EntaMirage! Entertainment Movie
愛した日々の熱が冷めていく中で(映画『熱のあとに』)
東京藝術大学大学院での修了制作『小さな声で囁いて』(2018)がマルセイユ国際映画祭、全州国際映画祭などに出品された新鋭の山本英監督が2019年に起きた新宿ホスト殺人未遂事件にインスパイアされ、制作した商業デビュー作『熱のあとに』が2月2日(金)から全国順次公開される。
あらすじ
かつて愛したホスト・隼人を刺し殺そうとした沙苗は、数年の服役後にお見合いで出会った健太と結婚する。平穏な結婚生活が始まったと思っていた矢先、謎めいた隣人の女・足立が現れる。気さくな足立に心を許しかけていた時、明かされる秘密。そして全てを捧げた隼人の影に翻弄される沙苗。沙苗を何とかしたいと考える健太。健太の温もりを受け取りながらも、隼人への燃え上がるような想いを抱き続ける沙苗がたどり着いた“愛し方”の結末とは?
愛とは何かを考えさせられるたくさんの愛の形がここにある
2019年に起きた新宿ホスト殺人未遂事件の裁判議事録を読んで容疑者の言葉に愛を感じた山本監督はイ・ナウォンと共に構想を練ったオリジナル脚本で一人の女性の愛し方を描いた。第28回釜山国際映画祭、第43回台北金馬映画祭へ正式出品され、既に国外からも注目を集めている。
冒頭、一人でタバコを吸いながら佇む沙苗の姿は衝撃的だ。
愛していたからこそ、殺そうとした過去を持つ女性・沙苗の過去を知りながらお見合いで出会い結婚した健太との新たな生活。
横にいる健太という存在。戸籍上の夫である健太を自分は愛していないと感じる沙苗。『熱のあとに』というタイトルはなるほどと思う。全力で命を燃やして愛した日々の後にやってきた穏やかな時間が沙苗にとっては火照った体が冷えていく時間なのかもしれない。この時間は自分の感情が動いているようには感じられない悩ましい時間。
隼人を愛している熱い感覚が抜けず、隼人の影が現れては消える。愛すことで自分の存在を感じられていた沙苗。隼人がいなくなり止まった時間が健太と出会うことで、ゆっくり進みだす。その中で出会った人たちとの対話は彼女の動かなくなっていた感情を少しづつ変化させていく。

愛する人を殺めかけた過去を持つ主人公・沙苗を演じるのは『桐島、部活やめるってよ』(2012)、NHK連続テレビ小説「あまちゃん」(2013)、『ホリックxxxHOLiC』(2022)などジャンルを超えて幅広い活躍を見せる橋本愛。沙苗の複雑な心を捉え、繊細に演じている。沙苗と結婚し、寄り添う健太には『ゆとりですがなにか インターナショナル』、『笑いのカイブツ』(2023)など映画やドラマに引っ張りだこでどんな役でもはまる仲野太賀。今回は沙苗と暮らすことで大きく感情が揺れていく男を演じている。不思議な隣人・足立を演じるのは、主演作『わたし達はおとな』(2022)で北京国際映画祭フォーワードフューチャー部門最優秀女優賞を受賞し、『Winny』、『福田村事件』(2023)など話題作からのオファーが止まらない木竜麻生。さらに坂井真紀、木野花、鳴海唯、水上恒司などの実力派俳優陣が脇を固める。

愛には形はない。正解というものもない。愛し方は人それぞれだ。観る人によっても感じ方は違うだろう。
愛する人に全てを捧げて生きた過去を抱えた沙苗が忘れられない熱い愛の行方、そして新たに出会う周りの人々の愛の形とは?強い愛をひしひしと感じる映画。東海三県では上映館がわずかだがぜひ観て欲しい。
映画『熱のあとに』https://after-the-fever.com/ は2月2日(金)より新宿武蔵野館、渋谷シネクイントほかで全国公開。東海三県では2月2日(金)より伏見ミリオン座、3月1日(金)よりコロナシネマワールド(中川、大垣)、3月29日より進富座で公開。

出演:橋本 愛 仲野太賀 木竜麻生 坂井真紀 木野 花 鳴海 唯/水上恒司
監督:山本 英 脚本:イ・ナウォン プロデューサー:山本晃久
製作:ねこじゃらし、ビターズ・エンド、日月舎
制作プロダクション:日月舎
英題:After the Fever
配給:ビターズ・エンド
2024/日本/カラー/5.1ch/ヨーロピアンビスタ/DCP/127分【PG12】
おすすめの記事はこれ!
-
1 -
運命さえも覆せ!魂が震える慟哭のヒューマン・ミステリー(映画『盤上の向日葵』)
『孤狼の血』などで知られる人気作家・柚月裕子の小説『盤上の向日葵』が映画化。坂口 ...
-
2 -
本から始まるストーリーは無限大に広がる(映画『本を綴る』篠原哲雄監督×千勝一凜プロデューサー インタビュー&舞台挨拶レポート)
映画『本を綴る』が10月25日から名古屋シネマスコーレで公開されている。 映画『 ...
-
3 -
いつでも直球勝負。『おいしい給食』はエンターテイメント!(映画『おいしい給食 炎の修学旅行』市原隼人さん、綾部真弥監督インタビュー)
ドラマ3シーズン、映画3作品と続く人気シリーズ『おいしい給食』の続編が映画で10 ...
-
4 -
もう一人の天才・葛飾応為が北斎と共に生きた人生(映画『おーい、応為』)
世界的な浮世絵師・葛飾北斎と生涯を共にし、右腕として活躍したもう一人の天才絵師が ...
-
5 -
黄金の輝きは、ここから始まる─冴島大河、若き日の物語(映画 劇場版『牙狼<GARO> TAIGA』)
10月17日(金)より新宿バルト9他で全国公開される劇場版『牙狼<GARO> T ...
-
6 -
「空っぽ」から始まる希望の物語-映画『アフター・ザ・クエイク』井上剛監督インタビュー
村上春樹の傑作短編連作「神の子どもたちはみな踊る」を原作に、新たな解釈とオリジナ ...
-
7 -
名古屋発、世界を侵食する「新世代Jホラー」 いよいよ地元で公開 — 映画『NEW RELIGION』KEISHI KONDO監督、瀬戸かほさんインタビュー
KEISHI KONDO監督の長編デビュー作にして、世界中の映画祭を席巻した話題 ...
-
8 -
明日はもしかしたら自分かも?無実の罪で追われることになったら(映画『俺ではない炎上』)
SNSの匿名性と情報拡散の恐ろしさをテーマにしたノンストップ炎上エンターテイメン ...
-
9 -
映画『風のマジム』名古屋ミッドランドスクエアシネマ舞台挨拶レポート
映画『風のマジム』公開記念舞台挨拶が9月14日(日)名古屋ミッドランドスクエアシ ...
-
10 -
あなたはこの世界観をどう受け止める?新時代のJホラー『NEW RELIGION』ミッドランドスクエアシネマで公開決定!
世界20以上の国際映画祭に招待され、注目されている映画監督Keishi Kond ...
-
11 -
『ぼくが生きてる、ふたつの世界』の呉美保監督が黄金タッグで描く今の子どもたち(映画『ふつうの子ども』)
昨年『ぼくが生きてる、ふたつの世界』が国内外の映画祭で評価された呉美保監督の新作 ...
-
12 -
映画『僕の中に咲く花火』清水友翔監督、安部伊織さん、葵うたのさんインタビュー
Japan Film Festival Los Angeles2022にて20歳 ...
-
13 -
映画『僕の中に咲く花火』岐阜CINEX 舞台挨拶レポート
映画『僕の中に咲く花火』の公開記念舞台挨拶が8月23日岐阜市柳ケ瀬の映画館CIN ...
-
14 -
23歳の清水友翔監督の故郷で撮影したひと夏の静かに激しい青春物語(映画『僕の中に咲く花火』)
20歳で脚本・監督した映画『The Soloist』がロサンゼルスのJapan ...
-
15 -
岐阜出身髙橋監督の作品をシアターカフェで一挙上映!「髙橋栄一ノ世界 in シアターカフェ」開催
長編映画『ホゾを咬む』において自身の独自の視点で「愛すること」を描いた岐阜県出身 ...
-
16 -
観てくれたっていいじゃない! 第12回MKE映画祭レポート
第12回MKE映画祭が6月28日岐阜県図書館多目的ホールで開催された。 今回は1 ...