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誰にでも普通の生活を送るという権利はある(映画『普通に死ぬ~いのちの自立~)』
昨年あいち国際女性映画祭で上映されたドキュメンタリー『普通に死ぬ~いのちの自立~』が6月5日よりシネマスコーレでアンコールロードショーされる。
この作品は『普通に生きる~自立をめざして~』の続編だ。前作では重い障がいのある人たちが施設入所ではなく、地域で普通に生活出来るようにと開設された静岡県富士市・富士宮市の生活介護事業所「でら~と」「らぽ~と」を取り上げた。この生活介護事業所は重い障害を持つ我が子と地域の中で普通に生きていくために親たちが自ら立ち上げた通所施設だ。自分らしく生きる。そのために開設された施設も設立10年を迎える中で年の経過による変化が起こる。そして新たな事業所建設を控えての問題もカメラは捉える。今回も8年かけて貞末麻哉子監督が密着した。
親というケアラーはいつまでもいるわけではない
医療的ケアを必要とする人の在宅生活には家族の支援は欠かせない。家庭の中で中心となって支える介助者(ケアラー)がいなくなったら、その人は生きていくことが困難になる。
当たり前のことだが、親は子より先に生まれている。だから先に死ぬ可能性が高い。自身の子への献身的介護を行ってきた親たちが病に倒れることは往々にしてある。「でら~と」に通う向島育雄さんの母・宮子さんががんに倒れ、育雄さんは一時的に病院で夜の時間を過ごすことになった。在宅生活の主たる介護者がいなくなると本来は施設入所を強いられるところだが、「でら~と」の職員の厚意による送り迎えにより、日中の時間は「でら~と」に通所し、夜だけ病院の一般病棟にショートステイさせてもらうことになったのだ。一般病棟に帰ってくると、育雄さんは不安そうに叫び声をあげる。何を育雄さんは伝えようとしていたのだろうか。母・宮子さんへのインタビューシーンではなんとか育雄さんの地域生活を守りたいと願う母親の思いが強く伝わってくる。いつでも一緒に過ごすことが当たり前で生きてきた二人。しかし時の経過は残酷だ。育雄さんがこのまま地域生活を送るには難しい現実があった。

向島宮子さんと三男 育雄さん(入所病棟での別れ)
障がい者を持つ親は「自分が死んだら子どもはどうなるのだろう」という不安に駆られる。残された家族、兄弟姉妹はそれまで家族の中で中心的ケアラーになっていた人同様、介助できるかといえばそうとは限らない。介助するにもいくら支援があるとはいえ、今の日本の制度ではそれは多くなく、費用はかかる。経済面を考えれば働かざるを得ない。そしてそれぞれの家庭での生活もある。そうなった時、支えてくれるのは支援者かサービスとして介助を行ってくれる病院や介護事業所のヘルパーたちになる。
家族が今まで通り通所させたいと考え、ヘルパーと話し合いをするシーンはお互いが利用者を思って意見を言い合ってるからこその葛藤がある。
医療的介助を今まで自分たちがやってきたのだから経験のない人にでも説明すれば出来ると考えやってほしい家族や支援者と、もしもひとりで担うことになった場合「自信がない」と思う支援者達。地域医療を進める医師の進言もありながら、現場ではなかなか思うようには介助できない。本人が望む生活をできるようにしてあげたいと考えると沢山の人たちの支援が必要だが、お互いの考えにズレがあることも見えてくる。
「親さんが家庭でやっている支援を、自分たちも支援者として担いたい」と願う坂口さんを連れて向かった先は兵庫県伊丹市。「しぇあーど」の李国本さん、李国本さんが尊敬する西宮市の「青葉園」の清水さん達の活動の中から地域で一緒に生きていく実践スタイルを追う。市の支援補助、人生を賭けた支援者達の活動の中から新たな施設の運営に光が差す。

伊丹 しぇあーど代表 李国本修慈さん 小谷光佑さんの入浴介助中
誰にでも生きる権利はある。障がいや、病気があっても誰かの介助があれば生きていける。
そして人はいつか死ぬ。どんなに大切で離れたくない人がいても逝かねばならない時がやってくる。
一人一人が命を全うするために。障がい者が自分らしく生きる場所を運営する人々がいることをこのドキュメンタリーで多くの人たちに知ってほしい。障がいのある人々も同じ場所で生きる人々だ。彼らが普通に生きることが出来るように、親が死んでも安心して生きていくことが出来るように。さらなる福祉の充実を願い、日々奔走している人たちがいることを忘れてはならない。

坂口えみ子さん(元副所長兼看護師長)と向島育雄さん
『普通に死ぬ ~いのちの自立~』http://www.motherbird.net/~ikiru2/ は6月5日~6月11日 愛知 名駅シネマスコーレ、7月3日~9日 神戸 元町映画館にて公開。
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