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権力に負けず自分らしく生きるー映画『ヒトラーへの285枚の葉書』ー

ナチス全盛の時代のドイツで
正直に物申す夫婦がいた。ハンベル夫妻だ。
夫は町の軍需工場の責任者。
妻は情宣活動を行っている労働者階級の夫妻だった。
戦争で息子を失った夫妻はドイツの市内の様々な場所に
ナチスを非難する内容を書いたカードを置いていった。
この事件は「ハンベル事件」と言われている。

彼らをモデルにした小説『ベルリンに一人死す』は
ドイツの作家ハンス・ファラダによって書かれた。
「望ましくない作家」とナチスに分類された彼は
戦後になった1946年、旧ゲシュタポからこの事件の資料を渡された。
600ページに及ぶ作品を4週間で書き上げ、その3ヶ月後に死亡したという。
全身全霊で書かれた大作だ。

この作品を映画化したのが『ヒトラーへの285枚の葉書』だ。

あらすじ

1940年6月、質素に暮らす労働者階級のクヴァンゲル夫妻は
息子の戦死通知を受けとる。
心の拠り所を失い、悲しみにくれていた二人だったが
ある日、夫のオットーはペンを取り、カードに思いをぶつけ始める。
『総統は私の息子を殺した。あなたの息子も殺されるだろう。』
そしてそれを街中に置いた。
妻のアンナもそれに協力し、何枚もカードを書いて置くことを繰り返す。
ゲシュタポの捜査官は民衆から届けられたカードを収集。
次第に犯人を特定し、夫婦に迫りつつあった。

書いてから60年たってベストセラー 原作が映画化を後押し

作品を読んで深い感銘を受け、自らメガホンをとって
念願の映画化を実現させたのは、
1990年代に『シラノ・ド・ベルジュラック』『インドシナ』といった
フランス映画の歴史大作に相次いで出演し、
美男スターとして一世を風靡したヴァンサン・ペレーズ。

はじめはドイツ語での製作の計画だったがなかなか支援者が集まらない。
そんなとき原作の『ベルリンに一人死す』が2009年に英訳されて
世界的なベストセラーになり、支援者が集まって英語版での製作が決まった。
初版発行から60年経過してハンスが評価された結果だった。
ハンスは自身が過ごした戦時下のドイツの様子を織り混ぜながら
ハンベル夫妻が起こした事件、そしてそれに関わった
ゲシュタポの話を描いていった。
ペレーズ監督はそれを忠実に作っている。

息子の死が夫婦の愛を蘇らせる

冒頭息子の死をそれぞれバラバラに悲しんだクヴァンゲル夫妻。
アンナは気持ちを爆発させ、オットーはじっとこらえる背中が切ない。
オットーが始めたナチス批判の行動は
忘れてしまっていた二人の絆を蘇らせていき
後半に行くに連れ夫婦らしさが見えてくる。
アンナ役のエマ・トンプソン、オットー役のブレンダン・グリーソンが
その変化を繊細に演じている。

ゲシュタポ捜査官の生きる道

権力を恐れず正直に生きるクヴァンゲル夫妻。
追いかけるゲシュタポの捜査官・エッシャリヒ警部。
この作品は両方の立場を描いていく。
クヴァンゲル夫妻のカードが拾われた数だけ全て読んでいるエッシャリヒは
犯人像を確実に掴んでいく。
しかし、捜査の途中で思わぬ展開となり、
自身も真実と嘘の間で悩むことになる。
自分の正義を持っていたはずのエッシャリヒ警部の心の揺れを
『ラッシュ プライドと友情』でニキ・ラウダを好演した
ダニエル・ブリュールが体現しているように感じた。

アパートは戦時下のドイツの縮図

クヴァンゲル夫妻が住んでいるアパートには様々な人がいる。
捕まらないようにひっそりと住むユダヤ人の老女、
ナチスをよく思わない元判事、
盗みに入ったことを咎められてアパートの人の動きを
密告する男、そしてナチス党員。

ドイツ全体の状況がこのアパートにはある。
権力には勝てない人々がたくさんいる。
嘘で塗り固められた話を信じている人、
真実ではないことはわかっていながら
生きていくために目を背ける人。

ここで生きる人たちの姿を見ながら
日本の戦時中と同じような感覚をたくさん受けた。

 

誰にも知られなくてもいい。でも正直に生きる。
夫妻が書いた285通の手紙は
ハンスの手によって60年以上先まで届いた。
そしてペレーズ監督の手で日本にも伝わってきた。
権力に押さえ込まれる中、自分らしく生きることを選んだ勇気ある
一般市民の清々しい生き様は今を生きる私達にも
羨ましく、眩しく感じられるのではないか。
285枚書かれた手紙は今私達の琴線にふれる。

『ヒトラーへの285枚の葉書』http://hitler-hagaki-movie.com/
ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館他で7月8日(土)より公開。

中部地区では名古屋・栄 名演小劇場で7月8日(土)より公開。
岐阜 CINEX、三重 伊勢進富座は順次公開予定。

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