
岐阜ふらっと探訪②‐思い出の釜めしに偶然出会う‐
釜めしって味加減とか火加減とかがとても難しい食べ物だと思う。
小さな頃、母が若い頃から好きだったという釜めし屋に柳ケ瀬に行く度に連れて行ってもらっていた。しゃもじがたくさんかかった壁を見ながら階段を下りた地下にその店はあった。
私の中の釜めしの味はそこの味。濃すぎない柔らかい味は何がそうしていたのかは釜めし自体を母がお茶碗によそっていたこととあまりにも小さすぎたこともあってわからないまま、その店は少しずつ活気がなくなっていったバブル不況以降の柳ケ瀬から姿を消してしまった。
あれから何十年。いろんな釜めしを様々な場所で食べているが私も母もあの味に出会えず、あの店は閉店してどこへ行ってしまったのか、誰かあの味を継いだ人はいないのかと思い続けていた。
柳ケ瀬から店がなくなって悲しいなとおもったのはこの釜めしが美味しい和食の店『萬両』と21号バイパスにあった『子の子』の母店でとん汁がやけにおいしかった『子の日』。小さなころから和食党だったことを自覚できてしまうようなチョイスだが、大人になった今でもその考えは変わらない。
数十年経った今。
「おいしい釜めしが食べたいなって思うんだけど、このお店はどうだろう?」
と母が学園町にある和食の店を見つけてきて、休日になったので行ってみて驚いた。
店ののれんの上には昔見た屋号が。
メニューの中には様々な和食の中にたくさんの種類の釜めし。そこにあった『復刻釜めし』が気になる…。
「この復刻釜めしって何ですか?」
「柳ケ瀬にあった『萬両』という店で出していた釜めしなんです。柳ケ瀬のお店を閉める前からこの店は和食の店として営業していたんですが、萬両をやめてからお客さんから釜めしも出してほしいと言われてこちらでやることにしたんです。ここも萬両も経営者は一緒なんですよ」
それを聞いて頼んだのは復刻釜めし定食。まず運ばれてくる漬物とお惣菜。
釜めしのほかについてくるのが惣菜とみそ汁だ。今日のフライはカキフライとホタテフライ。さめてもおいしいサックサク。
優しいお味の煮物もおいしくて。母親がいるのを忘れて『孤独のグルメ』の五郎さんのごとく自分の心の中で独り言を言いながら黙々と食べてしまう。
そしてやってきた復刻釜めし。
開けたとたんに広がるカニの香り。そしてうっすらと上にかかった玉子。甘いシイタケ。それを混ぜて食べる。
そしてまた一人五郎さんモードに入る。これは間違いない!自分が思っているまろやかな釜めし。それでいておこげも旨い。
数十年ぶりに食べた『萬両』の釜めし。思わずうるうるする。
自分が過ごしている活動範囲内にずっと存在してたのに知らなかった。インターネットが普及している社会でも思い出の味は調べられない。
インターネットにはまだにおいや味はないからだ。自分の五感を大事に出来るもの。料理はその一つだ。
その料理と自分の感覚が久しぶりに幼い頃の自分の記憶を引っ張り出してくれた。
赤いレンガの高島屋のバラの広場、手書きの看板のかかった映画館。たくさんの人が通る商店街。
焼きそばのにおいとその前にあった長崎屋の風景。
まだ『柳ケ瀬ブルース』の石碑があの通りになかったころの記憶。
あ、年齢わかる。ま。いいか。
今回のエッセイに登場したお店
お食事処 ぼんてん
岐阜市学園町1-7
http://www.bonten-gifu.com/
駐車場は店の西、早田西公園の前。
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