
国際結婚家族に移住計画勃発?(映画『最高の花婿 アンコール』)
2020/05/21
結婚とは結婚する二人だけの話ではない。
二人のそれぞれの家族が大きく関わってくる。
同じ国の二人が結婚するだけでもそれなりに骨が折れることなのに、相手が違う国の人で、宗教や文化が違う人だった場合、さらに様々な障害もある。
4年前、フランスでこの国際結婚をテーマに映画が製作された。フランスは多民族が生活している国家だが、保守的な人たちも多い。結婚という人生一大イベントの相手が外国人なら保守的なフランス人の心は穏やかではない。
その様子をコメディタッチで描いた映画『最高の花婿』はフランスで5人に1人が観る大人気作となり、続編も製作された。その続編がいよいよ日本に上陸する。それが『最高の花婿 アンコール』だ。
あらすじ
待望の四女の子供が生まれることを楽しみにしていたヴェルヌイユ夫妻。夫妻が婿たちの実家を訪ねて世界を旅して帰ると、新たな問題が勃発していた。
婿たちは、普通に暮らしていてもパリで受ける<異文化ハラスメント>に耐えられず、海外移住を宣言。
孫にも会えず、家族がバラバラになることに心を痛める母マリーは、ある“作戦”を思いつくが…。
ヴェルヌイユ家の婿殿は国際色豊か。そして変わらぬ関係性
敬虔なカトリック教徒で保守的なヴェルヌイユ夫妻には4人の娘がいるが、それぞれアラブ人、ユダヤ人、中国人、コートジボワール人と結婚した。
前作『最高の花婿』は相手の宗教や文化に困惑しつつ、娘達の幸せを願って結婚を許すまでを描いた。
韓流ドラマもそうなのだが、家族を描く作品が富裕層を舞台にするのはなぜだろう?
定年しても、お金に余裕のあるクロードと、それぞれがしっかりと自立している子ども達。
フランスで暮らすのに不自由はないはずなのにヴェルヌイユ夫妻が4人の娘を心配するように、4人の娘と娘婿も親になり、日常的にあるフランスでの外国人へ向けられる視線や考え方に住みにくさを感じて子供の将来や自らのさらなる成功を求め、フランスを出て、新たな暮らしを始めようと計画する。
前作のキャストが再集結し、各夫婦の今の生活、会話が描かれていく。お互いの民族性をディスりながら、時には協力し、お互いの不満を言い合う4人の婿達は、嫁の親に対する気持ちが同じという点では妙に気が合う。
絶妙な距離感は前作に引き続き面白い。
コメディパートは危険度満載
前作に引き続き、コメディタッチで騒動が描かれる。
今回のテーマとも言える《異文化ハラスメント》も非難されそうなギリギリのジョークで描かれる。
ちょっとした固定概念、見間違いから来る誤解、権力者批判もさらっと入れてくるあたりは監督のさすがの手腕だと思った。
SNSやパソコンソフト、ノルディックウォーキングと最新トレンドについていく妻・マリーと、定年を迎え、地元の偉人の本を書くのだと未だに手描きで執筆する夫のクロードの対比も非常に面白い。
そこへ前作でもいがみ合ったり気があったりを繰り返していたクロードと4女の婿・シャルルの父・アンドレが再び登場。
シャルルの妹の結婚が引き起こす2人のやりとりにもニヤニヤしてしまう。
話の展開は都合良く出来ていると感じる展開だが、今のフランスをコンパクトに観られる作品だ。どこの国の人も考えていることは同じなんだなと改めて思う。
ぜひ『最高の花婿』、『最高の花婿 アンコール』と両方とも観ていただきたい。
フランスのヴェルヌイユ家の騒動を通して、今を生きる人たちが生きる場所に何を求めているかが見えてくる。
『最高の花婿 アンコール』http://www.cetera.co.jp/hanacore/
はYEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次上映予定。
5月22日より伏見ミリオン座、5月23日より岐阜CINEXで公開。
監督:フィリップ・ドゥ・ショーヴロン『最高の花婿』
脚本:フィリップ・ドゥ・ショーヴロン、ギィ・ローラン
出演:クリスチャン・クラヴィエ、シャンタル・ロビー、メディ・サドゥアン、アリ・アビタン、フレデリック・チョウ、ヌーム・ディアワラ、フレデリック・ベル、ジュリア・ピアトン、エミリー・カーン、エロディー・フォンタン、パスカル・ンゾンジ、サリマタ・カマテ、タチアナ・ロホ、クローディア・タグボ
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