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冤罪で死刑。代償は何になるのか(映画『白い牛のバラッド』)

イランから自国では政府の検閲で正式な上映許可が下りず、3回しか上映されていないという衝撃的な作品『白い牛のバラッド』が日本へ届いた。

見れば見るほど、イラン国内で上映するべきであろうと思う作品だ。だが、いまだそれは慣習や文化、思想があるためにかなわない。なんともやるせない思いになる。訴えるために表現しても、それを伝える場がない。場を与えない。そんな状況のままの国が世界にたくさんあることを忘れてはならないと。

あらすじ

テヘランの牛乳工場で働きながら娘ビタを育てるミナは、1年前に夫のババクを殺人罪で死刑に処せられたシングルマザー。今も喪失感に囚われている彼女は、裁判所から信じがたい事実を告げられる。ババクが告訴された殺人事件には別の真犯人がいた。代償として賠償金が支払われると聞いても納得できないミナは、担当判事アミニに謝罪を求めるが、門前払いされる。理不尽な現実にあえぐミナに救いの手を差し伸べたのは、夫の旧友と称する中年男性レザだった。やがてミナとビタ、レザの3人は家族のように親密な関係を育んでいくが、レザはある重大な秘密を抱えていた。やがてその真実を知ったとき、ミナが最後に下した決断とは……。

死刑制度の意味を考える。神の意志ですべてが片付く

イランにも日本同様に死刑制度がある。殺人の罪を起こした場合に、遺族が加害者に同様の苦痛を与える復讐刑(=死刑)が選択出来る。
嘘の自白の末、死刑になった夫に謝罪してほしいと訴えるミナ。奪われた命は帰らない。死刑になったのも神の意志、その運命を決めたのは神だと自分達が決めた裁判結果の非を認めないままフェードアウトしていくのもイランに根付く信仰の深さからかもしれない。
犯した罪への罰とはどうするべきものなのかは永遠の課題だ。

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イランでシングルマザーが生きていくということの難しさを捉える

ミナはわずかな給料と日々の内職でなんとか生計を立てる中で、新聞の広告として自分の気持ちを訴える強い心の持ち主だが、男尊女卑の考え方が昔から残るイラクではシングルマザーには暮らし辛い環境であることが映し出される。そんな中で夫の死後1年経っても喪に服して、黒のチャドルを着続けるミナに新たな出会いが訪れ、夫の友人だというレザと次第に関係を深めていくので、この映画にハッピーエンドが来るのかと思ってしまうが、この作品はイランでの現実はそんな簡単に終わるような話ではないと教えてくれる。

第71回ベルリン国際映画祭金熊賞&観客賞にノミネートされた本作は、これが2度目のタッグ作となるベタシュ・サナイハ、マリヤム・モガッダムの共同監督作品。女優として長いキャリアを持つモガッダムは主演を兼任し、主人公のミナを通して女性差別的な法律や風習が残るイランの現状を描出。未亡人でシングルマザーでもあるミナの苦闘から、女性の生きづらさという共感を呼び起こすテーマを追求した。

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見れば見るほど、イラン国内で上映するべきであろうと思う作品だ。だが、いまだそれは慣習や文化、思想があるためにかなわない。なんともやるせない思いになる。訴えるために表現しても、それを伝える場がない。場を与えない。そんな状況のままの国が世界にたくさんあることを忘れてはならない。

 

真実は残酷だ。自分の気持ちに整理がつかないような真実にミナはどう動くのか。赤い紅を引くミナを映す鏡に女として、妻として生きるミナの心の中が現れる。

罪と償い。彼女が下した決断とは?
衝撃のラストをあなたはどう解釈しますか。

 

映画『白い牛のバラッド』https://longride.jp/whitecow/

2月18日(金) よりTOHOシネマズ シャンテほか全国公開。
東海3県では2月18日より愛知 伏見ミリオン座、4月2日(土)より三重 伊勢進富座で公開。

監督:ベタシュ・サナイハ、マリヤム・モガッダム 出演:マリヤム・モガッダム、アリレザ・サニファル、プーリア・ラヒミサム 2020年/イラン・フランス/ペルシア語/105分/1.85ビスタ/カラー/5.1ch/英題:Ballad of a White Cow/日本語字幕:齋藤敦子 配給:ロングライド

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