
恋愛の先にあるもの(映画『モン・ロワ 愛を巡るそれぞれの理由』)
どう見ても人間的にダメな男、ダメな女はいる。
でも放っておけない。なぜか好きになってしまう。
何かにひかれてしまったのは自分だった。
その結婚は長く続かないと周りから言われても
それでも私は大丈夫。愛しているんだから。
神に添い遂げると誓う。
恋は盲目だ。愛は残酷だ。
その先の現実が見えたとき夫婦はどんな選択をするのか。
夫婦の形は多様化した。
「子供がいれば一緒に暮らさなくたっていいんじゃない?」
そう考えて別れる夫婦も沢山いる。
束縛されたくないという夫婦もいる。
付き合っていた頃はあんなに束縛していたというのに。
好きだから一緒にいたい。
でも一緒にいれば壊れていく。
『モン・ロワ 愛を巡るそれぞれの理由』
ある夫婦の波乱の10年を描く。
あらすじ
弁護士のトニーはスキーで大ケガを負い、リハビリをしながら
ジョルジオとの波乱の時を思い出していた。
学生時代に憧れていたジョルジオと再会し、
積極的なアプローチで心をつかみ、二人は激しい恋に落ちる。
いつも美女を引き連れていたジョルジオを知っていながらも
「君の子供がほしい。」という言葉で心を許してしまうトニー。
妊娠が発覚し、結婚式をあげた二人だが
一緒に住み始めると色々なことが発覚し、
二人の歯車は噛み合わなくなっていく…。
怪我をしたのは膝か心か
怪我をすると心も弱ると言うが逆のことも言えるだろう。
スキーで膝の靭帯損傷を負ったトニー。
リハビリの一環のメンタルカウンセリングでトニーは
見事に自分の弱った心を見抜かれる。
5週間のリハビリのなかでトニーは過去を振り返り、
弱ってしまった膝と心を元に戻していく。
理想と現実の狭間で
夫・ジョルジオは楽しいことは一緒に過ごしたいと考え、
妻・トニーは喜びも悲しみもすべて一緒に感じてほしいと思う。
不安になっているときも支えのはずの夫はいない。
ジョルジオの借金のかたに差し押さえされ、
自分の祖母から受け継いだ家具までも失うトニー。
自殺未遂したから放っておけないと元カノのアニエスの面倒を見たり、
仕事だといって事務所に見知らぬ女を連れ込んだり…。
隠し事が次から次へとわいて出てくるジョルジオは
見ている側からすればすぐにでも別れるべきだと思えてしまう男だ。
それでも夫婦でいるという【理想】に執着するトニーは
ジョルジオとは夫婦としてやっていけないことに気がつくことができない。
周りから【現実】を沢山突きつけられるが
ジョルジオとの距離が近すぎて色々なものが見えなくなる。
新進気鋭の女性監督と演技派俳優が作り出す遠慮のない描写
監督は『パリ警視庁:未成年保護特別部隊』がカンヌ映画祭審査員賞を受賞し、
『フィフス・エレメント』に女優としても出演しているマイウェン。
求め合うのにすれ違う男女の姿を隠すことなくリアルに演出している。
若くして結婚し、離婚した経験を持つ監督自身の思いが脚本にはある気がしてならない。
日本映画のようにオブラートに包まれたような描写はない。
フランスの恋愛映画というと最近はおしゃれなイメージを受けるが
昔は激しく熱い恋愛がフランス映画だった。
あの頃以上の熱さ、激しさがこの映画にはある。
マイウェン監督は激しい愛の交わりも惜しげなく表現し
さらにドラッグ、精神安定剤依存…現代だからこそある病的なシーンも描いていく。
恍惚の時も、残酷な時も。
恋愛の美しい時間だけでなくその後にある醜い時間までも遠慮なく描き出す。
どちらを見ても心が揺さぶられる傑作を生み出した。
マイウェン監督の下、夫婦を演じたのは
『ブラック・スワン』『たかが世界の終わり』のヴァンサン・カッセルと
『太陽のめざめ』の監督としても知られるエマニュエル・ベルコ。
マイウェン監督の頭の中ではこの二人で夫婦を映すというイメージが
しっかりと出来上がっていた。
なぜか女性が放ってはおけない男ジョルジオを
ヴァンサン・カッセルは監督と探りながら作り上げ、
ジョルジオの妻であることの優越感を持ち、
女としての喜びを味わいながら、同時に不安を感じて脆くなるのに
ジョルジオと力一杯ぶつかるトニーを
エマニュエル・ベルコは自分を壊しながら演じた。
ジョルジオとボロボロになりながら対峙するトニーの姿に
激しい思いを感じることができる。
一人なのかと思えばトニーは何かとジョルジオといる。
別れたはずなのにまた肌を合わせてしまう二人。
熱く燃え上がったカップルが自分たちにとっての
ほどよい距離をつかむまでの10年間。
こんな夫婦になってはダメだと言われているようにも思えるが
これだけ燃え上がる恋愛を出来るものならしてみたいと
思うのも人を愛することを知る人間の性だろうか。
『モン・ロワ 愛を巡るそれぞれの理由』(R15+指定)
http://www.cetera.co.jp/monroi/ は
3月25日よりYEBISU GARDEN CINEMA、ヒューマントラストシネマ有楽町他で
全国順次上映。
東海地区は3月25日より名演小劇場で公開。(岐阜CINEX、三重進富座でも後日上映予定)
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