Cafemirage

Cafe Mirage--岐阜発 映画・エンタメ情報サイト

カテゴリリンク

EntaMirage! Movie

友人の恋人に会いに行く(映画『婚約者の友人』)

あなたは友人といえばどのあたりまでの関係なら友人と呼ぶのだろう。
知人と友人と恋人の線引きはどこなのか。違いは?

婚約者をなくした女性のもとに婚約者の友人だという男性が突然現れる。
婚約者の墓の前で泣いていたその男を
あなたならどう受け入れるだろうか。

『婚約者の友人』あらすじ

1919年、ドイツ。婚約者・フランツを戦争で亡くしたアンナは悲しみの日々を送っていた。
ある日フランツの墓の前で泣いている男・アドリアンと出会う。
アドリアンは戦前のパリでフランツと友人だったと言い、
フランツの思い出話を両親と婚約者のアンナに話す。
アドリアンにアンナが婚約者の友人以上の気持ちを抱いた頃、
アドリアンは隠していたことをアンナに打ち明ける。

かけらを探す人たち

舞台は第一次世界大戦後のドイツ。
ドイツ人は戦争に負けたことで大きな制裁を受けていた頃で
勝者のフランス人を目の敵にしている。
フランツを失い何かが足りない日々を送る
フランツの両親、そしてアンナ。
そこにやって来たフランス人・アドリアン。
彼らはフランツの思い出のかけらをお互いに見いだす。

 

モノクロームからカラーに変わる演出

フランツの死で鮮やかさを失った世界。
この作品は基本モノクロームだ。
モノクロだからこその美がこの作品にはある。
それは陰影だ。
カラーの世界では描けない微妙な影の深さが
この作品に重みを持たせる。
建造物や景色もモノクロになることで違う味わいを見せる。

そこに入れ込まれるカラーのカット。
モノクロの世界に突然現れるカラーの威力はすごい。
失った時間が戻ってくるようでもあり、
真実を隠すための嘘の鮮やかさを描き、
再び回り出す時間も表現する。

モノクロームからカラーへ変化するのは
誰の視点なのか。
それを随所で考えるのが面白い。

 

消えては現れる嘘。優しい嘘は時に必要

この作品にはいくつもの嘘が登場する。
建前の嘘、優しい嘘。
アドリアンの告白によってアンナも嘘と真実の狭間で苦悩する。

 

戯曲の解釈を変えることで生まれた作品

この作品は『私が殺した男』というタイトルでエルンスト・ルビッチ監督が映画化していた。
映画でも戯曲でもフランスから来た男性視点だが
フランソワ・オゾン監督は婚約者を亡くした女性視点に変更。
視点を変えたことで「滑稽な告白劇」だったものが
真実を解き明かす謎解き要素も入りつつ、
男女の心の動きが感じられる作品に生まれ変わっている。
ナイーブなアドリアン、フランツとアドリアンの間で揺れ動くアンナ。
魅力的なキャラクターだ。

アンナを演じたパウラ・ベーアはこの時20歳。
落ち着いた雰囲気と機微な心情を表現していて
その年齢だとは思わなかった。
パウラの落ち着きとどこか影があるような雰囲気を
監督が気に入っての起用だったという。

 

勝者にも敗者にも犠牲者は存在する

ドイツとフランス。お互いの国の言葉を勉強するのが当たり前の関係だった
2つの国が戦争で敵対し、多くの若者が犠牲になった。
アンナとアドリアンの関係を描きながら
残された親たちのその後を描いている。
戦争は誰も幸せにしないと改めて思った。

 

婚約者の友人という男はなぜわざわざドイツまでやって来たのか。
監督の演出マジックとナイーブなアドリアンには
最後まで騙された。
男と女はやはり一筋縄ではいかない。

『婚約者の友人』(http://www.frantz-movie.com/)は
10月21日よりシネスイッチ銀座ほかで公開。
東海地区では10月21日より名古屋・伏見ミリオン座、
11月25日より静岡・シネ・ギャラリーで公開。
岐阜・CINEX、浜松・シネマイーラは順次公開予定。

-EntaMirage!, Movie

おすすめの記事はこれ!

『アフター・ザ・クエイク』ビジュアル 1
「空っぽ」から始まる希望の物語-映画『アフター・ザ・クエイク』井上剛監督インタビュー

村上春樹の傑作短編連作「神の子どもたちはみな踊る」を原作に、新たな解釈とオリジナ ...

IMG_2338_ 2
名古屋発、世界を侵食する「新世代Jホラー」 いよいよ地元で公開 — 映画『NEW RELIGION』KEISHI KONDO監督、瀬戸かほさんインタビュー

KEISHI KONDO監督の長編デビュー作にして、世界中の映画祭を席巻した話題 ...

image (1) 3
明日はもしかしたら自分かも?無実の罪で追われることになったら(映画『俺ではない炎上』)

SNSの匿名性と情報拡散の恐ろしさをテーマにしたノンストップ炎上エンターテイメン ...

IMG_2332_ 4
映画『風のマジム』名古屋ミッドランドスクエアシネマ舞台挨拶レポート

映画『風のマジム』公開記念舞台挨拶が9月14日(日)名古屋ミッドランドスクエアシ ...

©SHM FILMS 5
あなたはこの世界観をどう受け止める?新時代のJホラー『NEW RELIGION』ミッドランドスクエアシネマで公開決定!

世界20以上の国際映画祭に招待され、注目されている映画監督Keishi Kond ...

48e68d79b718232277b1e5de3297914f 6
『ぼくが生きてる、ふたつの世界』の呉美保監督が黄金タッグで描く今の子どもたち(映画『ふつうの子ども』)

昨年『ぼくが生きてる、ふたつの世界』が国内外の映画祭で評価された呉美保監督の新作 ...

僕花_main 7
映画『僕の中に咲く花火』清水友翔監督、安部伊織さん、葵うたのさんインタビュー

Japan Film Festival Los Angeles2022にて20歳 ...

IMG_2204_ 8
映画『僕の中に咲く花火』岐阜CINEX 舞台挨拶レポート

映画『僕の中に咲く花火』の公開記念舞台挨拶が8月23日岐阜市柳ケ瀬の映画館CIN ...

僕花_main 9
23歳の清水友翔監督の故郷で撮影したひと夏の静かに激しい青春物語(映画『僕の中に咲く花火』)

20歳で脚本・監督した映画『The Soloist』がロサンゼルスのJapan ...

25-08-06-09-10-43-381_deco 10
岐阜出身髙橋監督の作品をシアターカフェで一挙上映!「髙橋栄一ノ世界 in シアターカフェ」開催

長編映画『ホゾを咬む』において自身の独自の視点で「愛すること」を描いた岐阜県出身 ...

IMG_1793 11
観てくれたっていいじゃない! 第12回MKE映画祭レポート

第12回MKE映画祭が6月28日岐阜県図書館多目的ホールで開催された。 今回は1 ...