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伝えたい気持ちを抱えて(映画『歩きはじめる言葉たち~漂流ポスト3.11をたずねて~』)
2021/10/24
佐々部清監督の突然の訃報はとにかく信じられなかった。実のところ、今でも
「新作の準備してるからさ、絶対いいから。楽しみにしててよ!」
と言う言葉を残し、新作準備のシナハンやロケハン
走り回って忙しくされているのだろうと思ってしまう。
さてここに2枚の写真がある。


これは名演小劇場で舞台挨拶を行った時の佐々部監督と升毅さんの写真だ。
監督と俳優という関係を越えた2人の関係がわかる写真。舞台挨拶も楽しかった。
『群青色の、とおり道』で出会った2人は佐々部監督が自身で絶対に作品を完成するのだとプロデューサーも兼任して作り上げた渾身作『八重子のハミング』でもすばらしいコンビネーションをみせた。だから、全国の映画館にも2人で行っていた。
佐々部監督の訃報を信じられなかった、受け入れられなかったという佐々部監督の盟友・升毅さんが佐々部監督の足跡を辿る。映画化を実現させたいと思っていた東日本大震災後の東北で撮りたかったものは何なのか。
大切な人が旅立ったあと、様々な思いを抱え、残った自分たちは何が出来るのか。ドキュメンタリー『歩きはじめる言葉たち~漂流ポスト3.11をたずねて~』が10月23日(金)より名演小劇場で公開される。
岩手・陸前高田市に亡き人への手紙を受け取り続ける「漂流ポスト 3.11」がある。東日本大震災で大切な人を失った人の心の拠り所として設置されたこのポストには今では全国から旅立った大切な人への思いが綴られた手紙が寄せられる。このポストをテーマにした劇映画を佐々部監督が撮る予定だった。
しかし様々な理由からその企画はドキュメンタリーに転換。監督は『群青色のとおり道』、『八重子のハミング』でプロデューサーを務めた野村展代さんが務めることになり、動き始めた矢先の佐々部監督の訃報。

佐々部監督の足跡を岩手でたどる中で漂流ポストに向かった撮影チームは漂流ポストを設置した赤川勇治さんの思いや陸前高田で津波に遭った人々の話を聞く。東日本大震災から10年が経った今、残された人々に改めて話を聞き、見えてくる漂流ポストの存在意義。漂流ポストへ手紙を送る人々、受け取る人々の思いを捉える。忘れ去られてはいけないと語っていた佐々部監督が撮りたかったものとはなんだったのだろうか。
あまりにも大きい佐々部ロスに見舞われながら野村監督と佐々部組の俳優、スタッフが自らも手紙を送る側となり、残された自分たちが出来ることを考えていく。

筆者が佐々部監督と初めてお会いしたのは『ツレがうつになりまして。』の現場だった。
あの当時、どんな役でもいいからとにかく現場を見たい、知りたいと思っていた私は冬の寒い東京の早朝にエキストラとしてロケ現場に行く機会を得た。
「岐阜から来たんだよね」と声を掛けてくださったあの日のことは忘れてはいない。
あの日から私は佐々部監督のファンになった。
それ以降、何度か佐々部監督の現場に伺った。
役者の芝居へ返す言葉や、助言も近くで見ることが出来た。
妥協しない作品作り。でも撮影はスピーディ。
助監督時代の経験も生きた撮影スタイルは佐々部監督ならではのものだっただろう。
カメラが回る時のあの掛け声、いい声なのだ。
今も忘れることのないあの声。
いつも楽しそうに昔の現場やこれからの映画の展望を沢山の人に慕われ、囲まれながら話していたあのバイタリティあふれる佐々部監督の姿はいつまでも私の中で憧れだ。
大切な人との別れはいつか必ずやってくる。わかってはいる。だが、やはり寂しい。生きていく私達はずっとその人との思い出を抱えていく。でもやはり寂しい。話したい。あの時言えなかったことを手紙にしたためる。
漂流ポストで手紙を書く升さんに自身を重ねた。
『歩きはじめる言葉たち~漂流ポスト3.11をたずねて~』https://hyoryu-post.com/ は現在全国順次上映中。
10月23日(金)より名演小劇場で公開。10月24日には升毅さん、野村展代監督の舞台挨拶が予定されている。
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