友よ、皆に送られて安らかに逝け(映画『葬式の名人』)
『おくりびと』以降、逝く人を見送る職業の人々を描く映画は沢山作られており、今回もタイトルからまたそういう映画なのかと思ったが、見始めると全く違った。
タイトルは『葬式の名人』。
映画の舞台は大阪・茨木市。同級生の死がきっかけのある日の出来事がコミカルにファンタジックに描かれる。しかも思い出話はとてもノスタルジックで…。この作品とにかくいろんな要素が入っていて一言では言い切れない。
同級生の突然の死が久しぶりの再会を呼ぶ。
茨木高校に同級生が久しぶりに集まって友を送る。学校というところは大事な思い出が沢山ある場所なのに卒業するとなかなか入ることが出来ない場所になってしまう。そんな思い出が沢山残る場所で営まれる通夜とは?
劇団とっても便利の主宰であり、日本のチャップリン研究の第一人者でもある大野裕之が脚本家・プロデューサーとして『太秦ライムライト』に続いて手掛けるのは大阪府茨木市出身の川端康成の作品群を原案にしたちょっと不思議なお話。自身も茨木市出身の大野さんが母校と故郷のまちを存分に使い物語を描く。
あらすじ
小学生の息子あきおを働きながら育てるシングルマザーの雪子(前田敦子)は高校の同級生・吉田(白洲迅)の訃報を受け取る。
高校の野球部で吉田とバッテリーを組んでいた豊川(高良健吾)は母校・茨木高校で教師をしている。右手を痛めて投手生命を絶たれ、野球部を辞めてから音沙汰がなかった吉田が久しぶりに学校に現れたが、その直後に吉田は突然死んでしまう。豊川は子どもを連れてやってきた雪子や同級生たちと吉田の体を棺に入れて母校に運び、そこでひょんなことから通夜を迎えることになる。そんな中、雪子はあきおに吉田が父親なのだと告げる。

友の葬式で時間が動き始める
吉田の同級生の会話劇が面白い。テンポの緩急があるボケツッコミがあるトークはリアルだ。コメディ要素も沢山組み込まれ、葬式というより言わば同窓会の様相。吉田が呼び寄せて開かれた10年ぶりの同窓会は普段なかなか来られない高校にいることもあり、思い出話に花が咲き、賑やかに進んでいく。
吉田とバッテリーを組み、本当に好きだったのではないかと思われるくらい仲が良かった豊川、部活を辞めてから吉田と接近した雪子。高校時代は仲が良かった三人は吉田がいなくなってバラバラに。昔話が展開するうちに高校時代の吉田への思いが蘇ってくる。遮ってしまっていた吉田への思い。吉田の死が人々の心を動かしていく。
吉田への思いが登場人物それぞれで熱い。
それを演じる役者陣も豪華だ。
吉田との子ども、あきおを一人で懸命に育ててきた雪子に前田敦子。母親として、女性として迷いながら、でも苦しさは表に出さない雪子を繊細に演じる。
吉田へ友達以上の思いを向けていた豊川に高良健吾。二枚目も三枚目も出来、様々な役を演じてきた彼が今回は間違ったことが嫌いな高校教師を三枚目成分多めに演じている。

ちょっと不思議なストーリーは川端康成原案
映画の撮影場所となった茨木市は文豪・川端康成が育った場所であり、作品の舞台、茨木高校は川端康成の母校で、伝統ある文武両道の学校だ。最近大河ドラマ『いだてん』に出て来た高石勝男(演・斎藤工)もこの高校出身(当時は茨木中学)。
川端康成の作品には『葬式の名人』という映画と同名タイトルの作品がある。川端康成自身が16歳までに自身の家族を失い、「葬式の名人」とからかわれたことから書かれた自叙伝的な話だが、この映画の主人公雪子も16歳までに身内を失い、たった一人で息子を育てている。作品の中には川端作品からのモチーフが沢山ある。川端康成と言えば人間界だけではない他の世界の話もあり、通夜の夜には不思議なことも起こっていくが、登場人物達が驚くことなくそれを受け入れているあたりが面白い。どれがどの作品からのものなのか後から調べてみるのも面白いかもしれない。
不思議な話を映像化したのは『インターミッション』の樋口尚文監督。作品の中の光の描写がファンタジックさを生み出す。また独特な場所から人々を捉えるカメラワークも興味深い。

ベテラン俳優、個性派俳優が脇を固める
吉田の同級生役に尾上寛之、奥野瑛太と個性的な役者も出演し、キャラの強い同級生を演じているが、大野裕之さんの作品ということもあり、京都パワーが強いのがいい。
高校での通夜にやってきた僧侶役に栗塚旭、吉田の父親役に堀内正美、そしてある場所には『太秦ライムライト』主演の福本清三に中島貞夫監督まで。京都の時代劇を支えた方々が若手の演技を脇で支える。時代劇好きには嬉しい出演者が揃う。そして通夜に現れる女性として有馬稲子も出演。物語の大事な役割を担う。
旅立つ人を送るとはどういうことか。
葬式には悲劇も喜劇も存在する。
涙して笑って。逝く人を偲んで送り出し、生きていく人々はまた新たな出会いに向かい歩き出す。
映画『葬式の名人』は9月20日(金)日より新宿バルト9他で全国公開。東海地区では9月20日より名演小劇場で公開。
http://soushikinomeijin.com/
おすすめの記事はこれ!
-
1 -
『湯を沸かすほどの熱い愛』の中野量太監督が10年ぶりに完全オリジナル脚本で挑む—映画『私はあなたを知らない、』
日本アカデミー賞をはじめ数々の映画賞を席巻した名作『湯を沸かすほどの熱い愛』から ...
-
2 -
映画『メモリードア』『三尺魂』がシネマスコーレで上映中 加藤悦生監督、木ノ本嶺浩さんインタビュー
加藤悦生監督の『メモリードア』、『三尺魂』が8月22日から名古屋シネマスコーレで ...
-
3 -
地元・名古屋に凱旋!長村航希が語る映画『ひとりたび』撮影裏話 シネマスコーレ舞台挨拶レポート
映画『ひとりたび』の公開を記念し、8月22日、名古屋シネマスコーレにて舞台挨拶が ...
-
4 -
アーラ映画祭2026 今年は3日間で厳選の6作品を上映。チケットは8月22日(土)より発売開始!
映画館がない可児市において、市民ボランティアで構成される「アーラ映画部」の実行委 ...
-
5 -
幸せ絶頂のカップルを襲う“最悪の告白”―結婚直前、あなたはパートナーの過去をすべて受け入れられますか?(映画『ドラマなふたり』)
『DUNE/デューン 砂の惑星』のゼンデイヤと『THE BATMAN-ザ・バット ...
-
6 -
森田剛主演『見上げてごらん』本ポスター&本予告編が一挙解禁!マンガづくりを舞台に迷えるオトナに捧ぐ、ちょっと痛くて愛おしい物語
「夢を叶えるって、そんなに大事?」 42歳、万年マンガ家アシスタント。夢をこじら ...
-
7 -
左利きは「悪魔の手」—映画『左利きの少女』が突きつける偏見と強く生きる親子の姿
台北の熱気あふれる夜市を舞台に、生きづらさを抱えながらも力強く生きる多世代家族の ...
-
8 -
映画『平行と垂直』ミッドランドスクエアシネマ トークイベント付き特別試写会 レポート
2026年7月30日、映画『平行と垂直』の上映後トークイベントが開催された。 映 ...
-
9 -
映画『インビジブル ハーフ』西山将貴監督が語る「締め切りのない追求」が生んだ新感覚ホラー
14歳から独学で映像制作を始め、縦型短編ホラー『スマホラー!』で世界を驚かせた西 ...
-
10 -
日本必敗を予測した若きエリート達。それでも戦争に突き進ませたものは何か。歴史的真実を基に迫真の演技陣が炙り出す「空気」の不気味さ 映画『開戦前夜』
真珠湾攻撃の8カ月前、日本の命運を託した「総力戦研究所」が存在した……猪瀬直樹氏 ...
-
11 -
【プレゼントあり】Jホラーの巨匠・清水崇監督の最新作!映画『だぁれかさんとアソぼ?』
『呪怨』シリーズを手掛け、日本人監督として初めて全米興行収入1位を記録するなど、 ...
-
12 -
前を向いて生きよう 映画『小春日和〜Indian Summer〜』楠部知子プロデューサー インタビュー
37年間、精神科医として多くの心に寄り添いながら、役者としても活動してきた楠部知 ...
-
13 -
口にしたら、最後。映画『口に関するアンケート』が描く90分の最恐体験
衝撃的な展開と、観る者の日常を侵食するような最恐の恐怖体験が話題のホラーミステリ ...
-
14 -
【プレゼント企画あり】ケロロ軍曹劇場版が16年ぶりの復活であります!!(『新劇場版☆ケロロ軍曹 復活して速攻地球滅亡の危機であります!』)
「月刊少年エース」で大人気連載中、2000年代に社会現象を巻き起こした吉崎観音に ...
-
15 -
あなたの人生、それでいいですか? セントレアで起きた事件から生まれた崖っぷち三人のシークレット・ツアー 映画『マジカル・シークレット・ツアー』
映画『ミセス・ノイズィ』の天野千尋監督が有村架純、黒木華、南沙良を迎え制作した映 ...
-
16 -
賞金100億の生放送クイズ!原作・深水黎一郎×鬼才・堤幸彦監督が仕掛ける、最高峰の謎解きエンターテインメント!(映画『ミステリー・アリーナ』)
ド派手な推理クイズ番組が劇場のスクリーンに登場!最高峰の謎解きエンターテインメン ...
-
17 -
【プレゼント企画あり】佐藤二朗×城定秀夫が放つ衝撃のサイコバイオレンス(映画『名無し』)
俳優、脚本家、映画監督として多才な活躍を見せる佐藤二朗が、自ら初の漫画原作を手掛 ...
-
18 -
【名古屋撮影】映画『ランニングハイ』エキストラ募集のお知らせ
※この記事はテラスサイド様からのお知らせを受けて掲載しております。 ...
-
19 -
いつの間に結婚!?奇妙な出会いから始まる2人のストーリー 映画『ラプソディ・ラプソディ』
『クロエ』などで国内外から注目を集めた利重 剛監督13年ぶりとなる待望の長編監督 ...
-
20 -
日常の足元に広がる、愛おしい雑草の世界 映画『ザッケン!』
実在する「雑草研究部」をモチーフに脚本家で映画監督の上村奈帆がモノガタリラボと原 ...
-
21 -
映画『花緑青が明ける日に』名古屋ミッドランドスクエアシネマ2 四宮義俊監督Q&Aイベントレポート
日本画家としての活動を軸に、新海誠監督や片渕須直監督など名だたる監督のアニメーシ ...
-
22 -
『劇場版 転生したらスライムだった件 蒼海の涙編』名古屋 大ヒット記念舞台挨拶レポート
2026年3月15日(日)、ミッドランドスクエアシネマにて『劇場版 転生したらス ...
-
23 -
100年前のパリ、夢を追う二人の少女の物語。アニメ映画『パリに咲くエトワール』
日本のアニメーション界を牽引する豪華クリエイター陣が集結した珠玉の物語『パリに咲 ...
-
24 -
ユネスコ無形文化遺産 長浜・曳山祭りを舞台に子ども達の心を繊細に描く(映画『長浜』谷口未央監督インタビュー)
2016年、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産に山・鉾・屋台等と呼ば ...
-
25 -
男たちの友情を描くロードムービー 映画『円盤』制作プロジェクトが本格始動!
映画『Mothers マザーズ』のプロデューサーを務めた難波望監督による最新長編 ...
-
26 -
「自分の青春そのもの」当事者が震えた圧倒的リアリティ 映画『ストリート・キングダム 自分の音を鳴らせ。』名古屋センチュリーシネマ舞台挨拶レポート
2026年2月27日、名古屋センチュリーシネマにて映画『ストリート・キングダム ...
-
27 -
リストラ担当者の苦悩から見る「会社で働く」ということ(映画『ただ、やるべきことを』)
2月21日(土)から名古屋キネマ・ノイで上映される映画『ただ、やるべきことを』は ...
-
28 -
名古屋→東京 福山雅治 1日で駆け抜けた弾丸舞台挨拶でファンに熱い思いを語る!
2024年10月13日、長崎スタジアムシティのこけら落としとしてジャパネットグル ...
-
29 -
映画『安楽死特区』毎熊克哉さん登壇 名古屋大ヒット御礼舞台挨拶レポート
映画『安楽死特区』の大ヒット御礼舞台挨拶が2月8日名古屋ミッドランドスクエアシネ ...
-
30 -
シネマスコーレで上映中。会話劇の魅力。知多良監督初長編作品『ゴールド』
2026年1月26日、名古屋シネマスコーレにて映画『ゴールド』が上映中だ。 映画 ...
-
31 -
『MIRRORLIAR FILMS Season8』公開記念名古屋舞台挨拶レポート
短編映画制作プロジェクト『MIRRORLIAR FILMS Season8』の公 ...
-
32 -
映画『安楽死特区』が問いかけるこれからの日本の「生と死」の境界線―毎熊克哉さん・大西礼芳さん・長尾和宏さんインタビュー
高橋伴明監督が、現役医師である長尾和宏氏によるシミュレーション小説を映画化した『 ...