
新たな夢は動物園に(映画『いのちスケッチ』)
2019/11/14
夢を追っていても、叶えられない人は沢山いる。自身の夢をあきらめることは悔しいが、恥ずかしいことではない。また新たな夢を見つければいいと最近思うようになった。
漫画家になる夢を諦め、故郷に帰ってきた青年が動物園で働く姿を描く『いのちスケッチ』。新たな夢を抱く出会いは昔からある地元の動物園にあった。
あらすじ
東京で漫画家を目指し奮闘していた青年・亮太(佐藤寛太)は夢を諦めて故郷の福岡県に帰ってくる。実家に頼れず旧友の部屋に居候する亮太が紹介されたのは、地元の延命動物園でのアルバイトだった。いつも多忙な園長の野田(武田鉄矢)、飼育員の猿渡(芹澤興人)、中島(須藤蓮)、妊娠中で一時的に事務仕事をする松尾(林田麻里)がいるが、人手が足りず、何も知らない亮太もわからないまま仕事をすることに。アメリカの大学を出て引き抜きの話が絶えない優秀な獣医師・石井彩(藤本泉)や園のスタッフから、亮太はここが動物の健康と幸せを第一に考える“動物福祉”に力を入れる、世界でも珍しい動物園であることを教えられ、理解していく。しかし、かねてより市の予算縮小で、園の運営は危機的状況にあった。彩から、園の取り組みを広く伝えるために絵で協力してほしいと頼まれた亮太は躊躇するが、認知症になり、施設に入った祖母(渡辺美佐子)が絵を再び書き始めたことから、自身ももう一度漫画を描くことを決意する。
地域の今をしっかりと捉える瀬木監督の新作
『ラーメン侍』、『マザーレイク』など日本の様々な地域で映画作りに取り組む瀬木直貴監督の新作『いのちスケッチ』は福岡県大牟田市を中心に撮影された。その地域で生活する人々を捉える瀬木監督は実際に8ヶ月現地で暮らし、そこに住んでいる人たちと交流を図り、ロケハン、撮影を行った。大牟田市動物園、高齢化等SOSネットワークなどの高齢化社会に対する市全体での取り組みという大牟田市の特色を捉え、大牟田市の今を一人の青年のUターン後の生活を通して取り上げている。
福岡出身者が続々と出演
主演は福岡県出身、劇団EXILEの佐藤寛太。今までも様々な作品に出演しているが、これが単独初主演となる。故郷で新たな仕事のやりがいを見いだしていく亮太を演じる。新たな場所での仕事に戸惑いが多く、受け身的な立場だが、沢山の人と動物との出会いで変化していく亮太を繊細に演じている。獣医の彩を演じる藤本泉との掛け合いの変化が微笑ましく、認知症になった祖母のもとを訪れ、会話する姿に亮太を通して佐藤寛太の人柄を感じる。
キャストにはいつも多忙だが、動物福祉を誰よりも考えている園長役の武田鉄矢、大牟田市出身の事務員役の林田麻里、亮太の父親役には元チェッカーズの高杢禎彦、動物園の来園者として今田美桜も友情出演している。
延命動物園は動物ファースト
この映画で教えられたのは動物福祉という言葉とその取り組みについてだ。
主人公・亮太が働くことになる延命動物園は大牟田市動物園がモデルになっており、撮影も行われている。大牟田市動物園は昭和16年開園の老舗動物園で、経営が市から民間に移管したあと、独自の取り組みにより来場者が増え、再生した動物園だ。ここではただ動物を飼育するのではなく、動物たちが“心身ともに”健康に暮らせるように飼育している。環境の変化で刺激を与える「環境エンリッチメント」に力を入れたり、健康管理や治療・投薬などをできるだけ動物に負担をかけずに行うための「ハズバンダリートレーニング」を行っている。これまでにライオン、トラ、マンドリル、サバンナモンキーなどの無麻酔採血に国内で初めて成功し、世界で注目を集める動物福祉を重視した動物園で俳優達は数週間前から現場に入り、動物たちと信頼関係を築いた。撮影でも実際に動物に触れながらトレーニングを行っている。動物達が暮らしやすいようにと飼育しながら、観客との交流イベントも定期的に行い、動物園に来場者が増えていく様子も映画では描かれていく。
動物園、そこは自分らしく生きていること、いのちを感じる場所。そこに生きる証を見つける主人公の成長が光る映画だ。
映画『いのちスケッチ』http://inochisketch.com/ は11月15日(金)から全国公開(福岡は先行公開中)。東海地区では11月15日(金)より名演小劇場、イオンシネマ(名古屋茶屋、ワンダー、常滑、豊田KiTARA、各務原、東員)、金沢コロナシネマワールドで公開
11月17日(日)名演小劇場の10時10分の回上映前に瀬木直貴監督の舞台挨拶が予定されている。
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