
身近に広がるはりぼてな世界(映画『はりぼて』)
2016年、富山市議会で次々と議員が辞職する事件が起こった。政務活動費を架空請求し、受領していたとして、1ヶ月で12人、のべ14人の市議会議員が辞職していった。
このきっかけを作ったのは1990年開局の富山市にあるテレビ局チューリップテレビのスクープ報道だった。
8月22日から名古屋・名演小劇場で公開される『はりぼて』が面白い。笑って観る内容ではないのかもしれないが、議員と報道陣のやりとりが滑稽で笑ってしまう。ニュースでは見られない真実が沢山ある。
『はりぼて』というタイトルにまず興味を持った。
表向きは立派だが中身は何もない。中身が空っぽなのは一体何のことなのだろうか。
保守王国・富山でスクープされた市議会議員の不正
富山県は日本一の保守王国と呼ばれる。割合にすれば有権者の約3.44%が自民党員。少なく感じるかもしれないが、日本一自民党員の割合が多い県だ。市議会議員も自民党員が大半を占める。
このドキュメンタリーの始まりは2016年。市議会の中の最大会派の重鎮的存在が、取材陣からメモを取り上げるという事件が発生。報道の自由を奪われるような出来事で議員に記者会見で記者が鋭く質問したが、煮え切らない答えで交わされてしまう。

©チューリップテレビ
その頃、議員達は自らの議員報酬を10万円増やす議案を通そうとしていた。住民達は大反発。議会でも傍聴席から野次が飛ぶ中、可決されてしまう。
退職金もないから妥当の待遇と主張し、議会への期待からの報酬アップだと議員達は話し、住民の意見は聞き入れなかった。
政務活動費とは?
この作品で話題に上がるのが政務活動費だ。
政務活動費とは何か。政務活動費は、地方議会議員に政策調査研究等の活動のために支給される費用だ。この費用はもちろん市の財政から支払われる。ということは富山市民の税金から払われていることになる。住民が反対するのは道理に適っている。
チューリップテレビの取材陣は議員達の仕事の実態を調べるために市や公共機関に情報公開を求めた。調べていくうちに報酬とは別に支給される政務活動費が実際にかかった費用よりも多く請求されていることを突き止める。全国で唯一富山市だけが政務活動費の予算を使い切っていた。
記者達に直撃され、始めは自身を正当化し、言い逃れをしていた議員達も確固たる証拠を見せられ、謝罪し、泣きながら辞職していく。その議員達の表情や態度の変化に苦笑いしてしまう。
市議会の状況に対する市長の対応も普段のニュース報道ではみられない面白さがある。

©チューリップテレビ
この作品では2016年にテレビのドキュメンタリーとして放映された『はりぼて 腐敗議会と記者たちの攻防』のその後が描かれている。政務活動費の内訳をチェックする第三者機関が発足したが、新たな政務活動費の不正や市議の不祥事が明らかになっても、今度は辞職しない議員が続出する。それはなぜなのか議員に記者達が真っ向から取材しにいくと、またのらりくらりとした返答が返ってくる。
不祥事を起こし、辞職しなくても許されるという体制はいいのだろうか?どうして市民は声を上げなかったのか。保守王国・富山には新しい風は吹かなかった。
発足した第三者機関も今は機能していない。
国会の様子を知ることはあっても住んでいる街の議会に目を向けることはあまりないように思う。日常をより良くするために代弁者として存在するはずの市議会議員達の不正を暴くこの作品を観て、地元の市議会で何が話し合われているのかをもう少し興味を持った方がいいと感じた。
ジャーナリズムは『はりぼて』に勝てないのか
チューリップテレビの報道陣のその後も描かれているが、東海テレビ製作の『さよならテレビ』でも感じたやるせなさがあった。あれほど追求したのに何も変わらない。また元に戻ってしまう。
一企業のサラリーマンとして報道をするということにはやはり限界があるのか。ジャーナリズムは企業を守るためには貫けないのか。

©チューリップテレビ
議会というネームバリューの中の腐敗した議員達、真実を報道するはずのテレビ局に居場所がなくなる記者達。『はりぼて』の中で生きざるを得ない今の世の中をどう考えればいいのか。観た後に日本の行く末を考えてしまう。
映画『はりぼて』https://haribote.ayapro.ne.jp/は現在全国順次上映中。
8月22日(土)から名古屋・名演小劇場で公開。10月10日より岐阜CINEX、11月7日から伊勢進富座で公開予定。
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