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信玄に追放された男が武田家存続を目指して突き進む!(映画『信虎』)
武田信虎という武将をご存じだろうか。戦国武将・武田信玄の父で、横暴さが目に余り、信玄に領地である甲斐を追放されたとされる人物だ。筆者が観てきた武田信玄にまつわる時代劇では大抵暴君で、民衆からも疎まれて追い出され、娘が嫁いだ今川家の居候になるエピソードが描かれている。
そんな信虎だが、京都に赴き、足利将軍に奉公していたことや、晩年信濃に戻り過ごしたことはあまり知られていない。
信玄の死後、なぜ信虎は京から信濃へ戻ったのか。新たな解釈で描かれた『信虎』が全国公開される。
あらすじ
武田信虎入道は息子・信玄に甲斐国を追放された後、駿河を経て京で足利将軍に仕えていた。元亀4年(1573)、すでに80歳になっていた信虎は、信玄の上洛を心待ちにしていたが、武田軍が国に兵を引き、信玄が危篤に陥っていることを知る。武田家での復権の好機と考えた信虎は、家老の土屋伝助と清水式部丞、末娘のお直、側近の黒川新助、海賊衆、透破(忍者)などを伴い、祖国・甲斐への帰国を目指す。途中、織田方に行く手を阻まれるも、信濃高遠城にたどり着いた信虎は信玄が他界し、勝頼が当主の座についたことを聞かされる。信虎は勝頼と信玄が育てた宿老たちと面会し、自分が国主に返り咲くことが武田家を存続させる道であることを説き、織田との決戦にはやる勝頼達に却下されるが……。
とことん本物にこだわった時代劇
『デスノート』『ガメラ』シリーズの金子修介監督が監督を担当。あまり金子監督に時代劇のイメージがないので驚いたのだが、『影武者』のような作品を撮りたいと共同監督である宮下玄覇と戦国時代を忠実に再現するために徹底的にこだわった。映し出される風景や仏教美術、茶道具が物語を引き立てる。従来の時代劇では見ない髷(まげ)の結い方にも驚く。その他にも衣裳・甲冑・旗・馬・所作・音・化粧など細部に渡って本物を目指した。
音楽は『影武者』(1980)など黒澤明監督作品や今村昌平監督の一連の作品に携わっている池辺晋一郎。撮影は『恋人たち』(2015)の上野彰吾、衣裳は宮本まさ江、特殊メイクスーパーバイザーの江川悦子、美術・装飾の籠尾和人、VFXのオダイッセイ、武田氏研究の第一人者・平山 優も武田家考証として参加している。
名脇役・寺田 農78歳にして36年ぶりの主演
現代劇でも時代劇でも活躍、『天空の城ラピュタ』のムスカの声優としても知られている寺田 農が、相米慎二監督の『ラブホテル』(1985)以来36年ぶりに主演する。脇役でも異彩を放つ彼が演じる信虎は80歳を超えても領主に返り咲く野望を抱きながら武田家存続を望み、力強く突き進んでいく。どこか無茶なところもあるその姿から、信玄がなぜ追放しようとしたのかがわかる狂気も見え隠れする。無人斎道有と名乗っていたことを筆者は初めて知ったが、甲斐国守護という第一の人生を失くして第二の人生に新たな道を見出し生きた男の名としてしっくりとくる。信玄の力を認め、そんな信玄がいなくなれば武田家存続が危ういことを察知し、あの時代に80歳という高齢で険しい道を越えてたくさんの犠牲を払って信濃へ入った信虎のタフさを知ることが出来る作品だ。
数え切れないほどの人物が登場
群雄割拠の戦国時代で、隣国や敵国との関係も描くため、とにかく登場人物が多い。
主演の寺田 農を始め、時代劇を多数経験した俳優から若手俳優まで幅広い年齢層の役者が参加している。
武田信玄を描いた映画としては『影武者』や『天と地と』があるが、その『天と地と』で上杉謙信を演じた榎木孝明が上杉謙信を演じ、『影武者』で織田信長を演じた隆 大介は家老・土屋伝助を演じている。昨年他界した隆 大介にとって本作が遺作となる。信虎を守るための大立ち回りに注目してほしい。
解説多めの時代劇
若い人達の時代劇離れは激しい。理由は言葉の意味がわからない、難しいなど様々だ。
本作ではわかりにくい用語、地名、建物名、人物名にすべてテロップが入る。目まぐるしい展開でも誰が出て来たのかわかるようになっており、若い人だけでなく、年配層にもわかりやすい。
また、映画のチラシやパンフレットの中には人物関係図もあるので、観る前や後にそれをみるのもいいだろう。
武田家存続のために己の能力と残りの時間を費やす男を描いた『信虎』。命の尽きる最後の日まで突き進む信虎のような生き方も素敵だと思う。
徳川綱吉の時代に武田家再興がされたのは信虎の執念が成した業かもしれない。
映画『信虎』https://nobutora.ayapro.ne.jp/ は11月12日(金)よりTOHOシネマズ日本橋ほかで全国公開。
東海3県では11月12日(金)より名演小劇場、TOHOシネマズ(津島、モレラ岐阜)、MOVIX三好、ユナイテッド・シネマ豊橋18で公開。
寺田 農/谷村美月・矢野聖人・荒井敦史/榎木孝明・永島敏行・渡辺裕之
隆 大介・石垣佑磨・杉浦太陽・葛山信吾・嘉門タツオ/左伴彩佳(AKB48)・柏原収史
監督:金子修介(平成『ガメラ』シリーズ)/『デスノート』)共同監督・脚本:宮下玄覇 音楽:池辺晋一郎(『影武者』)
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