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親子とは。近いからこそ難しい(映画『The Son/息子)』

ヒュー・ジャックマンの新作は3月17日から日本公開される『The Son/息子』だ。活動のフィールドが映画だけでなくブロードウェイのステージにも及ぶ彼が選んだ作品は舞台の戯曲が原作。ヒュー・ジャックマン自身が惚れこみ、出演を逆オファーしたという。

あらすじ

優秀な弁護士のピーターは、再婚した妻のベスと生まれたばかりの子供と新しい家族として共に充実した日々を生きていた。そんな時、前妻のケイトと同居している17歳の息子ニコラスから、父のもとへ引っ越したいと懇願される。ニコラスは心に病を抱え、絶望の淵にいたのだ。初めは戸惑っていたベスも同意し、ニコラスを加えた新生活が始まる。ところが、ニコラスが転校したはずの高校に登校していないことがわかり、父と息子は激しく言い争う。なぜ、人生に向き合わないのか?父の問いに息子が出した答えとは?

監督は長編映画監督デビュー作となる『ファーザー』でアカデミー賞脚色賞を受賞した劇作家としても知られるフロリアン・ゼレール。「どうしてもこの物語を伝えたかった」と戯曲を書き上げ、舞台を上演した。さらに『ファーザー』に続く家族3部作の2作目として映像化したいとメガホンを取った。この作品の脚本に惚れ込んだヒュー・ジャックマンは面識のないゼレール監督にメールを送り、熱烈に逆オファー。主演だけでなく、製作総指揮にも名乗りをあげた。

親、夫、息子。人は多面的に生きている

人は年を重ねると立場が増えていく。誰かの子であり、誰かのパートナーであり、誰かの親であり。関わる人が増えれば自分の立場も増えていく。ピーターは親でもあるが、息子でもあり、夫であり、一人の男だ。ニコラスとの親子関係だけでなく、父親との関係、前妻ケイト、現妻ベスとの夫婦関係も描かれる。

充実した生活を送っていたが、ニコラスと暮らし始めることで状況が少しずつ変わっていくピーターをヒュー・ジャックマンが演じている。ピーターを中心に描く会話劇として構成されており、ヒュー・ジャックマンは受け手としての部分が大きい。ピーターに相対するキャストも演技派俳優が揃い、それに反応して出てくる彼の演技は見事だ。

『マリッジ・ストーリー』でアカデミー賞を受賞したローラ・ダーンはすでにやることはやり尽くし、憔悴し、自分には手に負えないとピーターにニコラスのことを相談しにやってくる前妻・ケイトを演じている。過去がたくさん描かれるわけではないが、ケイト、ベス、ニコラスのセリフからピーターがどんなことをしたのかは想像出来る。

ピーターの父親・アンソニー役にはゼレール監督の前作『ファーザー』で2度目のアカデミー賞に輝いた名優アンソニー・ホプキンス。中盤わずかな登場だか、彼の存在は最後までしっかりと残っていく。

特筆すべきはピーターの息子・ニコラスを演じているゼン・マクラグラスの演技だろう。彼はZoomでのオーディションで選ばれた新人だが新人とは思えない演技力を披露している。画面に映ったとき、ゼレール監督はニコラスは彼しかいないと思ったという。父親が出ていった後の喪失感を抱え込み、自分が何者かわからず、先の見えない未来への不安と常に隣り合わせ。それをゼン・マクラグラスは自身の解釈で見事に演じきった。ニコラスは繊細であり、それでいて雄弁。まさしくピーターとケイトの子なのだ。

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子は親の求める理想通りには育たない。親を見て育つからこそ、悩み、苦しみ、違う道を行こうとすることもある。ピーターとニコラス、アンソニーとピーターという二組の親子を通して、親子とは複雑な関係だと改めて思う。

心の病を知るきっかけに

人は強くもあり、脆い。自分でもわからないきっかけで心が弱ってしまうことがある。思春期は将来の自分が描けず、迷い、自分自身の生き方と葛藤する年代だ。そんな中で心のバランスを失い、周りとの関係性もうまく築けなくなることもある。抱え込めば抱え込むほど自分を追い詰める。

ゼレール監督は脚本を書く上で心の病のケアをする専門家達の話を聞いた。この映画を通して思春期の若者たちの繊細な心を知って欲しい、心の病を理解するためのきっかけが作られればいいと考えている。ピーターの家族を通してどの家族にも起こりえる問題を捉えている映画『The Son/息子』。親子とは近いからこそ見えないこともある。この映画を通して、様々な会話が生まれること、お互いをケアする時間が生まれることを願いたい。

映画『The Son/息子』 https://www.theson.jp/ は3月17日(金)より TOHOシネマズ シャンテほかで全国ロードショー。

東海3県では3月17日(金)より伏見ミリオン座、ユナイテッド・シネマ豊橋18、ミッドランドシネマ名古屋空港、TOHOシネマズモレラ岐阜、4月14日(金)より伊勢進富座で公開

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