明日、きっと春が来る(映画『皆さま、ごきげんよう』)
2017/03/04
まず。シュールな作品だと思った。
現実にありそうで無い。無さそうである。
そんな映画だ。
その上この映画は何を私に訴えているのか
考えさせてくれるタイプの映画。
ローラーに轢かれてぺっちゃんこになったあの男性は元に戻るのか。
それとも死んだのか。
トムとジェリーの世界なら間違いなく元の形に戻る。
妻が悲しんでいないから大丈夫だったのか。
アニメーションでなく生きた人々の世界を描いているはずなのに
パラレルワールドも普通に入り込んでくる。
これがこの映画を作った監督のマジックか。
『皆さま、ごきげんよう』はそういう作品だ。
アパートの管理人にして武器商人の男と骸骨集めが好きな男。
この老人二人を中心に覗くことが趣味の警察署長や
ローラースケート強盗団、街で暮らすホームレスなど
街で暮らす人々の姿を描いている。
簡単に説明すればそんな話なのだが
なぜか映画はフランス革命後の時代
貴族が民衆の前でギロチンにかけられる場面から始まる。
去年の秋に『スカーレット・ピンパーネル』という
ミュージカルを観て、ギロチンに貴族が大勢かけられたということを
記憶の奥底から呼び戻されていた私は
またこの話に出会ったと思った。
惨劇を冒頭から見せられるのかと。
だがそのシーンは淡々と進む。でも何か滑稽で。
なかなか下がってこないギロチン。
やっと落ちたギロチンで落とされた貴族の首は
あまりに簡単に落ちる。それを怖がることなく拾う女性の姿。
血も全く出ていない。
このシーンは何なのか。首はどうなったのか。
そしてその先は描かれない。
時代は変わっても繋がっている。
場面は新たな時代へと変わっていく。
映画を観ながら途中で気がついた。
場面と場面は別の時代を描いているが根底では繋がっている。
様々なものが何度か登場するのは暗にそれを意味しているのか。
(ギロチンも違う場所でもひっそりと登場するのでご確認を。)
戦時中侵略され、家のものをすべて奪われる人達の姿が描かれたかと思えば
一方で現代のフランスで白昼堂々と鮮やかに盗みを働く
ローラースケート強盗団が描かれる。
歴史は繰り返される。どんな形であれ略奪は起こっている。
居場所を見つけた移民やホームレスも追い出される。
一見平和に見える世の中でも起こっていることは
昔と変わらない。
平和な世の中の矛盾を監督は指摘する。
監督81歳。独自の視点を失わない
監督は風刺の強い作品も多いオタール・イオセリアーニ。
81歳の監督は戦争も戦後も見てきている。
ホームレスや移民を排斥することに反対している監督は
この作品でホームレスたちを街になくてはならぬ存在として扱った。
時に音楽を奏で人を癒し、人を慈しむ。
普通に生きている人達と共存できる仲間として描いている。
コミカルでテンポのよさも感じられるこの作品は
監督の頭の中で作られた世界が忠実に描かれた
絵コンテを元に再現されてできている。
倒れる人々。
雑に置かれたように見える石。
車のドアに挟まれたスカートが映ること。
どれも計算済なのだ。
シリアスな話のに滑稽に見える場面が多い。
覗くという行為は映画を見ている人をその世界に誘う
覗くことが趣味な警察署長の視線は
見ている人の視線と同化する。
カメラ越しに私たちは彼らを覗く。
様々な場面に登場する窓やドア。
これらはヒッチコックの『裏窓』、江戸川乱歩の『屋根裏の散歩者』のように
映画を見ている私たちが覗いているかのような
錯覚をもたらしてくれる。
そこにいないはずの私たちはいつしかこの世界に取り込まれていく。
冬はやがて春になる
どの場面も季節は冬だ。
家を追い出されたとしてもまた新たな土地を探す。
大喧嘩したって仲直りする。
何をしていても時間は経つ。冬はやがて春になる。
生きていれば春が来る。
この作品の原題は
『CHANT D’HIVER』(冬の歌)
今の時代の人々を独自の視点で描きながら監督は
境遇や立場は違っても人それぞれが
幸せを見つけることを願っているのかもしれない。
どんなに辛い冬でも歌を歌って音楽を楽しんで
明るく過ごしたっていいのだ。
また数年後にこの作品をみたら感じることは違うのだろう。
そう思える不思議な作品だ。
『皆さま、ごきげんよう』は東京・岩波ホール他で公開中。
http://www.bitters.co.jp/gokigenyou/index.html
名古屋では1月7日より名演小劇場で公開。
おすすめの記事はこれ!
-
1 -
『湯を沸かすほどの熱い愛』の中野量太監督が10年ぶりに完全オリジナル脚本で挑む—映画『私はあなたを知らない、』
日本アカデミー賞をはじめ数々の映画賞を席巻した名作『湯を沸かすほどの熱い愛』から ...
-
2 -
映画『メモリードア』『三尺魂』がシネマスコーレで上映中 加藤悦生監督、木ノ本嶺浩さんインタビュー
加藤悦生監督の『メモリードア』、『三尺魂』が8月22日から名古屋シネマスコーレで ...
-
3 -
地元・名古屋に凱旋!長村航希が語る映画『ひとりたび』撮影裏話 シネマスコーレ舞台挨拶レポート
映画『ひとりたび』の公開を記念し、8月22日、名古屋シネマスコーレにて舞台挨拶が ...
-
4 -
アーラ映画祭2026 今年は3日間で厳選の6作品を上映。チケットは8月22日(土)より発売開始!
映画館がない可児市において、市民ボランティアで構成される「アーラ映画部」の実行委 ...
-
5 -
幸せ絶頂のカップルを襲う“最悪の告白”―結婚直前、あなたはパートナーの過去をすべて受け入れられますか?(映画『ドラマなふたり』)
『DUNE/デューン 砂の惑星』のゼンデイヤと『THE BATMAN-ザ・バット ...
-
6 -
森田剛主演『見上げてごらん』本ポスター&本予告編が一挙解禁!マンガづくりを舞台に迷えるオトナに捧ぐ、ちょっと痛くて愛おしい物語
「夢を叶えるって、そんなに大事?」 42歳、万年マンガ家アシスタント。夢をこじら ...
-
7 -
左利きは「悪魔の手」—映画『左利きの少女』が突きつける偏見と強く生きる親子の姿
台北の熱気あふれる夜市を舞台に、生きづらさを抱えながらも力強く生きる多世代家族の ...
-
8 -
映画『平行と垂直』ミッドランドスクエアシネマ トークイベント付き特別試写会 レポート
2026年7月30日、映画『平行と垂直』の上映後トークイベントが開催された。 映 ...
-
9 -
映画『インビジブル ハーフ』西山将貴監督が語る「締め切りのない追求」が生んだ新感覚ホラー
14歳から独学で映像制作を始め、縦型短編ホラー『スマホラー!』で世界を驚かせた西 ...
-
10 -
日本必敗を予測した若きエリート達。それでも戦争に突き進ませたものは何か。歴史的真実を基に迫真の演技陣が炙り出す「空気」の不気味さ 映画『開戦前夜』
真珠湾攻撃の8カ月前、日本の命運を託した「総力戦研究所」が存在した……猪瀬直樹氏 ...
-
11 -
【プレゼントあり】Jホラーの巨匠・清水崇監督の最新作!映画『だぁれかさんとアソぼ?』
『呪怨』シリーズを手掛け、日本人監督として初めて全米興行収入1位を記録するなど、 ...
-
12 -
前を向いて生きよう 映画『小春日和〜Indian Summer〜』楠部知子プロデューサー インタビュー
37年間、精神科医として多くの心に寄り添いながら、役者としても活動してきた楠部知 ...
-
13 -
口にしたら、最後。映画『口に関するアンケート』が描く90分の最恐体験
衝撃的な展開と、観る者の日常を侵食するような最恐の恐怖体験が話題のホラーミステリ ...
-
14 -
【プレゼント企画あり】ケロロ軍曹劇場版が16年ぶりの復活であります!!(『新劇場版☆ケロロ軍曹 復活して速攻地球滅亡の危機であります!』)
「月刊少年エース」で大人気連載中、2000年代に社会現象を巻き起こした吉崎観音に ...
-
15 -
あなたの人生、それでいいですか? セントレアで起きた事件から生まれた崖っぷち三人のシークレット・ツアー 映画『マジカル・シークレット・ツアー』
映画『ミセス・ノイズィ』の天野千尋監督が有村架純、黒木華、南沙良を迎え制作した映 ...
-
16 -
賞金100億の生放送クイズ!原作・深水黎一郎×鬼才・堤幸彦監督が仕掛ける、最高峰の謎解きエンターテインメント!(映画『ミステリー・アリーナ』)
ド派手な推理クイズ番組が劇場のスクリーンに登場!最高峰の謎解きエンターテインメン ...
-
17 -
【プレゼント企画あり】佐藤二朗×城定秀夫が放つ衝撃のサイコバイオレンス(映画『名無し』)
俳優、脚本家、映画監督として多才な活躍を見せる佐藤二朗が、自ら初の漫画原作を手掛 ...
-
18 -
【名古屋撮影】映画『ランニングハイ』エキストラ募集のお知らせ
※この記事はテラスサイド様からのお知らせを受けて掲載しております。 ...
-
19 -
いつの間に結婚!?奇妙な出会いから始まる2人のストーリー 映画『ラプソディ・ラプソディ』
『クロエ』などで国内外から注目を集めた利重 剛監督13年ぶりとなる待望の長編監督 ...
-
20 -
日常の足元に広がる、愛おしい雑草の世界 映画『ザッケン!』
実在する「雑草研究部」をモチーフに脚本家で映画監督の上村奈帆がモノガタリラボと原 ...
-
21 -
映画『花緑青が明ける日に』名古屋ミッドランドスクエアシネマ2 四宮義俊監督Q&Aイベントレポート
日本画家としての活動を軸に、新海誠監督や片渕須直監督など名だたる監督のアニメーシ ...
-
22 -
『劇場版 転生したらスライムだった件 蒼海の涙編』名古屋 大ヒット記念舞台挨拶レポート
2026年3月15日(日)、ミッドランドスクエアシネマにて『劇場版 転生したらス ...
-
23 -
100年前のパリ、夢を追う二人の少女の物語。アニメ映画『パリに咲くエトワール』
日本のアニメーション界を牽引する豪華クリエイター陣が集結した珠玉の物語『パリに咲 ...
-
24 -
ユネスコ無形文化遺産 長浜・曳山祭りを舞台に子ども達の心を繊細に描く(映画『長浜』谷口未央監督インタビュー)
2016年、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産に山・鉾・屋台等と呼ば ...
-
25 -
男たちの友情を描くロードムービー 映画『円盤』制作プロジェクトが本格始動!
映画『Mothers マザーズ』のプロデューサーを務めた難波望監督による最新長編 ...
-
26 -
「自分の青春そのもの」当事者が震えた圧倒的リアリティ 映画『ストリート・キングダム 自分の音を鳴らせ。』名古屋センチュリーシネマ舞台挨拶レポート
2026年2月27日、名古屋センチュリーシネマにて映画『ストリート・キングダム ...
-
27 -
リストラ担当者の苦悩から見る「会社で働く」ということ(映画『ただ、やるべきことを』)
2月21日(土)から名古屋キネマ・ノイで上映される映画『ただ、やるべきことを』は ...
-
28 -
名古屋→東京 福山雅治 1日で駆け抜けた弾丸舞台挨拶でファンに熱い思いを語る!
2024年10月13日、長崎スタジアムシティのこけら落としとしてジャパネットグル ...
-
29 -
映画『安楽死特区』毎熊克哉さん登壇 名古屋大ヒット御礼舞台挨拶レポート
映画『安楽死特区』の大ヒット御礼舞台挨拶が2月8日名古屋ミッドランドスクエアシネ ...
-
30 -
シネマスコーレで上映中。会話劇の魅力。知多良監督初長編作品『ゴールド』
2026年1月26日、名古屋シネマスコーレにて映画『ゴールド』が上映中だ。 映画 ...
-
31 -
『MIRRORLIAR FILMS Season8』公開記念名古屋舞台挨拶レポート
短編映画制作プロジェクト『MIRRORLIAR FILMS Season8』の公 ...
-
32 -
映画『安楽死特区』が問いかけるこれからの日本の「生と死」の境界線―毎熊克哉さん・大西礼芳さん・長尾和宏さんインタビュー
高橋伴明監督が、現役医師である長尾和宏氏によるシミュレーション小説を映画化した『 ...