったこの作品が公開にこぎつけたのは今の時代に観てほしい作品、時代に呼ばれた作品だからだ。

あらすじ

引きこもりで一人暮らしをしていた城宮(千原ジュニア)はある日、前の家のベランダで傷だらけで立っている幼児(平尾菜々花)を見つける。衝動的にその幼児を連れ去り、襲おうとしたが、「パパやん」と呼ばれて衝動が止まる。ヨヨ子と名付け、二人で親子として生活をし始めるが、働いていない城宮の資金はすぐに底をつく。ヨヨ子と実家に帰った城宮は老人ホームに行くと周りには伝えてひっそりと死んだ父親(秋野太作)の年金を不正受給しながら家業の帽子屋を営む。城宮のことをよく知っている幼馴染みで警察官のマチ(優香)はヨヨ子が城宮の本当の娘ではないのではないかと疑い始める。不正受給をマチに咎められ、ヨヨ子の本当の父親になろうと働き始めた城宮だったが…。

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原作は小路啓之。小路氏はこの映画の完成を観ることなく急逝した。監督は原作ものの映画化が続く熊澤尚人。今回は高橋泉と脚本を手掛けただけではなく編集も担当している。奇しくも小路の命日10月20日から公開される。

熊澤尚人監督と言えば青春ドラマやラブストーリーもののイメージがあったが、この『ごっこ』にはかなり驚いた。幼児虐待、誘拐、年金不正受給、暴力など様々な問題が原作以上に際どく映画の中に映し出されており、キラキラ輝く青春時代はどこにもない。しかしかりそめの父娘の生活は不安定だがささやかに生きていこうとする姿を捉えていて学園ものや恋愛ものとはまた違う心打たれる作品になっている。

 

お蔵入りを免れた作品

撮影後、すぐに編集に移りたかった熊澤監督だったが、そうはいかない状況であることを知り愕然としたという。全てが滞っていた。監督は自らの手でなんとか編集し、公開に向けて新たなプロデューサーや支援者を探した。芳賀プロデューサーは監督が編集した『ごっこ』を観て感動し、プロデューサーを引き受けた。撮影から2年。やっと公開が決まった。

引きこもり男、衝動的に父親になる

仕事をやめてから引きこもりだった城宮はヨヨ子の父親になったことで大人として世間との繋がりを取り戻すことになった。
不器用な男の不器用なりに一生懸命な姿が映し出される。子は親を見て育つ。それまで引きこもっていたときには出来なかったことを城宮はヨヨ子の前で見せていく。ヨヨ子が見ている時はキレないで耐える。ヨヨ子がいるから耐えられる。休む間もなくヨヨ子のために働くが、元来自分のことだけでも精一杯な城宮の心は、次第に"限界"を超えていく。

あの時だから出来た芝居

役者は経験していないことも演じなければいけないが、実体験があればそこから役へのアプローチも可能になる。この作品は2015年の撮影。千原ジュニアが結婚した年。子育ての経験はないまさに“ごっこ”な時間が撮影の中にはあった。もし、今撮影したのなら千原ジュニアはこの芝居をしなかったのではないかと思うシーンがいくつもあった。“ごっこ”が次第に本物になっていく様がこの作品の中でじっくり描かれる。

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その千原ジュニアの父性を引き出したのはヨヨ子役の平尾菜々花。言葉は多くないが城宮の不器用さを捉え、はっきりと見抜き、癒す。そして観る者の心を離さない。まっすぐな強い眼差しに見つめられる。城宮の抱えた闇、ヨヨ子が背負う負い目。お互いがそれを見せないように懸命に生きるからこそ、ヨヨ子が隠した真実が明らかになった時、切なくなる。小さな心でそんなことを考えていたのかと。

もっと女優として評価されてもいい優香の芝居に注目

脇役陣のキャスティングも絶妙。城宮の父親に秋野太作、城宮家の内情を知る隣人に石橋蓮司。そして注目は城宮の幼馴染みマチを演じる優香。バラエティ、司会、役者と様々なジャンルで活躍する彼女は素晴らしいバイプレイヤーであることを忘れてはならない。TBS 『青の時代』でドラマデビュー後、役者としてのキャリアは20年。主役も出来るが脇役として主役を際立たせる役者として評価したい。夫である青木崇高との共演で話題になったNHK『ちかえもん』での年増の遊女役はとにかく素敵だった。今回は城宮のことをわかっているがゆえに警察官としての立場と幼馴染みとしての思いに揺れ動きながら城宮父娘と接する役。台詞では表せない微妙な表情の変化に注目したい。

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血の繋がりだけが親子の証では決してない。絆が親子の証だ。城宮とヨヨ子は誘拐という世間では許されない行動で出会った。だが強い絆で結ばれた親子だ。

偽物が本物になる映画『ペーパームーン』のようにはうまくいかないのが現実。誘拐が罰せられないことはないのが現実。だが『ごっこ』を観ると許してやってほしいと願ってしまう。

清水富美加(千眼美子)演じる紅葉が登場するラストシーンは13年の空白を埋めていく。ヨヨ子のために黙秘する城宮。このラストシーンで城宮は本物の父親になる。

 

『ごっこ』 http://gokko-movie.jp は10月20日より公開
東海地区では10月20日より愛知・名演小劇場で公開

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