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自身の体と心で表現するということ(映画『名付けようのない踊り』)
2022/01/23
私が田中泯という人を知ったのは映画『たそがれ清兵衛』だった。こんな味のある役者がいたのかと名前を記憶した。その後も様々な映像作品で印象を残す彼が世界を股にかけるソロダンサーであることを知ったのはかなり後のことだ。しかし、実際にどんな踊りを踊っているのかは全く知らなかった。
田中泯という人がどんな踊りをしているのかを観れば彼の芝居が魅力的な理由もわかるのではないか。
彼は何を生み出しているのか。それは彼のどんな生き方から出てきたものなのか。
予告編を観て俄然興味が湧いた。
『メゾン・ド・ヒミコ』(05)への出演オファーをきっかけに親交を重ねてきた犬童一心監督が、2017年8月から2019年11月まで、ポルトガル、パリ、東京、福島、広島、愛媛などを巡りながら田中泯を撮影した『名付けようのない踊り』が1月28日から全国公開される。
1966年からソロダンス活動を開始し、1978年にパリ秋芸術祭で海外デビューを果たしたのをきっかけに、世界中のアーティストと数々のコラボレーションを実現してきた田中泯。そのダンスの公演歴は、現在までに3000回を超える。映画『たそがれ清兵衛』から始まった映像作品への出演も積み重なり、これまでのフィルモグラフィーには、ハリウッドからアジアまで多彩な作品が並ぶ。
そんな独自の存在であり続ける田中泯のダンスを、犬童一心監督が、約2年密着。その間に田中泯は72歳から74歳になり、3か国、33か所で踊りを披露した。ひとりで踊ることもあればドラマーの中村達也、音楽家の大友良英、編集工学者の松岡正剛、ハンガリー人ヴァイオリニストのライコー・フェリックスらジャンルの違う人たちとのコラボもある。

田中泯の踊りはその土地を踏み、噛みしめ、自らの身体をもってその土地の気を感じさせる。彼は自身がそこにいることを確かめるように一歩一歩踏みしめる。その場所の風と心を感じて、ひとつになり、思うままに踊る。
指先から足の先まで。彼が感じたその場所を表現する踊りに型はない。ルールもない。だが漲る力と美しさを感じずにはいられない。
そのダンスの様子や40歳から農作業という生きることに繋がる動きで作られる身体で踊ると決め、自宅で農作業をしながら生活する様子を犬童監督は捉え、田中泯が語る自身のルーツ「私の子ども」の姿を世界で評価されるアニメーション作家・山村浩二が表現する。表現するものでタッチを変える山村が「私の子ども」をどう表現したのかも注目してほしい。田中泯という人を通してダンスとアニメーションと音楽がコラボした芸術作品を観ている感覚になる。
生きるために作られた体、老いを否定せず、ありのまま、今の自分が感じたままを踊る彼の周りに自然とできる人の輪。彼を観ることで観る側は何かを感じる。それは彼が感じていることと同じかもしれないし、違うことかもしれない。しかし彼が踊ることで私たちは同じ場にいるということを共有し、話すことはなくても感覚を共有できる。盆踊り身をふとイメージした。知らない人同士が輪になり踊る。話すことはなくても踊りながらあの日一緒に生きた人々と同じ場所で気持ちを重ね合わせ、思いを共有する。田中泯を囲む人々を観ながらあの感覚を思い出した。

田中泯という人の生き方を知る。それは自身の決めた道をひたすら信じ、進み続ける人の姿を知ることであり、自身の心体で表現するとはこういうことだと教えられた気がした。
あのそこの知れない芝居での存在感はここから来る。納得だった。そして彼の踊りを観ることは私自身の生き方を邂逅する時間にもなった。しっかり生きられているかと。

映画『名付けようのない踊り』https://happinet-phantom.com/unnameable-dance/ は1月21日より山梨先行公開中。1月28日よりヒューマントラストシネマ有楽町で公開(UDCast対応)。
伏見ミリオン座、ユナイテッド・シネマ豊橋18では1月28日より公開。
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