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第37回CINEX映画塾『決算!忠臣蔵』中村義洋監督トークレポート

中村義洋監督が岐阜大学病院をロケ地に撮影した2009年の『ジェネラル・ルージュの凱旋』は現場にいたこともあり、未だに忘れられぬ作品だ。
中村監督の作品の魅力は脚本。ストーリーの構成力と役者の演技が映画をより面白く見せる。

その中村義洋監督が、自らの脚本で忠臣蔵の台所事情を描いた『決算!忠臣蔵』がCINEX映画塾に登場。

第37回CINEX映画塾『決算!忠臣蔵』中村義洋監督のトークレポートをお届けする。(聞き手 岐阜新聞社後藤さん)

後藤さん
「昨年9月にJTフォーラムというイベントがありまして。その時に中村監督にお越しいただいたのが今回のご縁です。また是非岐阜にとお願いしたところお忙しい中、来ていただけました」

中村監督
「岐阜には何の恨みもないですし、撮影で10年ぐらい前にもお世話になりました。だというのに今回の大垣藩の扱いは…。本当に申し訳ありませんでした(笑)」

後藤さん
「9月のイベントの頃はまだ作品を観ていなかったので、大垣藩があんな風だとは思っていませんでした」

中村監督
「あの時が宣伝の始まりでした。関東出身なので、恥ずかしながら岐阜と大垣が結びつかなかったんです。新幹線で向かう途中で「あれ?」っと思って地図を調べたら大垣って岐阜県で。まだ映画を観ていない方にはご容赦くださいとお話しました。実際の撮影は彦根城で行いました。言い訳をするとちゃんとスタッフには「大垣城で撮ろうよ」と言ったんですが、その移動の予算が絞られてしまったんです(笑)。彦根城で他にも撮るシーンがあったので、そこでと。なんか申し訳ない気持ちがあります」

忠臣蔵、コメディになる

後藤さん
「忠臣蔵は時代劇の中でも王道で、なかなか難しかったと思いますが、そもそもどういうきっかけでこの作品を作ることになったんでしょうか?」

中村監督
「お話をいただいたのが2017年の3月14日。その日にプロデューサーから呼び出しがあって、「こんな企画を考えているんですけど、どうですか?」と言われたんですが、「あれ、もしかして松の廊下の日じゃない?」となりまして。プロデューサーも気がついていませんでした。『殿、利息でござる!』と同じプロデューサーなんですが、忠臣蔵でお金を題材にまたコメディにしたいと提案がありました。忠臣蔵でコメディは難しいでしょと思いましたが、『殿、利息でござる!』はお金が貯まる話だったので、「あ、逆か」と。減る話なんだと思ったらこれは笑えるのかなと」

後藤さん
「そば1杯=480円。それを基本に観ればいいのかと、なかなか面白いアイデアだと思いました。原作はあるんですか?」

中村監督
「『忠臣蔵の決算書』という学術書なんですが、お話作りとしては映画でも最後に出てくる大石内蔵助がつけていた『預置候金銀請払帳』かもしれません。一つ一つ項目を読み解いて行ったらやっぱりこれは面白いなと。堀部安兵衛ってヒーローですよね。堀部安兵衛だけで2000万ぐらい使っていたんです。ひどい奴だなと思ったあたりからこれはいけるかもしれないと思いました」

中村監督作品になくてはならぬあの俳優

後藤さん
「キャストは全編に渡ってオールスターキャストと言いますか、多才な俳優陣に細かく役があてられているなと思いました。各キャラクターの立場を面白く観させていただきました。キャスティングはどのように行われたのでしょうか?」

中村監督
「キャスティングは本当に時間をかけました。脚本がオリジナルに近いんです。主役が大石内蔵助じゃなくてもいけるんじゃないかと思えるくらい好きに書くことが出来たんですが、書いている途中からキャスティングはかなり考えていました。主役以外で早々に決まったのは濱田岳と妻夫木くん。岳がこれやってくれたら成立する、妻夫木くんがやってくれたら成立する、といった感じで。妻夫木くんがああいう形で裏切るとは皆さん思わないだろうなと。最後まで堤さんの味方をするだろうなと思わせてくれるだろうという役者なんです。この二人をまず押さえて。そうしたら岳が朝ドラの『わろてんか』に出るというニュースがあって。それで関西弁を勉強してくれるというラッキーなこともありました。その他はあんまり練習しなくてもネイティブに話せる関西圏の人で行きたいと思っていたんです」

後藤さん
「では制作に吉本興業さんが入ってぴったりでしたね」

中村監督
「ぴったりでした。堤さんも兵庫出身ですし」

後藤さん
「関西弁のノリでコメディ忠臣蔵って本当に観やすいし、面白いですね」

中村監督
「いけるかなという不安はありましたが、岳くんと堤さんと岡村さん、関ジャニ∞の横山くんのあたりのチームの話にしたくて、時代劇の標準語だとチームの密接な感じがでなくて、関西弁にしたらその垣根がなくなるんじゃないかと考えました。「ちゃいますのん?」なんて江戸時代の人は言ってないかもしれないですけど、標準語の時代劇でやったらあんなニュアンスは出ないので、目上で、しかもあんなに年収が違う人達がチームになった時にもうちょっと密接な関係にするという上ではベストでしたね」

後藤さん
「石原さとみさんや竹内結子さんという女優陣はその後に決まったんですね」

中村監督
「はい、その後です。取っておいた感じで。誰にしようかなというところで、石原さとみさんは僕の前作にも出ているので」

後藤さん
「ナレーションも担当されて。私のお金使うんじゃねえっていう感じがすごく出ていました」

中村監督
「そうなんです。それで映画が観やすくなるというか。女性の目線で敷居が低く、軽やかになるかなと。竹内結子さんはご出産、今日発表になりましたけど、「公開の頃には理玖ぐらいお腹が大きくなってるんじゃないかな」と話していました。今の旦那さんと出会ったのは岐阜で撮影した『ジェネラル・ルージュの凱旋』のじゃないですかね。その時は何でもなかったと思いますけど(笑)」

大垣には何の恨みもないけれど

後藤さん
「大垣藩でいうと滝藤賢一さん、板尾創路さんがキャスティングされていますね。滝藤さんは監督も何回か起用されていて、私たちから観ると朝ドラ『半分、青い。』の主人公のお父さんをやられていたので、よりによって大垣藩の意地悪な役かと(笑)」

中村監督
「大地康雄さんがやられた奥野将監という人ではなく、実際は小野寺十内と内蔵助が二人で大垣に行ってもう一度お願いしたというのは『預置候金銀請払帳』に書いてあって、それにいくらかかったということも書いてあるんです。こういうことにしてしまったのはそれが大きかったですかね。浅野内匠頭と戸田は従兄弟なんです。阿部サダヲと滝藤賢一が従兄弟。血の気の多さが別の方向に向かった感じです」

中村義洋監督

中村義洋監督

オリジナル脚本は本当に久しぶり

後藤さん
「中村監督の作品はいつも脚本はきっちりしていて、役割やキャラクターが書き込まれているという印象があります」

中村監督
「オリジナルの脚本は自分の自主映画以来、久しぶりなんですよ。20年以上ぶりかもしれなくて。だから今までこんなに楽をしていたのかと思いました。この作品の原作には物語が描かれていないので、そこからどう話を作るかを考えて、ものすごく時間がかかりました。しかも最初はお金はなくなったけど、討ち入るぞというところで終わっていたんです。プロデューサーも「本当にコメディになりましたね」って言っていたんです。でも、3、4か月してから「やっぱり感動させてもらえないか」と言いだして。そこから余り金を捻出したというエピソードをつけたんです」

後藤さん
「脚本にはすごく時間をかけられたわけですね」

中村監督
「今までで一番かかりました」

後藤さん
「忠臣蔵といえば映画界でも歌舞伎でも日本を代表する作品で300以上のドラマや映像があるそうですが、気負いはありましたか?」

中村監督
「ありました。最初、プロデューサーに声をかけられた時はありましたけど、気負ったままでは一行も書けないだろうなと思って、なるべく考えないようにしました」

後藤さん
「色々調べたんですが、我々の世代だと、1978年深作欣二監督の『赤穂城断絶』があります。深作欣二監督はもう一本1994年に佐藤浩市さん、高岡早紀さんで『忠臣蔵外伝 四谷怪談』を撮っています。古くは1941年溝口健二監督の『元禄忠臣蔵』、市川崑監督は1994年高倉健さんで『四十七人の刺客』を撮っています。往年のファンの方だと1958年の『忠臣蔵』が大映制作、長谷川一夫さん、市川雷蔵さん、勝新太郎さん、京マチ子さん、山本富士子さん、若尾文子さんという本当にオールスターキャストで、王道の作品ばかりですよね。そういう定番を違った角度で面白く魅せるというのは映画の醍醐味だと思いますね。内蔵助と長助が同級生というのは本当なんですか?」

中村監督
「そうです。史実です」

後藤さん
「サラリーマンの立場で見ても面白い部分もありましたが、劇場での反応はいかがでしたか?」

中村監督
「岡村さん、あんなに早く死んじゃうんだってよく言われます。それと、討ち入りはやって欲しかったと。プロデューサーとはじめから討ち入りはないねと話していたんです。そうすると吉良も出ないだろうと。挑戦しようとしたことはあったんですけど、悲しくって。お金のことばかり言っていた人たちが、マッチョに斬り合いするのは書けないなというのがあって。大体今後藤さんから紹介された作品は観ています。『四十七人の刺客』の高倉健さんの内蔵助は本当にかっこいい。でも健さんがぐっとかっこいいことを言って引き上げて帰ってきたら岡村さんみたいな人にそれじゃダメだよと言われるということになったら面白いなって考えまして」

後藤さん
「健さんにお金使わないでくださいとか言えませんよね」

中村監督
「でもあったんだろうなと。内蔵助は立派な人だとほぼ100パーセント描かれてきたんですけどね」

後藤さん
「堤さんの内蔵助を観ると、ああ内蔵助も人間だなって思いますし、脚本の勝利ですね」

後藤さん
「今後の新作の予定はありますか?」

中村監督
「実現するかはわかりませんが、やろうとしているものにはまた岐阜が関わりそうです。時代劇なので、ロケはしませんが(笑)」

大好きな70年代必殺シリーズ

後藤さん
「時代劇は元々お好きなんですか?」

中村監督
「大好きです」

後藤さん
「作品を撮るとなると場所とか大変じゃないですか?」

中村監督
「でも、1970年代の『必殺シリーズ』が大好きで。松竹撮影所なんですね」

後藤さん
「この作品は京都の松竹撮影所で撮影されていて、『必殺シリーズ』のスタッフさんもいらしたとパンフレットにも書いてありますね」

中村監督
「いました。でも僕が好きな必殺はその人たちの師匠がやっているんです。この作品に来ていたスタッフさんは僕より年上なんですが、僕が好きな必殺の頃にはまだ働いていないんですよ。だからその辺は皆さんより詳しくて(笑)。「このお寺の山門は中村主水の奉行所で使いました」と言われましたが、僕からするとその前の堀の方が「中村敦夫さんが斬られた場所だよね」という(笑)。その70年代の必殺がすごく自由で。あ、あれをやればいいんだ、何でもありなんだと思って『決算!忠臣蔵』もやらせていただきました。カメラマンにも何でもやっていいと伝えましたし。横のスタジオではその時の必殺シリーズのカメラマンさんが監督をして撮影されていて嬉しかったですね」

後藤さん
「『決算!忠臣蔵』を観ているとスタッフもキャストもチームワークがとてもいい気がします。チーム作りがお上手なんですね」

中村監督
「真面目な話をしないんですよ。逆にみんな真面目で。真面目に言うのがなんか恥ずかしいんですよ。みんな予習してきているし、役者もセリフ飛ぶ人もいないし、完全にセリフが入っていて余裕があります。スタッフはスタッフで考えて来ているのに考えてきたというのを見せないのをかっこよしとするみたいな。内容の話は全くしないです」

後藤さん
「演出で役者さんに指示を出されたりされるんですか?」

中村監督
「衣装合わせだけかもしれないです。その時に大体言ってしまって後はおまかせが多いです」

後藤さん
「では撮り直しはあまりないですか?」

中村監督
「ないですね」

後藤さん
「中村監督が助監督でついていた監督の皆さんはこだわりがあって何度も撮り直しそうなイメージなんですが」

中村監督
「どうですかね?…あんまり粘らなかったと思いますよ。いい意味で。あの頃はフィルムなので、フィルム代を考えると一番いいところで「よーい、スタート!」をかけることに長けていました。何度もやれないので。芝居が固まるまでは本当にカメラは回さなかったです」

後藤さん
「影響を受けた作品や監督はありますか?」

中村監督
「それが伊丹さんなんです。高校3年生の時に伊丹さんの『マルサの女』を観てそこからです。「あ、映画を作る人も当然いるんだ」と高3で初めて気がついて。それまではそんなこと考えずに映画を観ていました。伊丹さんは撮影日記も書かれましたし、メイキングを撮るのを始められた方です。いい仕事だなあと思いました」

後藤さん
「『決算!忠臣蔵』も発想が伊丹さんっぽいなと感じていました」

中村監督
「好きですからね。『マルサの女』も『お葬式』も観たときにこの映画大好きだと思ったので。師匠と思っているよりは好みが似ているのかもしれないですね」

観客から
「忠臣蔵なので、戦っているシーンがあると思ったらなくて、唯一あったのが、剣豪不破さんの立ち回りでしたが、はじめから不破さんのあのシーンはあったんでしょうか?」

中村監督
「全く無しで考えていたくらいなんです。だけど不破は『赤穂城断絶』で千葉真一さんがやっていて凄いアクションするんですよ。不破はいけるんじゃないかと思って、あのシーンを作りました。長助をどうやって退場させようかというのもあったんです。長助は実際は病死なので。ぶっちゃけ1回ぐらいはアクションやろうかとなったんです。横山くんはアクション練習で普通1ヶ月くらいかかるところを初日でやったりしていたので、すごい体幹の持ち主です」

観客からの質問

観客から
「先程の話の中でラストで泣かせるように後から変更したとありましたが、そういうことはよくあるんですか?」

中村監督
「あります。試しにやってみるかとなりましたが、なかなか思いつきませんでした。『フィッシュストーリー』や『アヒルと鴨のコインロッカー』とか僕の作品にはミステリーが多いんですが、ミステリーの種明かし、どんでん返しをする時に、それまで何の伏線もないまま種を明かされても、観ている方が気持ちよくないんですよ。あれってああいう意味だったのかというのが大事で。濱田岳を大高源五にしたら、大高源五が女の人と遊びたいという顔ですごいミスリードの伏線になるんじゃないかと思って。濱田岳にしたことでいろんなことがはまってきて、これならばいけるんじゃないかと言えましたけど、それまではラストまでコメディでいいと言っていました」

観客から
「インパクトのあるタイトルですが、タイトルというのは制作のどれぐらいの頃に決まるんですか?」

中村監督
「今回は早かったです。山本博文教授の原作が『忠臣蔵の決算書』というタイトルで、仮で『決算!忠臣蔵』とタイトルをつけていて、これでいいんじゃないかとなりました。『殿、利息でござる!』の時は揉めましたよ。僕は『つつしみの掟』にしたかったんですが、松竹さんがコメディで売りましょうと言われてあのタイトルになりました」

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トーク後にはサイン会も開催され、観客が直接監督に感想を伝えていた。

 

映画『決算!忠臣蔵』Blu-ray&DVDは5月2日発売、レンタル開始。

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