そこは奇跡が起きる場所(映画『音響ハウス Melody-Go-Round』)
ビートルズがアビーロードスタジオを愛し、あの横断歩道を渡る写真のアルバムを始め、様々な作品を生み出したことはあまりにも有名だ。
世の中に流れる音楽が生まれる場所、レコーディングスタジオ。
そこには私たちが知らない音楽家達の喜怒哀楽の時間がある。
一つのレコーディングスタジオの歴史をたどるドキュメンタリー『音響ハウス Melody-Go-Round』がいよいよ名古屋・センチュリーシネマでも12月18日から公開される。
一つのレコーディングスタジオの歴史から知る日本のミュージックシーン
東京・銀座、音響ハウス。創業45周年を迎えるこのレコーディングスタジオでも沢山の名曲が生まれている。音響ハウスから生まれた音楽に関わった人達からの思い出話からその当時の音楽制作の手法が見えてくる。
70年代から80年代、音楽にもアナログからデジタルの波が起こり、ニューミュージックと呼ばれるジャンルと共に様々な音楽が音響ハウスで作られた。
話すのはYMO時代からこのスタジオで試行錯誤を繰り返してきた坂本龍一をはじめ、松任谷由実、松任谷正隆、佐野元春、綾戸智恵、矢野顕子、鈴木慶一、ヴァン・ヘイレンのデイヴィッド・リー・ロス。そしてその当時レコーディングに関わっていたエンジニア達にもスポットを当て、音楽を作る側、それを支えて完成へと繋げる側の視点から音響ハウスでの音楽制作の裏側を知ることが出来る。

彼らは一人ではなく沢山の人と試行錯誤しながら音楽を作り上げたことを時に楽しそうに、時に満足そうに話す。音響ハウスの思い出を知ることで、日本のミュージックシーンの裏側、音響ハウスというレコーディングスタジオのよさを知ることになるだろう。
音楽を人と関わりながら作る楽しさ
この作品の注目したいところはどういう風に音響ハウスで音楽が作られていくかがじっくりと捉えられているところだ。映画の主題歌として作られた「Melody-Go-Round」はギタリストの佐橋佳幸とレコーディングエンジニアの飯尾芳史が発起人となり、大貫妙子、葉加瀬太郎、井上鑑、高橋幸宏ら音響ハウスゆかりのミュージシャンによる作品で、そのレコーディングにも密着。音色の選択、音の強弱、コーラスを重ねるか否かとさまざまな分岐点がある度にスタジオにいるアーティスト、スタッフでディスカッションを繰り返し、より良い音楽を作ろうとする。奏でられる一つ一つの楽器や声の音の良さ、そしてその良い音楽をバランス良く合わせるミックスダウンを経て生まれた「Melody-Go-Round」を改めて聞くとき、この映画自体の音の良さを感じずにはいられない。それはまさに音響ハウスで出来た音楽。観る者は新しい音楽が沢山の人の手によって出来上がる過程を目と耳両方で感じることが出来る。
監督は自らもレコーディングエンジニアの経歴を持つ相原裕美。日本のミュージックシーンを語る上でなくてはならない存在としてレコーディングスタジオ・音響ハウスを取り上げた。誰か特定のアーティストに密着した映画はあるが、この作品のように沢山のアーティストの目から一つの場所が語られるという音楽ドキュメンタリーは日本では珍しい。多角的に密着することで45年続く音響ハウスのすごさが見えてくる。

スマホで作曲、一人で宅録をして、気軽に音楽がSNSに投稿出来る時代になった。今後はもっと増えるだろう。
しかし、一つ一つの音を沢山の人がディスカッションしながら演奏し、音楽を作り上げるレコーディングスタジオもなくなってはならない。みんなで楽しい音楽を作り上げる素敵な場所。そこからは奇跡も生まれる。

音響ハウスはこれからも音楽を生み続ける。
映画『音響ハウス Melody-Go-Round』https://onkiohaus-movie.jp/ は全国順次上映中。
12月18日よりセンチュリーシネマ、1月15日よりミッドランドシネマ名古屋空港、刈谷日劇にて公開。
出演:佐橋佳幸、飯尾芳史、高橋幸宏、井上鑑、滝瀬茂、坂本龍一、関口直人、矢野顕子、吉江一男、渡辺秀文、沖祐市、川上つよし、佐野元春、David Lee Roth、綾戸智恵、下河辺晴三、松任谷正隆、松任谷由実、山崎聖次、葉加瀬太郎、村田陽一、本田雅人、西村浩二、山本拓夫、牧村憲一、田中信一、オノセイゲン、鈴木慶一、大貫妙子、HANA、笹路正徳、山室久男、山根恒二、中里正男、遠藤誠、河野恵実、須田淳也、尾崎紀身、石井亘 <登場順>
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