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映画『金子差入店』丸山隆平さん、古川豪監督インタビュー
5月16日(金)から公開される映画『金子差入店』は刑務所や拘置所に勾留されている人に差入れを代理で届ける差入れ屋を営む男を通して、人生の再生や様々な家族の形を描いた作品だ。
映画『おくりびと』、『東京リベンジャーズ』で助監督をつとめた古川豪監督が脚本も担当し、長い時間をかけて長編初監督作品を作り上げた。
差入店を営む金子真司を演じているのは映画主演は8年ぶりとなる丸山隆平。自身の過去と向き合いながら家族と生きる男を体当たりで演じている。
丸山隆平さん、古川豪監督に名古屋でお話を伺った。
Q.表に出ない差入屋という職業を描く上でかなり準備に時間を費やしたと伺いました。
古川豪監督(以後 古川監督)
「少なくとも構想から形になるまで11年かかっています。今僕が出せるこれ以上の構想はないというものを形にすることに6、7年かかりました。その後の4年間の間に、丸山さんに出演をお願いしたり、資金を集める時間があり、11年経っていました。いろんな人たちの価値観があります。被害者、加害者、それに関わる人たちが映画を観る可能性がありますので、僕自身もストーリーについては相当考えました。それ以上にそんなことを考えたことがない人たちに観ていただきたいんです。何かちょっとでも観終わった後で考えていただける作品になることを目指して作ってきました」
Q.差入店という生業ならではの繋がりや駆け引き、金子自身が過去と向き合う部分も描かれていますが、リアルな部分とフィクションの部分のバランスも相当考えられたのではないでしょうか。
古川監督
「テクニカルなことになってしまうんですが、こういう店主を主人公に選んだことによって、面会に行ったり、差し入れを代行する先の人達が絶対に重たいテーマを孕むので、それに対する主人公にどういった枷や葛藤を与えるか、重みをどう持たせていくのかというバランスは考えました。最終的には前科者であるということに思い悩み、贖罪という意味も含めて、後悔を抱えながらずっと生きているという設定に落ち着かせた感じです」
Q.丸山さんの普段の元気で明るいイメージとは違う役柄だと思います。演じるために準備したことを教えてください。
丸山隆平さん(以後 丸山さん)
「どこからまず役に入るかというところで、差入屋という職業に関しての知識がなかったので、まずそれを知ることから始めようと思っていました。差入屋に本当は取材に行きたかったんです。どういった居住まいで、どういう目をされているのかも知りたかったのですが、プライバシーもありまして実際に取材をすることは相当難しくて。どうやって差入屋を演じようかと考えて、金子真司という人間とその周りの人たちはこういう環境の中でどういう人間なのか、まず人間を構築していくことにたどり着きました。そこからは、この本の中に描かれていることと、以前から監督の私生活だったり、ご家族との向き合い方や、出生の話を聞いていたので、これはもしかしたら監督の人間としてのエッセンスがたくさん入っているんじゃないかと感じて、モデルケースとして、監督の人柄や過去の話、監督と関係があった方々の話を入れ込みながら、金子真司という人物を構成していきました。それと同時に私生活から真司に寄せていきました。物理的に言うと、普段だったらスキンケアをするんですが、それをやめて全身石鹸だけで洗って(笑)、ちょっとエイジングをかけました。あまりつるっとした綺麗な人が差入店に勤めていても、違うかなと思ったんですね。そういう見た目でも、空気や説得力が生まれることを目指して、何が正解かわからないですが、見て違和感がないようにしました。スクリーンレベルだと、そういう細やかなところも見えてしまうので、白髪とかもそのまま生えっぱなしで。風呂は子どもと一緒に入っていたりするから、子どもの髪を乾かしている間に結局自分も自然乾燥していたりしていることもあるかなとか想像しながら作っていきました」
Q.いろんな人物が出てくる中で、母親の描き方が印象的でした。様々な母親を登場させたのはなぜでしょうか。
古川監督
「40才ぐらいから映画を作り始めていろんなリサーチをしていく中で、僕自身が人の親になりました。改めて自分の親や周囲の人間たちが子どもを育てるということにおいて、子に愛情を持つ人、義務としてやる人など子育てはいろんな形の価値観があると感じました。子育ては「子を育てるってこうでしょ」と押し付けることではないんです。毒親という今の世の中の言葉がありますが、逆に取ればいろんな親がいるわけです。多様性という言葉が当てはまります。なかなか難しい問題で、では社会という立ち位置から物を見ると、果たして映画に出てくる人たちが毒親だったのかどうか。その子どもたちはいろんな人生を歩んでいき、例えば真司であったならば、結果40才を過ぎて、ちゃんと家族を持って、必死になって家庭を守ろうとする男に育っています。根岸季衣さん演じる小島の母親に関しては、どこで歯車をかけ違えたのか。二ノ宮家もそうなんですよね。あそこに父親がいて、まともな職につけていたらどうだったんだろうと。生まれた瞬間はみんな同じ赤子だったはずじゃないですか。育っていく環境や、親や本人が選択した何かが変わっていくと、どこでどうなって、こうなったのか。そういうことを、観終わった後に何かふと思い起こして、考えてもらえたらと。いろんな親の形があるのはみんな一緒ですよね。周りとの関わり合い方にすごく重きを置いて脚本作りをして、それを素晴らしい役者陣に見事に演じきっていただきました。本当に感謝しています」
Q.たくさんの俳優さんと1対1で対峙することが多かったですね。
丸山さん
「正直、撮影期間中は一個一個噛み締めたりとか、「こうだったな、ああだったな」みたいなことを蓄積するような余裕がなくて」
古川監督
「本当に記憶がないことがたくさんあるんですよ(笑)。芝居で受けた苛立ちとかもずっと引きずって持って帰っていったりとかするので」
丸山さん
「そうなんです。それこそ、根岸さんが演じる小島の母との撮影前後は震えていました。お芝居は誰かとするものですから、相手が与えてくださるんですよ。他人事なんですけど、他人事とは思えない、自分にも家族がいると信じている真司をいろんな方向から追い詰めてくださるので。それをすごく素直に真司として返すという作業でした。小島役の北村匠海くんとの対峙シーンの話を昨日監督としていたのですが、「あそこのシーン、実はテストはやらずにそのまま撮っていたのは覚えてる?」と監督に聞かれて。「全く覚えてないです」と。あの空気をそのまま撮りたかったので、テストせずに撮った方がいいと監督は判断されたんですが、ただもう「よーい、ハイ」で一度に出し切ることの繰り返しだったので、そういうことにも意識が行っていなくて。それぐらい鮮度の高いカットを抽出して収めてくださったんだなと」
Q.寺尾聰さんとのシーンはぐっとくるものがありましたね
丸山さん
「真司としては救いが多かったと思います。ただ真司も抱え込んだり、人間として人に何か相談するということが、男たるものそれは許せない、自分が背負うものだと思っているので、唯一弱音を吐けるのがおじさんだったりするところはあるんですが、真司としてはそれはそれで結構しんどいです(笑)。おじさんは癒しという面もありますが、自分の情けなさや不甲斐なさを合わせ鏡で見せられるような存在なんですね。寺尾さんは撮影の合間、色んな話をしてくださいました。「もうちょっと丸山としても肩の力を抜いていいんだよ」と声をかけていただけて、言葉というよりは空気で色々伝えていただきました。クランクアップの時に「もっといろんな作品をやりなさい、そうしたらどんどん見えてくるものがあるから」と言ってくださって。この間の映画の完成披露の時もすごく熱く言ってくださいました。そういうことなんだなという実感は今はまだないですが、やっていくことでわかることはあるんだろうなと思わせてくれる言葉をいただきました」
Q.金子差入店の生活感のある作りこみがすばらしいのですが、あれはどこかにある建物なのでしょうか。
古川監督
「あそこは閉店された酒屋さんをお借りしました。そこを美術部さんと装飾部さんが作り込んでくださいました。初めてそこにお邪魔した時は店舗部分だけ撮影するつもりで行ったんです。でも店舗と住居が一体型の酒屋さんで、スタッフがお手洗いを借りようと中に入って行って、帰ってきたら「これは使えるかも」と言われて。中に僕も入って見させてもらったんです。中に入っていったら、あったんですよ、金子差入店が。底が抜けているところもありましたが、そこもこちらで直すので使わせてくださいとお願いしました。家の中まで撮影出来ることになったので、食事のシーンも、洗面所も川の字で寝ている寝室も全部この家で撮影しています」
Q.ご自身で演じている中で、ほっこりしたと思ったシーンはどこですか?
丸山さん
「ほっこりしたのは、やっぱり家族で食事をするシーンです。ご飯を食べるという行為がいろんなところで出てくるんですが、みんなで談笑しながら食べるというあのシーンは、人は何かしら抱えながら過ごしていますが、抱えていてもなんだかんだ笑っていたりする時もあるよなという、そういうリアルさがあって、食卓を囲んでいるシーンは癒されました。食べながらみんなと話している時って、いろんなことを忘れられるということが皆さんにも日常の中であると思うんです。食事の時間はすごく和みましたし、癒されました。和真役の三浦綺羅くんが一番生き生きしていました(笑)」
Q.真司として苦しいシーンが多いですが、これから観る方にメッセージをお願いします。
丸山さん
「物語が始まるところから真司自身が何か背負っていますし、金子家自体も何かを抱えています。自分としてそれをやるというよりは真司と向き合いながら自分に取り込んで、苦しみを一緒に抱えながら撮影していました。物語上の真司の辛さのピークはありますが、観た方が一番苦しいなと思ったシーンが辛いシーンになると思います。それは別に真司だけではなくて、誰にのめり込んで観るかによっても苦しみ方が違うと思います。自分が抱えている傷や背負っているものと共通する部分があるのであれば、それを憎しみとかだけではなく愛することができるような、そんな映画になっていたらいいなと思います。
映画『金子差入店』https://kanekosashiireten.jp/ は5月16日(金)よりTOHO シネマズ 日比谷他で全国公開。
東海三県では109シネマズ名古屋、ミッドランドスクエアシネマ、イオンシネマ(大高、名古屋茶屋、ワンダー、岡崎、豊田KiTARA、長久手、常滑、各務原、津南、鈴鹿、東員)、コロナシネマワールド(中川、安城、小牧、豊川、ららぽーと安城、大垣)、ユナイテッド・シネマ(豊橋18、岡崎、稲沢、阿久比)、TOHOシネマズ(木曽川、赤池、東浦、津島、岐阜、モレラ岐阜)、ミッドランドシネマ名古屋空港、MOVIX三好で公開。
映画『金子差入店』
【STORY】
刑務所や拘置所に収容された人への差入を代行する「差入屋」。 金子真司は一家で「差入店」を営んでいた。 ある日、息子の幼馴染の女の子が殺害される凄惨な事件が発生。彼女の死にショックを受ける一家だったが、犯人の母親が差入をしたいと尋ねてくる。
差入屋として犯人と向き合いながらも、日に日に疑問と怒りが募る金子。 そんな時、毎日のように拘置所を訪れる女子高生と出会う。彼女はなぜか自分の母親を殺した男との面会を求めていた。
2つの事件の謎と向き合ううちに、金子の過去が周囲に露となり、 家族の絆を揺るがしていく。
キャスト:
丸山隆平
真木よう子/三浦綺羅 川口真奈
北村匠海 村川絵梨 甲本雅裕 根岸季衣
岸谷五朗 名取裕子
寺尾聰
監督・脚本:古川豪
主題歌:SUPER BEAVER「まなざし」(ソニー・ミュージックレーベルズ)
製作:「金子差入店」製作委員会
製作幹事:REMOW 製作プロダクション:KADOKAWA
配給:ショウゲート
©2025 「金子差入店」製作委員会
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