映画以上に映画的 明かされる過去(『将軍様、あなたのために映画を撮ります。』)
2016/10/21
元妻は忽然と姿を消した
韓国国内で知らない人はいない。
そんな国民的女優が旅行先の香港で忽然と姿を消した。
その名は崔銀姫(チェ・ウニ)
別れた夫で映画監督の申相玉(シン・サンオク)が後を追って香港に向かったが
同じく忽然と姿を消した。
数年後、申監督は北朝鮮で映画を発表する。
崔銀姫は拉致されたが、申監督は自発的に北朝鮮に入国したのだと
韓国の人たちも信じていた。
北朝鮮で何本も映画を製作した後の1986年、
オーストリアに滞在中、申監督は崔銀姫と共にアメリカに亡命する。
「私たちは拉致されたのだ」
亡命後に語られた真実。
二度逃亡を計り強制収容所で教育されたこと、
自分と崔銀姫を拉致する命令を出したのは金正日だったこと。
二つの側面を持つ映画
この事件を追った『将軍様、あなたのために映画を撮ります』は
二つの側面を持つ。
申監督の声、関係者からの聞き込み、崔銀姫へのインタビューなど
今まで踏み込むことが困難と言われた
拉致被害者の体験や脱出までの過程が
赤裸々に語られている。
そして二人が見た金正日から
ベールに包まれている金正日という人物を探る。
金日成の跡を継ぎ指導者として君臨した彼の
独裁者としての姿、そして
芸術家としての姿も垣間見える。
愛したがゆえの強行
独裁者として北朝鮮のトップに君臨した金正日。
彼が愛したものは芸術だった。
その中でも映画を特に愛していたという。
音楽会の開催、海外から著名人を積極的に招待している映像は
私たちも報道で目にしている。
招待をすることもできただろう。
だが映画を作るために二人は拉致された。
金正日はどんな考えで拉致を指示したのだろうか。
映画に何を求めたのだろうか。
日本人も撮影参加した
日本の大学で学んだ申監督。日本語も堪能だった。
本作の中でもそれは思いも寄らぬ形で披露されている。
国を出ることはできないが資金だけはたくさんある。
日本からゴジラの特撮スタッフを呼んで製作した作品『プルガサリ』のほか
ヨーロッパやロシアの映画祭にも何作品かが出品され
出演した崔銀姫も賞をもらっている。
この出来事に興味を持ったロス・アダムとロバート・カンナンは
このドキュメンタリーを作る上で、取材に相当苦労したという。
まだ二人が拉致されたことを信じない人もいる韓国では資料が少なく
亡命後に事情聴取に行ったCIAの人物も
なかなか口を開こうとはしなかったからだ。
申監督はすでに他界。崔銀姫とその子供に会うまでに2年の月日をかけ
話を聞くことができた。
そして何よりも最高機密と言われる申監督が残した
金正日との会話を残すテープが
金正日プロデューサーの誘いにどう申監督がのったのかを明らかにする。
韓国では資金難に泣かされた申監督。
北朝鮮では自分の思いのままの機材やたくさんのスタッフを使い
狂ったように映画を撮った。
自由に映画を撮りたいという欲と
故郷に帰りたいという思い。
どちらかを取ればどちらかを失う。
監督の北朝鮮生活はすべてが地獄だったと言えるのか。
日本でも解決の道が開かない拉致被害者問題。
二人の体験から拉致の恐ろしさを改めて感じずにはいられないのだが
この作品の全てを肯定できないところもある気がする。
『将軍様、あなたのために映画を撮ります』は
10月22日より名古屋シネマテーク(名古屋市千種区今池1-16-3)にて公開
http://www.shouguneiga.ayapro.ne.jp/

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