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名古屋発、世界を侵食する「新世代Jホラー」 いよいよ地元で公開 — 映画『NEW RELIGION』KEISHI KONDO監督、瀬戸かほさんインタビュー

2025/09/28

KEISHI KONDO監督の長編デビュー作にして、世界中の映画祭を席巻した話題作『NEW RELIGION』がいよいよ地元・名古屋での凱旋公開を迎える。名古屋を拠点に制作された本作の裏側と、世界が注目するクリエイティビティの源泉について、KEISHI KONDO監督と主演の瀬戸かほさんにお話を伺った。

Q.名古屋のクリエイターが集結して制作された本作ですが、いよいよ地元で凱旋公開となります。今のお気持ちはいかがですか?

KEISHI KONDO監督
「ようやく撮影地である名古屋に戻ってくることができて、とても嬉しいです。スタッフ、キャスト、そして様々なご協力いただいた方々に、地元の方々としてリスペクトを払える機会がようやく到来したということで、とても安堵しています」

Q.名古屋での撮影エピソードを教えてください

瀬戸かほさん
「『NEW RELIGION』の撮影は、従来のスタイルとは異なり、土曜日と日曜日だけを使って3か月間ぐらいかけて行われました。スタッフの皆さんは平日は働いていらっしゃるので、金曜の夜にリハーサルをして、土日に撮影するというスタイルでした。私の中では「名古屋ならでは」なこの土日スタイル撮影が印象に残っています」

異例の制作体制がもたらした創造性

Q.監督自ら脚本、編集、プロデュースを兼任されていますが、どのように撮影されましたか?撮影の中で生まれたものがあったのでしょうか。

KEISHI KONDO監督
「通常は準備、撮影、編集という順番で行うと思いますが、この映画の場合は撮影中も脚本を柔軟に変えたり、役者さんに合わせて設定も変えたりといった柔軟な対応をしていました」

KEISHI KONDO監督

KEISHI KONDO監督

Q.土日だけを使って約3ヶ月間かけて撮影された利点は何ですか。

KEISHI KONDO監督
「平日の5日間を準備に充てることができました。その間で前週撮った撮影素材をすぐさま編集して、「このカットが足りない」「この展開の方が面白い」と判断していました。だから、プリプロダクション(準備)、ポスプロダクション(編集)を全部ミックスしながら作っていく、極めてインディーズの映画らしいスタイルで作っていきました」

Q.脚本を変えた部分はどこですか?

KEISHI KONDO監督
「大きかったのが、瀬戸さんと彼氏役を演じた西園寺流星群さんの芝居の発展です。西園寺さんは芝居の経験がなかったのですが、撮影を繰り返すうちに、ある段階でお芝居のコツを掴んだ瞬間がありました。その時、スタッフの間で「このシーンの西園寺くんは、何か開眼した感がある、覚醒めた感がある」という話になりました。これならもっとドラマに踏み込んだセリフを書いても、2人ならきっとリアルに、真に迫った感じで表現してもらえるんじゃないかと感じて、はじめの脚本にはなかったシーンが撮影中に生まれました。それを付け加えたことによって、より映画としての厚み、レイヤー感が生まれたと思っています」

©SHM FILMS

©SHM FILMS

Q.主人公の雅は、劇中、孤独や絶望など心境の変化があり、とても複雑な役どころだったと思いますが、役作りで苦労した点はありますか?

瀬戸かほさん
「雅というキャラクターが何を考えているのかを分かろうとする部分はすごく苦労しましたが、それ以上に、この『NEW RELIGION』という世界観、そこにある構造を理解するまでに時間がかかりました」

Q.奇妙な客・オカが主人公の雅を撮影していくシーンは非常に印象的です。撮影時のエピソードを教えてください。

瀬戸かほさん
「オカの部屋での撮影は、他のシーンとは異なる暗室のような「赤い部屋」で撮影しました。写真を撮られて、何回か部屋に行った後のシーンで、セリフを小さい声で言い続けるところがあって、そこが一番テイクを重ねた記憶があります。声の出力の加減が難しくて、すごく苦戦しました。部屋は窓がなく、暗くて赤いので、心理的にも圧迫感があり、いい意味で負荷がかかっていましたね。あとは、写り方として美しくポラロイドフィルムの写真が見えているといいなと意識して撮影していました」

©SHM FILMS

©SHM FILMS

Q.監督は、その重要な赤い部屋のシーンの撮影はいかがでしたか?

KEISHI KONDO監督
「あのシーンの撮影は、2日か3日間だったと思いますが、ずっとあの赤い部屋にいるとだんだん頭がおかしくなってくるんですよ(笑)。窓がなくて暗くて、空気もどんどん薄くなって、息苦しくなってきて。ただ同時に、この息苦しさが絶対に画面に定着するなと自分はすごく楽しんでいたんです。辛い状況ではありましたが、いわゆるいい画があって、撮影状況が常軌を逸しているような、例えば映画『悪魔のいけにえ』はめちゃめちゃ暑い中で気が狂いそうになりながら撮られたというエピソードに近いことができている。それって楽しいなという、映画マニアみたいな感覚もあったりして。辛かったですが、その赤い色や息苦しさというのが作品にもたらす効果を日々見ていたので、いろんな意味で楽しかったですね」

瀬戸かほさん
「辛かったといえば浜辺を裸足で歩くシーンがあるんですが、あれが多分撮影の初日だったんですよ。夏の浜辺を裸足で歩くのは大変だとすごく思いましたね。「熱い!」って言ってました(笑)」

KEISHI KONDO監督
「そうですね、あれがクランクインのファーストカットですね。あの時にスタッフの中での瀬戸さんのキャラクターが固まりました(笑)」

Q.『NEW RELIGION』は、出演者の方々が非常にリアルな存在感を放っていて、キャスティングの妙を感じます。俳優ではない様々なジャンルの方がキャスティングされていますが、その意図は?

KEISHI KONDO監督
「オカを演じた岡さんは、本当に役者じゃない、ただの一般人なんです。僕と同じような仕事をしている方なんですが、存在感が面白いんですよね。僕自身、あまり役者か役者じゃないかにこだわりがなかったんです。役者さんと非役者さんが混在する現場で、何か新しいものが生まれるんじゃないかという実験が好きなんです。ある種の制約をかけることによって、新しいものが生まれると考え、ロケーションをアンリアルなものにしたり、立ち位置だけで説明したりといった新たな手法を試みました。結果、他の映画にはない独特の雰囲気が生まれたと思っています」

Q.瀬戸さんは、岡さんとの共演を通して、その独特な存在感をどう感じましたか?

瀬戸かほさん
「岡さんご自身はすごく温厚な方なんですよ。撮影とは関係ない料理の話とかを和気あいあいとできるんですが、いざ撮影となると、岡さんはその映画の中にいる人になるから、私もその料理の話を忘れて、オカとしての彼と対峙することができるんです。緊張感を持って他人に接するようにできる方で、カメラの前に立った時の恥ずかしさとか、そういうものを岡さんは感じない、カメラがあってもないように芝居できる人だなって思ったんです。それは結構難しいことで、それは彼の素晴らしさだと思います」

©SHM FILMS

©SHM FILMS

Q.ホラー映画という言葉では語れない作品だと思います。演出に対してこだわりはありましたか?

KEISHI KONDO監督
「ホラーというすでにあるものをなぞるというよりも、まだ存在していない感覚をどう表現できるかに興味がありました。夢と現実を撮影して、迷宮感に楽しみを覚えて編集した結果、ホラーになったという感じです」

「恐怖」ではなく「質感」を追求した音楽デザイン

Q.全編を通して響くアンビエントサウンドが非常に印象的です。ホラー映画でベタな怖い音楽ではなく、鑑賞者の心に直接響くような音楽が使われていますが、この音楽面の方向性はどのように決められたのでしょうか。

KEISHI KONDO監督
「メインコンポーザーであるZEZE WAKAMATSUさんとは元々友人で、あるライブでご一緒したことがあり、その時に彼女の持つものごしの柔らかい雰囲気と姿勢ある、穏やかなアンビエントミュージックに惹かれていました。映画の撮影が終わり、誰に音楽を依頼しようかと考えた時、『NEW RELIGION』には凶暴なアンビエントサウンドも、優しい雰囲気の音楽も、とにかく感情の振り幅が広い音楽が求められていると感じたんです。その時、ZEZEさんなら僕の無茶なオーダーに付き合ってくれて、僕が欲している音を理解し、生み出してくれるんじゃないかと思って声をかけさせていただきました。例えば、雅が初めてオカの部屋を訪れるシーン、車から降りて、プチプチと音が流れ始め、扉を開いて赤い部屋に近づくに従って、音がだんだん変化していく。これはトラディショナルな作り方ではあるのですが、よりテクスチャーを意識し、身体感覚に根ざした音を追求しました。恐怖を演出するために音を入れたのではなく、その時の役者の気持ちや、部屋が持っている雰囲気をデザインするような感覚で作っています。だから、記号的な音ではなく、もっと複雑で触れるような、この『NEW RELIGION』の中でしか聞けない音にこだわりました。ソフトウェア音源で鳴らしただけの音は嫌だったので、そこはすごくこだわっています」

Q.撮影時は音楽がない状態だったと思います。瀬戸さんは出来上がった作品を観た時はどう感じられましたか?

瀬戸かほさん
「「この映画はなんだろう」と思いました。試写で見る時は、自分のお芝居の反省点などにフューチャーして観ることが多いんですが、この映画は要素があまりにも多いから、感想がすぐに出てこなくて。感じる要素が、目も耳も多かったからだと思います。演じている部分は知っていても、「こういう風になるんだ」という、改めて1回答えを教えてもらったというような感じがしました。お芝居だけ撮っていると、どういう風に繋がっていくかを想像できない部分もあるので、完成した作品で「こういうことを監督はおっしゃっていたのかな」という答え合わせをそこで一回したという認識です」

世界への確信と、次なる目標

Q.世界の映画祭での成功を経て、監督が目標として掲げる「世界に通用する映画産業を名古屋に作り出す」という夢への手応えはありますか?

KEISHI KONDO監督
「名古屋のスタッフメインで制作した作品が、イギリスのワールドプレミアですごく感動され、こちらの意図を読み解いてくれるお客さんがたくさんいるのを見て、名古屋のスタッフで全然世界に通用するものが撮れるという確信を得ました。これは夢というよりも、到達可能な目標へと固まっていった感覚があります」

Q.今後の具体的な展望はありますか?

KEISHI KONDO監督
「10月開催のスペインでのシッチェス映画祭の企画コンテストに新作プロジェクトが選出されました。その新作『NEO FOREST』は、しいなえいひさんと組んで作っています。『NEW RELIGION』ではサイコロジカルホラーという文脈を見せない美学がありましたが、新作ではそれをさらに徹底していきますし、見せていくスタイルもとっていて、ホラー、バイオレンス、スリラーになると思います。よりエンタメに振ります」

Q.公開を名古屋で待っている方々にメッセージをお願いいたします。 

瀬戸かほさん
「撮影したのが5年前ですが、やっとお客様に見てもらえる機会となりとても嬉しいです。怖いことは怖いですが、怖さよりも感じていただけることがあるので、ホラーが苦手な方も観ていただけると思います。ぜひスクリーンで観ていただいて、何か感じていただけたら嬉しいです」

KEISHI KONDO監督
「この映画には名古屋のランドマークは出ていませんが、今池の繁華街や北区のアパート群など、私たちが普段目にする何気ない風景がたくさん映っています。その何気ない風景のすぐ横に、オカの世界、赤い世界が広がっているかもしれない。そんな妄想をしながら、日々の生活の中にちょっとずつ染み込んでくる『NEW RELIGION』的な感覚を持ち帰って、日常を悪夢とともに(笑)生きてほしいなと思います」

左:KEISHI KONDO監督、右:瀬戸かほさん

左:KEISHI KONDO監督、右:瀬戸かほさん

映画『NEW RELIGION』https://the-newreligion.com/ は10月3日(金)より名古屋ミッドランドスクエアシネマで公開。

出演:
瀬戸かほ 岡諭史 西園寺流星群 沼波大樹 ナカムラルビイ 水田黒江
永田祐己 はな 脇田敏博 浅井信好 堀佑太朗

スタッフ:
監督・脚本・編集・プロデューサー:KEISHI KONDO
音楽:ZEZE WAKAMATSU / ABUL MOGARD / 松本昭彦 / MIIMM
撮影:三品鐘 照明:長岡滋 録音:桐山元秀 助監督:松田尭峰
ラインプロデューサー:安達雄樹 整音:澤田弘基 VFX:守屋雄介
カラリスト:MITYA KUZNETSOV
メインビジュアル:石井勇一
制作・配給:SHM FILMS 海外配給:REEL SUSPECTS
DCP / CINEMASCOPE / カラー / 100分 /©SHM FILMS

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