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映画『Good Luck』足立紳監督登壇 名古屋シネマスコーレ舞台挨拶レポート
映画『Good Luck』公開記念舞台挨拶が名古屋シネマスコーレで行われ、足立紳監督が登壇した。その模様をお届けする。(進行:シネマスコーレ坪井支配人)
坪井支配人(以後 坪井さん)
「足立監督、シネマスコーレに来ていただいたのは『14の夜』以来でしょうか」
足立紳監督(以後 足立監督)
「そうですね。2016年ですから、ほぼ9年ぶりになります。あの時も確か年末の押し迫った時期だった記憶があります」
坪井さん
「約10年ぶりの新作を携えて戻ってきていただきましてありがとうございます。ではまずこの映画を作るきっかけについて教えてください」
足立監督
「きっかけは、劇中にも出てくる大分県の「別府ブルーバード劇場」です。94歳のおばあちゃん(岡村照館長)がいらっしゃる名物映画館なのですが、そこで数年前からブルーバード劇場で上映するための短編映画を作るプロジェクトが動いていまして。今回がその第8作目で、「足立さん、やりませんか?」とお声がけいただいたんです。僕も何度か伺ったことがあって大好きな劇場だったので、「ぜひやらせてください」とお引き受けしたのがスタートでした」

足立紳監督
坪井さん
「短編プロジェクトとして始まったわけですか。足立監督の前には齊藤工さんなども監督されていますね。企画自体はいつ頃動いていたんですか 」
足立監督
「お話をいただいたのが2023年の秋頃で、撮影は翌2024年の4月末に1週間ほどで行いました」
坪井さん
「最初は短編という枠組みだったわけですが、お話の内容も最初から今のような形だったんですか」
足立監督
「はい。ロードムービーというほど大層なものではなかったのですが、「自主映画を撮っている若者が、映画祭に呼ばれて行ってみたらボロカスに言われてしまい、そのまま周辺をウロウロする」という話を、30分〜40分くらいの短編にしようと考えていました」
坪井さん
「企画段階ではブルーバード劇場側とも相談されたんですか」
足立監督
「基本的には「自由にやってください」というスタンスでした。プロット(メモ書き)のようなものを読んでいただいて「いいんじゃないでしょうか」と。ただ、女の子一人くらいは出そうかなと思って、主役の男の子(太郎)と女の子(未希)だけはオーディションで選ぶことにしたんです。そこで天野はなさんに初めてお会いしたのですが、オーディションでの彼女が本当に魅力的で。そこから台本を書き始めたら、ちょっと話が膨らんでしまったんです(笑)」
坪井さん
「なるほど(笑)。そこで長くなりそうだなと」
足立監督
「でも「50分くらいならまだ短編の範疇ですよね」と確認して、「大丈夫ですよ」と言っていただいたので、とりあえず50分の作品にするつもりでクランクインしました」
坪井さん
「現場に入るまでは、まだ50分に収めるつもりだったんですね。でも、撮影中に「これは長くなる」と思った瞬間はどこだったんですか」
足立監督
「撮っている最中にもう「あ、無理だ」と思っていました(笑)」
坪井さん
「初日からですか? さすがにそれは……」
足立監督
「初日はまだでしたが、2日目、3日目と撮っていくうちに、主演の二人やただ歩いているだけのシーンを撮っていて、なんだか切りたくないなと感じてきてしまって。でも、相談するタイミングもないので「これ、50分には収まらないだろうな」という心配というか、どう言い訳しようかという思いでした(笑)」
坪井さん
「プロジェクトのコンセプトから逸脱してしまうわけですからね」
足立監督
「そうなんです。本来は「ふらっと立ち寄って短編を見て、映画館をさっと出る」というのがプロジェクトのコンセプトですから。100分を超える長編になると、その気軽な感覚が失われてしまうのではないかと」
坪井さん
「撮り終わる頃には、もう長編になると自分の中で確信があったんですね」
足立監督
「案の定、編集担当の方の感覚で繋いでもらったら、1時間55分もありました。「やっぱりそうだよな」と(笑)。それで正直にプロジェクトの方々に観ていただいて、「すいません、今こういう尺になっています。切れと言われれば切りますが、いかがでしょうか」と伺ったら、内容を面白がってくださって。「では今回は長編にしちゃいましょう」ということになったんです」
坪井さん
「そうだったんですね。主演の佐野弘樹さんと天野はなさん、この二人だったからこそ切れないシーンが生まれたというのもありますか? 二人の会話が延々と続きます。結果的に104分になったことで、我々観客も二人の会話をたっぷり見られるわけですが」

©︎2025「Good Luck」製作委員会(別府短編プロジェクト・TAMAKAN・theROOM)
足立監督
「ありますね。オーディションの時から魅力的な二人だとは思っていましたが、現場で撮っていくうちに、どんどん彼らのことが好きになっていって。このやり取りは切りたくないとなってしまいました」
坪井さん
「脚本についても伺いたいのですが、長いものを短くするのも大変ですが、その逆も難しいですよね。脚本上では50分のつもりで書いていたものが、実際には長くなった。その差はどういうところにあるんですか?」
足立監督
「実は、脚本の段階でも「50分にしろと言われればできるけれど、そうすると味も素っ気もないものになるな」という予感はありました。例えば、主人公が一人でウロウロ歩いている場面。脚本上は「太郎が歩いている」という一行で済みますが、それを実際に撮ると……」
坪井さん
「実際に撮ると、しっかり時間がかかるわけですね」
足立監督
「そうなんです。だから、もし「切れ」と言われたら、そういう情緒の部分を切っていくしかないなと思っていました」
坪井さん
「実際にこうして長編作品として世に出て、皆さんに観てもらうことについてはどうですか」
足立監督
「僕自身はかなりドキドキしていました。「短編でよかったじゃないか」という声が出るのではないかと怖かったです」
坪井さん
「映画館側からのリクエストは何かあったんですか」
足立監督
「ブルーバード劇場を出してくださいというリクエストがあったくらいで、本当にそれ以外は自由でした」
坪井さん
「劇中に、ブルーバード劇場を彷彿とさせる映画館のシーンがありますよね。そこで板谷由夏さんが演じている役。あれはブルーバード劇場の……」
足立監督
「森田真帆さん(プロデューサー)がモデルですね」
坪井さん
「板谷さん、すごいですよね。あれは監督の演出なんですか」
足立監督
「板谷さんが森田さんのパーソナリティをご存知だったのかは分からないのですが、似てます」
坪井さん
「森田さんなら舞台挨拶で「つまんない」とかハッキリ言いそうですもんね(笑)。あのおなじみの名物劇場の空気感が、しっかり映っている」
足立監督
「短編プロジェクトを立ち上げたのが森田さんですからね。彼女の劇場への愛情は本当に深いです」
坪井さん
「舞台となった豊後大野市についても伺いたいです。あの鍾乳洞のシーンは個人的にすごく気になりました。あんな場所なかなかないですよね」
足立監督
「今回「別府短編プロジェクト」ではありますが、基本的には豊後大野市からご協力いただけたので、「豊後大野で撮ってほしい」という話だったんです。僕も行ったことがなかったのですが、行ってみたら鍾乳洞の中にテントサウナを置いて、そこから鍾乳洞の水の中に飛び込むという。名物らしいのですが、僕が行った時はお客さんが全然いなくて(笑)」
坪井さん
「この映画で有名になるかもしれませんね!」
足立監督
「僕は水に浸かっていないんですが、試した助監督が「これ、冷たさが半端ないっすよ!」と言っていました(笑)」
坪井さん
「武正晴監督が出ていましたね。ラーメン屋のシーンで美味そうに食べている。あれは友情出演ですか」
足立監督
「武さんは、僕が地方で映画を撮っていると割と来てくれるんですよ(笑)」
坪井さん
「本当に名コンビというか、相棒ですね」
足立監督
「今回の撮影は1週間だったんですが、武さんはそのうち4日間も現場にいて、かなり手伝ってくれました」
坪井さん
「手伝いまで(笑)。それでワンシーン、ラーメンを食べている客でご出演をされて」
足立監督
「せっかく現場にいて手伝ってくれているから、出てくださいよと」
坪井さん
「武監督の贅沢な使い方ですね。僕がどうしても聞きたかったのが、一度「映画が壊れる」シーンがあるじゃないですか。カットがかかって、いないはずの彼女が現れて……あれは一種の賭けというか。映画の没入感を壊す表現は、怖くてやれない人も多いと思うのですが、あれはどうして入れようとしたんですか」
足立監督
「今回は商業映画ではなく自由にやれるプロジェクトだったので、作り手としての不安、そして「映画監督が主役」という物語であることを踏まえて、そのメタ的な部分をあえて出してみても、フィクションとして成立するのでさないかと思ったんです。以前からやってみたいと思っていましたが、なかなか勇気が出なくて。今回、ようやくやれました」
坪井さん
「プロデューサーからすれば「何やってるんだ」と言われかねないシーンですが、自由な企画だからこそできたんですね。他にもオーディションで主演の二人を選べたことも大きかったですか」
足立監督
「そうですね。商業映画だとキャスティングありきになることが多いですが、オーディションで選べるのは本当に嬉しいことです。佐野さんも天野さんも直接は存じ上げなかったのですが、佐野くんはこの撮影の後に『SUPER HAPPY FOREVER』がヒットして注目されました。当時はそんなことも知らず、純粋に俳優として出会えたことがワクワクしました」
坪井さん
「加藤紗希さんや篠田諒さんもオーディションですか」
足立監督
「そうです。最後まで残った4人の方、皆さんに出ていただいたという形です」

舞台挨拶ではフォトセッションが行われた
坪井さん
「最後に一言お願いします」
足立監督
「今日は本当にありがとうございました。本当に小さな映画ですので、存在を知っていただくだけでも大変なことだと思っています。もし少しでも面白いと思っていただけたら、周りの方に「こういう映画があるよ」と伝えていただけたら嬉しいです。ありがとうございました」

舞台挨拶終了後のサイン会では観客と直接交流も

左:足立紳監督 中央:足立晃子プロデューサー 右:撮影 俵謙太さん
映画『Good Luck』https://mapinc.jp/film/good-luck/は 名古屋シネマスコーレで公開中。

©︎2025「Good Luck」製作委員会(別府短編プロジェクト・TAMAKAN・theROOM)
映画『Good Luck』
キャスト
佐野弘樹 天野はな 加藤紗希 篠田諒 剛力彩芽 板谷由夏
スタッフ
監督・脚本 足立紳
企画・プロデュース:釘宮道広 森田真帆
プロデューサー:坂井正徳 足立晃子
撮影:俵謙太 照明:福⽥裕佐 録⾳:⾅井勝
助監督:草場尚也 制作担当:太⽥勝⼀郎 編集:平野⼀樹
制作プロダクション:theROOM
協⼒:豊後⼤野市 別府市
配給:MAP 配給協⼒:ミカタ・エンタテインメント
2024年|⽇本|104分
©2025「Good Luck」製作委員会(別府短編プロジェクト・TAMAKAN・theROOM)
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