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映画『麻希のいる世界』新谷ゆづみさん、日髙麻鈴さん、塩田明彦監督インタビュー
重い持病を抱え、自分の生き方が見えなくなっていた由希はある日、麻希と出会う。不思議な魅力のある麻希と一緒にいたい。由希は麻希の歌声を世に知らせたくて祐介を誘いバンドを始めるが、麻希には良くない噂もあって……
誰かのために精一杯生きる。岐阜柳ケ瀬のCINEXで3月5日から公開中の映画『麻希のいる世界』には若者たちの真っすぐな情熱が詰まっている。
麻希に惹かれて追いかける由希役の新谷ゆづみさん、不思議な魅力を持つ麻希役の日髙麻鈴さん(高ははしごだか)、脚本・監督の塩田明彦監督にお話を伺った。
Q.この作品を作るきっかけを教えてください。
塩田明彦監督(以下塩田監督)
「この二人に前作の『さよならくちびる』に出ていただいて、その演技が二人ともすごく良かったのでこの二人で何か映画を作れないかなと思ったわけです。ただすぐに取り掛かれないまま若干の月日が経ちまして、そうこうするうちに世の中にコロナが蔓延して最初の緊急事態宣言が出て、僕の抱えていた仕事が全てストップしたんです。何もすることがなくなった時にあの二人の話を考えるいい機会だなと思って。書け!と言わんばかりに時間が空いたので、一気に一か月ぐらいで書きました。それをどう動かそうかなと思って、色々知り合いのプロデューサーに脚本を読んでもらったんですが、皆さん、余程コロナ禍でストレスが溜まっていたのか、「これは絶対やるべきだ、動いてみるべきだ」と情報提供をしていただいて。気がついたらお金が集まって、じゃあやろうと。コロナウイルスの影響は大きいというか、この映画に参加してくれた映画業界の人たちはみんなコロナに一矢報いなくてはいけないという感じがありましたね」
Q.コロナ禍の時期に塩田監督からオファーが来た時の気持ちを教えてください。
新谷ゆづみさん(以下新谷さん)
「監督が1か月で書いたというのは今日、初めて知りました。出演が決まったと聞いて、嬉しさのあまり二人で連絡を取り合いました。本当に嬉しかったですね」
日髙麻鈴さん(以下日髙さん)
「高校生になってからは主な活動が舞台中心になっていたので、まさか自分が映像の作品に出演することが決まるとは思わなくて。『さよならくちびる』が初めての映像作品で映画はそれだけだったので、ゆづみと二人で主演ということがものすごく心強かったです」
Q.脚本は一カ月という短い時間で書けるものなんですね。由希と麻希の複雑な家庭環境の設定はどのように生まれたのでしょうか。
塩田監督
「すこしずつノートにメモでは書いていたんですよ。映画の始まった瞬間から何かがもろく崩れ去っていきそうなものがギリギリのバランスを保って維持されている雰囲気の中で一人の女の人がもう一人の女の人への思いをどんどん募らせてエスカレートしていくという展開。その雰囲気から始めて次第にこの二人の物語が生まれていった感じです」
Q.お二人をイメージして当て書きされたと伺いましたが。
塩田監督
「しました。当て書きしたんですが、当て書きというのは二人の人柄をそのまま生かすというやり方も一つあるんですけども、僕の場合はあまりそういうやり方はしなくて。大概はその人のパッと見のイメージと逆にするんです。新谷さんだったら、『さよならくちびる』の時の印象としてはすごくその現場でも気遣いのできる人で、大人たちと自分たちの間をつないでいるのが新谷さんの役割みたいなところがあったんですが、その気配り感とか責任感というのを一切捨てさせる。自分のことだけ考えて、最終的には自分のこともどうでもいいというところまで行ってしまう極端な方向に振っていく。日髙さんはおっとりした柔らかい雰囲気の人じゃないですか。そういう柔らかい人を一気にギザギザにする、トゲトゲにする(笑)。そういう風にしてその人が醸し出しているものと逆に振った時に何か際立ったキャラクターが出てくると思って書いています」
Q.お二人は自分の役を知った上で、脚本を読まれた時、どう思われましたか?
新谷さん
「深読みすれば共感できるところはたくさんあるんですが、一番最初に脚本に目を通したときは自分自身の現実ではなかなか起こり得ないような、起こることもないような出来事ばかりで。とにかく熱量の高い脚本というイメージでした」
日髙さん
「衝撃でした。台本をいただいてサラッと読んで「・・・」という感じに自分の中でなって。それはネガティブなものではなくて一回マラソンを走りきった感じ。バッと走って「はぁ」ってなった感じです。内容が内容ですし、麻希という役は普段の自分とは全く真逆で、いろんな人を振り回す役というのが自分で出来るのかなという不安はありましたが、やりたいなと楽しみで高揚して撮影に挑んだことを覚えています」
Q.撮影の中では楽器を弾くシーンもありましたが、練習もされましたか?
日髙さん
「私とゆづみは楽器経験がありました。アイドル時代(さくら学院)に弾き語りの企画がありまして、私はギター、ゆづみはベースをやったことがあったんですね」
Q.では練習なしでもOKだったわけですね。
新谷さん、日髙さん
「いやいやいや(笑)」
Q.楽器が弾けたことは監督はご存じで、由希にはベース、麻希にはギターの設定をされたんですか?
塩田監督
「日髙さんはギターは普通に弾ける人だと認識していましたが…。よかったのかな?(笑)」
日髙さん
「いや…(笑)。でもずっと映画の撮影に入る前からプライベートでもエレキギターは趣味程度で家に持っていて練習していました」
塩田監督
「日髙さんに関してはあまり心配していなくて。ただ向井秀徳さんに音楽を依頼して。ドロップDチューニングという第六弦を一音下げるという特殊なチューニングになっているんですね。音が歪むのが麻希の世界だということで、弾き方も普段のコードの押さえ方とは違ってシンプルだけど強く勢いのある響かせ方をしないといけなかったと思うんですが、それはどうだったんですか?」
日髙さん
「そうですね、「排水管」という歌はフレッドだけを押さえれば歌えるんです。複雑なコードとかあるのかなと思ったら案外そうではなくて最初は安心したんですが、単純な演奏の中だからこそ伝わるものがあって、「ああ。これが麻希だな」と思いました。複雑なことはやろうとしないというのがかっこいいな、頑張ろうと思って練習しました」
塩田監督
「楽器自体も向井さんからお借り出来ましたしね。新谷さんはベースを持っていらっしゃることを僕は知っていたので、練習してもらおうかなと思って(笑)」
新谷さん
「「練習してください」って言われてました(笑)」
塩田監督
「その割には出来上がったらそこまでしっかりと弾かなくてもよかったなあって(笑)」
新谷さん
「(笑)。あまり通してベースを弾くシーンがなくて。でも楽器を触っていると麻希に近づけたような気がして、それが役作りにすごく影響していって良かったと思いました」
塩田監督
「麻希の曲に自分が合わせていくんだという気持ちになったんですね」
新谷さん
「はい。そうですね」
Q.由希は麻希に初めて会った時から心を掴まれます。そんな心を掴まれる、惹かれるものはありますか?
日髙さん
「日常的にいろんなものにときめいているとは思いますね。本当に素朴なんですが、クラゲです。小さい頃から大好きで。種類に詳しいとかそういうわけではなくて眺めるのが好きで、水族館に行ったらクラゲコーナーで一時間ぐらい観ていられるんじゃないかなと思います。私の永遠の憧れです。来世はクラゲになりたいなあ、たゆたっていたいなあと」
新谷さん
「布を売っている店で見つけたちょっと変わった形のボタンとか文房具屋さんで見つけたシールやノートを集めるのが好きですね。そういうのを見るとビビっときます」
Q.お二人は一緒にアイドルとしてともに活動された時代がありました。今はそれぞれ女優さんとして活動されていますが、今回の映画のために話し合ったりしましたか?
日髙さん
「映画のために話すというよりも、私たちはさくら学院を卒業してからも普段からプライベートで会って食事をしながら話しているので、共通点が多いんです。お互いにしかわからないということやお互いでしか感じ取れないこともあって。信頼もしていますし、作りこんでお互い、ここはこうしようとあらかじめ決めて演じたというよりはフィーリングで演じて、それが生きている気がします」
新谷さん
「いつも会う仲だからこそ、逆に簡単じゃなかったと私は思いました。映画という別の世界では私が演じる由希から麻希は離れていく。近づいているように見えてもどうしても奔放な麻希は遠ざかってしまう。今まですごく仲が良かったからこそ大変だった部分もすごくたくさんありましたが、由希として麻希のことを見ることができた気がしています」
日髙さん
「私はゆづみのことを完全に信頼しているので、思い切って麻希になれました」
新谷さん
「それを見て、それを感じて私も由希になれるという関係性だった気がします」
塩田監督
「そうだよね。元の距離感をそのまま延長すれば演じられる役ではないね。一度清算しないといけないというか」
日髙さん
「麻希側は楽しいんですけどね」
新谷さん
「私は楽しかったり、時々寂しかったりが続いていて、なかなかせつなかったです」
Q.これから観る方にどんな映画かをご紹介していただけますか。
塩田監督
「ポスタービジュアルのイメージだと女の子二人の話で、多分青春映画なんだろうなとか、百合ものかなとかあるいは『さよならくちびる』に出演していた二人がという前情報は結構出ていますので、バンドを結成する話ですから、音楽映画かなと思って期待して観ると案外そうでもないという。何を期待して観に来てくださるかは分からないんですが、監督から言えることはこれは何より愛の話です。ものすごく普遍的な熱い強烈な愛の話です。このポスターから想像するよりはるかに激しく脈打っている、激しい鼓動を打っている映画なのでそういう映画だと思って観に来てくださるとありがたいなと。今時の若い俳優たちとは思えないぐらい激しくて体温の高い芝居をこの二人も、祐介役の窪塚愛流くんもしているし、そこがすごい見どころなのでそこを観て欲しいなと思います」
新谷さん
「一番最初に脚本を読んだときから思っている熱量の高さ、読み終わったあとの息が上がっている感覚が演じている一番最初から最後まで変わらず私の気持ちの中にもありましたし、映画自体も熱量の高い、体温の高い作品になっていると思います。なので観た後は結構どっと疲れるのではないかと思います(笑)」
塩田監督
「案外心地よい疲れかもしれないです」
新谷さん
「観た後の余韻を楽しむというか、この余韻は何なのだろう?と思うかもしれません。私は演じる側ではあるのですが、実際に初めて試写を観た後でそういう気持ちになりましたので、その気持ちに浸っていただきつつ、観ていただきたい作品です」
日髙さん
「1回見ただけでは核心にたどり着かない映画です。食べ物で例えるとするめみたいな感じのもの。噛めば噛むほど味が出る。何度でも観て頂いて、最初はもしかしたら疑問に思う方もたくさんいらっしゃるかもしれないんですが、本当のことを知った時、自分の中で何かにはっと気付いた時に一気に全てがガラっと最初から最後までのイメージが変わる映画だと思いますので、それを楽しんで頂けたらいいなと思います」

右から新谷ゆづみさん、日髙麻鈴さん、塩田明彦監督
力は走るものの中にだけ存在する。昔あるアーティストが話していた言葉がこの映画を観た後に浮かんできた。この力は何なのだろう。自分の好きな人のためにがむしゃらに走ることが出来るこの力は。自分のことよりも先に相手のために生きる。あなたがいない世界なんてありえない。由希の麻希への強い眼差しと、そんな由希を夢中にさせる麻希のどこか冷めた眼差しと熱い歌声を観終わった後も忘れられないでいる。
映画『麻希のいる世界』https://makinoirusekai.com/は 3月5日(土)から18日(金)まで岐阜CINEXで、3月26日(土)より伊勢進富座で公開。3月18日(金)より関西地区で公開予定。
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