
ばあちゃんとバージンロードを歩きたい(映画『ばぁちゃんロード』)
結婚する時、バージンロードを歩くのは父親と?それとも?
富山の漁港を舞台に結婚式のバージンロードを一緒に歩くために奮闘する孫娘と祖母を描いた映画『ばぁちゃんロード』
あらすじ
交際していた漁師の大和にプロポーズされ、結婚を決めた夏海。おばあちゃん子だった夏海はバージンロードを祖母のキヨと歩きたいと思っていたがキヨは庭で足を骨折したことが原因で歩行が不自由になり、今は施設に入っている。結婚式には出られないというキヨになんとしても結婚式に出てもらいたい夏海。夏海は施設に行き、塞ぎがちなキヨを外に連れ出す。

©2018「ばぁちゃんロード」製作委員会
介護と自立を促す
介護とは文字どおりの意味もあるがそれ以上に自立を促す役目を持っている。施設に入ってからすっかり介護されることに慣れてしまい、外に出ようとしなかったキヨは孫の夏海が結婚すると報告に来て、一緒にバージンロードを歩きたいと頼んだことで少しずつ再び自立し始めようとする。孫の前ではいつでも素敵なおばあちゃんでいたい。その思いがキヨを動かした。身体的な自立だけでなく、精神的自律を再び始める。
病院と介護サービス会社の完全バックアップ
キヨが住む施設は中村記念病院が使用された。病院が撮影に賛同し、様々な場所を提供している。キヨのリハビリシーンは理学療法士の指導の下行われた。
またばあちゃんの助けをしたいと夏海が受けた研修は介護初任者研修。介護に従事する者が始めに受ける基本的な研修だ。その撮影は医療介護教育機関であるニチイ学館の研修施設で実際の講師の指導の下行われている。

©2018「ばぁちゃんロード」製作委員会
介護は一進一退
夏海がキヨにバージンロードを一緒に歩いてもらいたくて奮闘する物語ではあるが、介護は気持ちだけでは上手くいかないという現実もしっかり描かれている。特に高齢者は気持ちに体力が付いていかず、出来なかったことに気落ちしたり、昨日出来たことが出来なかったり、つい無理をして今より症状が悪化してしまうこともある。
施設の職員たちからの目を通して介護を仕事にすることの責任も描かれていることが非常にいい。
脚本に賛同したキャストが集結
主演は文音と草笛光子。
数年前に孫と祖母として共演した二人が再び孫と祖母を演じる。主人公の結婚相手には三浦貴大。結婚前の恋人同士のやりとりをリアルに演じた。キヨの若き介護担当には桜田通。そして『月とキャベツ』以来の鶴見辰吾が夏海の父親として出演しているのがなんだか嬉しい。

©2018「ばぁちゃんロード」製作委員会
草笛さんが歌った『この道』はアドリブ
篠原監督の『花戦さ』は大胆な演出と演技が際立つ作品だったが、今回は違う。静かに現代の生活が描かれる。篠原監督は役者に芝居を委ねている。台詞が終わっても篠原監督はそのシーンを撮り続けた。役者がどう演じる人物を形成しているか。台詞がなくてもそこでその役で生きていられるか。役者からすれば非常にプレッシャーになる撮影だっただろう。そんな撮影の中、出てきたアドリブのひとつが草笛さんの歌う『この道』だった。
この道はおばあちゃんと来た道
花嫁が結婚式で歩くバージンロードとは、今まで歩んできた道とも言われている。家族と歩んできた道を結婚式の当日に父親と進むと、その先に新郎が待っている。そして新郎と未来への新たな道に進んでいく。
そのバージンロードを父親ではなくおばあちゃんと歩きたいと夏海は言う。夏海にとって親よりも大切なおばあちゃん。自分が育ったこの場所のこの道はおばあちゃんとの思い出がたくさん詰まった道だった。

©2018「ばぁちゃんロード」製作委員会
劇中キヨが歌い出す『この道』の北原白秋の歌詞は夏海の今までの人生にリンクしているように感じる。草笛さんが脚本にはないアドリブで歌ったこの歌が作品にエッセンスを加えた。何度も映し出されるまっすぐな道。夏海とキヨが見てきたこの土地の道と風景が美しく私たちの目に入ってくる。
結婚式は大事な人と一緒に。それは誰もが思うこと。
派手さも大きな事件もなく、この作品は静かにそれを伝えてくれる。
映画『ばぁちゃんロード』http://baachan-road.com は4月14日より有楽町スバル座他で全国順次上映。
東海地区では4月14日より愛知・名演小劇場、三重・イオンシネマ東員で5月11日より公開。
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