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ぶつかり合う親子の関係に愛を感じて(映画『世界は僕らに気づかない』)
大阪アジアン映画祭2022コンペティション部門で「来るべき才能賞」受賞 を受賞した映画『世界は僕らに気づかない/Angry Son』が1月13日(金)より公開される。
あらすじ
群⾺県太⽥市に住む⾼校⽣の純悟は、フィリピンパブに勤めるフィリピン⼈の⺟親レイナと⼀緒に暮らしている。⽗親のことは⺟親から何も聞かされておらず、毎⽉振り込まれる養育費だけが⽗親との繋がりとなっていた。
純悟には恋⼈の優助がいるが、優助からパートナーシップを結ぶことを望まれても、⾃分の⽣い⽴ちが引け⽬となり、なかなか決断に踏み込めず、⼀⼈苛⽴ちを抱えていた。 そんなある⽇、レイナが再婚したいと、恋⼈を家に連れて来る。⾒知らぬ男と⼀緒に暮らすことを嫌がった純悟は、実の⽗親を探すことにするのだが……。
ぴあフェスティバル審査員特別賞やバンクーバー国際映画祭ノミネート、東京フィルメックス新⼈監督賞準グランプリなど国内外で注⽬を集め、2022年公開の『フタリノセカイ』で商業デビューを果たした飯塚花笑監督が製作した3作目のオリジナル⻑編。 ⾃⾝の経験をもとに、8年の構想期間を経て製作された。
自身の出自を気にしてこれからの進路を決められず、恋人からは距離を置こうと言われ、母は電気代も払えず生活苦。自分の周りの環境の変化に困惑しながら、毎月養育費を振り込んでくれる父親が誰なのかを純悟は探し始める。自分は誰なのか、どうしたら今の状況から抜け出せるのか。主人公・純悟の吐き出せない日々の迷いや苛立ちを見事に表現するのは映画初主演となる堀家⼀希。『東京リベンジャーズ』でのパーちん役が強く印象に残っている。息⼦である純悟への深い愛情を抱きつつ、感情的に話してしまう⺟親・レイナを演じるのは、スコットランド⼈の⽗親とフィリピン⼈の⺟親を持つガウ。レイナはフィリピンへの仕送りのことばかり考え、勝手に再婚も決めてしまい、母親らしくないように見えて、実は純悟思いである。本格的な演技は初挑戦というが、母親としての意志、一人の人間としての弱い部分の両方が見え隠れする芝居を見せてくれる。
メイドイン群馬 多様性を重んじる場所で作られた映画
監督、スタッフ、キャストなど、作品に関わる多くが群⾺県在住者や出⾝者で制作され、全編群⾺県内で、撮影された。味のあるタクシー会社(違う作品でも使用されていることに気がつく人もいるだろう)、ボーリング場、川沿い、土手とロケーションも良い。さらに群馬県は外国人労働者も多く、2020年には県内全域に「ぐんまパートナーシップ宣誓制度」が導⼊されるなど、⼈種やセクシュアリティの多様性を⾝近な問題としてとらえ、真摯に取り組んでいる地域でもあり、製作にはぴったりの場所と言えるだろう。
日本全体を見れば、まだまだ外国人に対する偏見やLGBTQ+に対する理解の乏しさはある。この映画は純悟が自身のアイデンティティを求め、自立していく物語の中で、この問題に対する現実と理想を描いているように感じる。特に純悟と優助が付き合っていることについて、家族は理解があり、少し難色を示している父親も、二人の将来を考えて心配しているのであって、二人が付き合うことには反対していないという環境はこれからの日本で受け入れるべき理想の形だ。セクシュアリティに関する部分も現実にある辛い部分を描こうと思えば出来るはずだが、それをせず、希望に満ちた関係を描いているところに飯塚監督の思いがこもる。
親子でぶつかって、言い合って。とにかくパワーのある作品だ。お互い、ぶつけないまま離れてしまったら何も進展しないし、解決なんかもっとしない。気持ちのぶつけ合いが出来るというのは幸せだと思う。
純悟とレイナ。逃げない親子の関係に愛を感じる。
映画『世界は僕らに気づかない/Angry Son』https://sekaboku.lespros.co.jp/ は1月13日(金)より新宿シネマカリテ、Bunkamuraル・シネマ他で全国順次公開。東海3県では1月13日(金)よりセンチュリーシネマで公開。
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