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阿部サダヲ×シリアルキラー榛村大和が更なる魅力を生む(映画『死刑にいたる病』白石和彌監督・阿部サダヲさんインタビュー)

白石和彌監督の作品にはいつも心を持っていかれる。
5月6日(金)から公開の新作『死刑にいたる病』は『彼女がその名を知らない鳥たち』から5年ぶりの阿部サダヲとの強力タッグとなった。
サスペンスだがホラー要素も感じられる作品で、シリアルキラー・榛村大和の静かな誘いに次第に囚われていく。

筧雅也が中学校時代に信頼を寄せて通っていたパン屋の店主・榛村大和は24人の若者の命を奪い、死刑判決を受けることになった連続殺人鬼だ。その大和から届いた一通の手紙。大和はその内の一つの事件は自分がやったものではないから犯人を捜して欲しいと雅也に依頼する。

先行上映舞台挨拶で来名した白石和彌監督、阿部サダヲさんにお話を伺った。

名古屋で行われた舞台挨拶レポートはこちらから

Q.今回も原作がある作品です。原作を読んだ時の印象とどんな風に撮ろうと考えられたのかを教えてください。

白石和彌監督(以下 白石監督)
「『凶悪』と入口が似ているので難しいかもなというのが原作を読んだ印象でした。でもじっくり読んでみると榛村大和というキャラクターが圧倒的に面白いなあと。物語も「あ、こっちにいくのか。こっちに戻るのか」となかなか先がわからない感じがとにかく面白くて。面会室をどう撮影するか問題はあるにせよ、これはチャレンジせざるを得ない企画だなと感じました。『凶悪』の時は面会室は単純にそれぞれ向かい合う役者を正面からひたすら撮っていって、それを切り返していくという手法で、ある種ストイックな撮影をしていました。それがあったから、今回は逆に何でもやるという方向に舵を切れたということがあるかもしれません」

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Q. 凄惨なシーンはさじ加減が難しいと思います。結構ぞっとしながら観るところもあったのですが、そういったシーンの描写をどれぐらい入れるかなど考えて撮影されていますか?

白石監督
「『孤狼の血』があったからだとは思うのですが、「そういう描写が好きなんですか?」と先日も聞かれました。こういう描写を撮るために監督になったわけではないです(笑)。ただ撮っておかないことには撮っておけばよかったという後悔が出来るので、必要そうな描写は撮っておいて、試写で観てもらって、みんなの声を聞きながら削って行き、さじ加減をした感じです。佐村弁護士が「榛村が小学校から中学校の頃に何をやったか知っていますか?」と語るシーンに入ってくる回想シーンは実はもう一つあったんですよ。ただそれはちょっとひどすぎたので、削りました」

Q.白石監督からのオファーを受けて、阿部さんの中でどんな演技プランが出来ましたか?

阿部サダヲさん(阿部さん)
「普通に見えた方がいいと思いました。日常は普通の人で、おまけに人を殺しているという感覚が一番いいんじゃないかなと」

Q.ターゲットに近づいていって信頼関係を作り、そこから断ち切っていく。その時の目が本当に得体のしれない怖さがあります。あの目は監督からの演出ですか?

阿部さん
「『彼女がその名を知らない鳥たち』で監督が“人を5分前に殺してきた目をしてほしい”と言われた目をまたみたいということだったので、今回は「こういう目をしてください」とかの指示はなかったですね」

白石監督
「そうですね。説明の仕方も難しいです。前は“人を5分前に殺してきた目をしてほしい”とお願いしましたけど、今回また改めて阿部さんの目を見ているとまあまあそんな目をしているなと(笑)」

阿部さん
「「この目でしょ?監督」みたいな感じで(笑)」

白石監督
「どこかで人を何人も殺しているというフィルターがあるから、自然と榛村がスーパーのレジを通るだけでも不穏な感じになりますし、全てのセリフがこの人は今誰かを狙っているんだというフィルターがかかっているからそう見えてしまう。そう思わせるのはやっぱり阿部さんの力だと思います。それは監督の手から離れているところにあることで、すごいなと思いますね」

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Q.なかなか凄惨なシーンもある中で普通に暮らしている榛村を演じることは心理的にも大変だったのではと推測しますが、撮影前、撮影中の心境はどんな感じだったのでしょうか。

阿部さん
「すごくフラットな感じでした。これから怖くなるぞとか、人を殺す役なんだからとかは本当に考えていなかったです。被害に遭っている方たちの演技が凄く良かったんですね。それに助けられました。その人たちがまた辛そうじゃなくて楽しんで帰っていくので。「こういう役はなかなかできないので楽しかったです」みたいな感じで」

白石監督
「面会室のシーンはそれぞれに感情の浮き沈みがあって、目まぐるしく攻守が入れ替わるような怒涛の芝居合戦をしているんですが、客観的に見るとガラス一枚隔てて座って話しているだけですよね。座って話しているだけって僕だけかもしれませんが、映画監督にとってもの凄く不安で恐怖なんですよ。だから、ああでもないこうでもないとやるんですが、結局は阿部さんと岡田さんのお芝居の強さに毎シーン助けられました。僕が作った演出でこれはちょっと余分だったかなと思うところは編集でカットしましたし、台本にある通り座って話しているだけで他には何もしない方がいいなと思うことは多々ありましたね」

Q.撮影されている場所が面会室も、榛村がルーティーンをこなす作業場もとても狭いと感じました。実際の撮影場所は狭かったんでしょうか。それとも広いところを狭く見せていたのでしょうか。

白石監督
「圧迫感のある空間を撮るのは得意なんです。よく映画は6畳の部屋を4畳半に見立てて撮影するなど、広めの空間を用意して狭く見せて撮影することがあるんですね。確かにそうやって撮ることもあるんですが、そのやり方では4畳半の空気感には絶対ならない。狭いところは狭く作りこんで、邪魔だと言いながらスタッフが動いて、カメラの置き場所にも困りながら何とかしてそこで成立させた、ごちゃごちゃっとした感覚が映像にも出ると感じているんですよ。だから無理に広い部屋では絶対に撮らないです。3畳のシーンがあれば、3畳の部屋で撮る。そこで苦労しながら撮ることが実は映画って重要なんだなと染み付いています。この撮り方は面倒くさいんですね。楽に撮った方が簡単に終わるんですが、でもそれでは鬱屈感や緊張感は出ないんです。そういうことを肝に銘じて、面倒くさいことをあえてやっています」

Q.榛村がルーティーンを行っていた小屋自体は元々あったものなんでしょうか?

白石監督
「元々あったのは、水門と、田んぼの中の母屋です。小屋だけは燃やさなければいけないものだったので、建てさせてもらって。燻製小屋なのでまあまあ広く作ったのに窯とか色々なものをつけていたら空間が本当に狭くなってしまって。そこで無理くり撮ったという感じです。母屋と水路の関係性やその後ろに僕らが大好きな鉄塔があったりとか、この場所が見つけられたから榛村大和の造形がすごく広がっていった。そういうところから映画は発想するところが多いので、土地にも助けられたというところがありますね」

阿部さん
「元々違う場所で撮影場所って探していたんですよね?」

白石監督
「そうですね。延期する前は、信州のおおらかさが合うかなと思って松本市や諏訪市で探していたんですが、思ったところが見つからない中で緊急事態宣言が出て撮影自体が1年延期になって。ちょっと心機一転、信州より宇都宮の方が近いので、また緊急事態宣言が出て大変になるんだったら近い方がリスクも少ないと考えまして、探したら見つかったんです。そんなところにも運があったなと思います」

Q.現場で大変だったエピソードがあれば教えてください

阿部さん
「僕は特に…。根津かおるさん役の佐藤玲さんは大変だったろうなあと思いますね。ずっと特殊メイクで逃げていましたしね。佐藤さん以外の被害者役の方たちも本当に大変だったろうと思います。僕は日常の動作をやっているだけなので特に苦労というのはなかったですね」

白石監督
「出す道具の順番とかの段取りは多かったですね(笑)」

阿部さん
「(笑)いっぱいあるんですよ、武器が。スパナみたいなものとか。監督のアイデアがいっぱい詰まっているので面白いなあと思って現場ではやっていました。看守さんと僕との会話も現場で決まって。「赤毛のアン」を娘さんにあげたという設定もその場で思いついた設定で」

白石監督
「もう少し前段階で考えておけよって話ですけどね」

阿部さん
「リアリティーがある会話はその場で作っていたりする会話なんですよ。中学校時代の雅也との会話もその場でいろいろ出てきたものもあります」

Q.阿部さんと岡田さんの魅力は何ですか?

白石監督
「阿部さんに関しては、今回は2本目で『彼女がその名を知らない鳥たち』の時もお芝居と深みに圧倒されて。充実した仕事だったんですが、時間が経ってみると阿部さんのほんの一部分しか撮れていないかもという感覚があったんですよ。今回こそそれを撮りきろうと思ったのですが、終わってみるとほんの一部しか撮れてないなという感覚がずっとあって。撮っても撮っても阿部さんを掴みきれない感じ。榛村大和というキャラクターの見え方と普段の阿部さんの感じが少しシンクロするところがあって。それがとんでもない魅力だと思うんです。そこがいろんな演出家や監督が阿部さんと仕事したいと思う理由だと思いますね。岡田くんはとにかく真面目でストイックで曲がったことが嫌いで、何より「こういう作品に出たかったんです。今何ものに変えても芝居をしたいんです」という気持ちをストレートに熱く投げかけてくれます。もちろん岡田くんの芝居に助けられたところもあるんですが、それをちゃんと最終的に面会室で受け止めた阿部さんのサポートもあったりしながら、良い感じで二人のセッションが撮れました」

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Q.三重県出身の宮崎優さんも大事な役割だったと思うのですが。

白石監督
「彼女はオーディションで出会いました。応募者が200人ぐらいいて。2次オーディションぐらいまで行いました。もちろん有名で、芝居も慣れていて、いい芝居をしてくれる人はもっといるかもしれません。宮崎さんに失礼になってしまうかもしれませんが、あの役はそんなに名前が出ていない人であることが重要だったんです。彼女は映画にも実はそんなに出ていなくて、その挙動不審な感じというか、私はどうこの映画に関わったらいいんだろうかという思いが少し残っている状態で、撮影現場にいた方が、灯里という役にはいいなと思ったんですね。頑張り屋さんで撮影現場に2時間前ぐらいに入っていました。すごく感性豊かな方なので、これから面白い役者になるんじゃないかなと思いますね」

Q.岡田さん演じる雅也は生活の中で鬱屈している状態にいますが、お二人にもそういう時はありましたか?

白石監督
「鬱屈しっぱなしです(笑)。生まれてもう翌日ぐらいから鬱屈しちゃった感じ。監督になっても未だにそうじゃないですかね。鬱屈してますね。何をやってもうまく行かなかったし、女の子にモテることもなかったし。でも今は映画を撮れるようになっていろんな人のサポートで仕事をさせて頂いているのでスタッフ、関係者に感謝しながらやっているんですが、一方で世の中は良くなったのかといえば決して良くなっているとは思えないし、映画界も決して良くなっていないし。そういうことに関しては鬱屈を抱えて、何とかしたいなとは思っているものの自分の無力さに打ちひしがれる日々です。自分が撮った映画も、もう少しこうしたらうまくいったんだろうなと後から気づいたり、そういうことを考えながら日々生きています」

阿部さん
「芝居を始める前ですかね。芝居を始める前は相当鬱屈していました。どの映画か忘れてしまったんですけど、岡本健一さんが床に背中をこすりつけながら動いている作品があったんですけど、同じような格好で生きている時がありました。何になろうかなと考えた時に、「何になろうかな」と壁にさかさまに書いたんです。実家に行くとその「何になろうかな」はいまだに壁に残っています。ちょっとぞっとしますね(笑)。そういう時期がありました。芝居を始めて本当に良かったです」

人の心を揺さぶり動かすシリアルキラー榛村大和。
心を揺らされながら自身と葛藤する筧雅也。
雅也を通して、大和のつくる深い沼に落ちていく。
白石監督が忘れられなかった阿部サダヲの目。
この作品を観たらしばらくは脳裡に焼き付いて離れなくなる。

左:阿部サダヲさん 右:白石和彌監督

左:阿部サダヲさん 右:白石和彌監督

映画『死刑にいたる病』 https://siy-movie.com/ は5月6日(金)より新宿バルト9他で全国公開。中京地区では5月6日(金)よりミッドランドスクエアシネマ、109シネマズ(名古屋、明和)、イオンシネマ(大高、名古屋茶屋、シネマワンダー、岡崎、豊川、豊田KiTARA、長久手、常滑、各務原、津、津南、桑名、鈴鹿、東員)、コロナシネマワールド(中川、安城、小牧、豊川、大垣)、ユナイテッド・シネマ(豊橋18、岡崎、稲沢、阿久比、TOHOシネマズ(津島、モレラ岐阜)、ミッドランドシネマ名古屋空港、MOVIX三好、関シネックス マーゴで
公開。

出演:阿部サダヲ、岡田健史、岩田剛典、中山美穂
監督:白石和彌 脚本:高田亮 原作:櫛木理宇「死刑にいたる病」(ハヤカワ文庫刊)

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