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映画『逆光』須藤蓮監督、脚本家渡辺あやさんインタビュー 岐阜柳ケ瀬 再会から夏祭り×映画という企画が生まれた
名古屋で上映されることはあっても、岐阜の映画館で上映されるミニシアター系の映画は多くない。
そんな中、岐阜の柳ケ瀬商店街にあるCINEXの上映だけでなく、商店街の祭りも一緒に盛り上げようと東京から飛び込んで来た映画製作チームがいる。
映画『逆光』は1970年代の尾道を舞台にした若者たちのストーリーなのだが、これが妙に刺さる。
レトロな雰囲気の薫る岐阜・柳ケ瀬商店街はこの作品の製作チームと夏祭りを企画した。
映画の街だった柳ケ瀬。ずっと私たちはこういうイベントを待っていたのだ。
くすぶっていた思いが一つの映画作品で動き出す。
7月23日から岐阜CINEXで公開される映画『逆光』須藤蓮監督、脚本家の渡辺あやさんにお話を伺った。
・映画を作ったきっかけを教えてください
須藤蓮さん(以下 須藤さん)
「脚本の渡辺さんと僕は役者として「ワンダーウォール」という京都のドラマで出会いました。「ワンダーウォール」はNHKのドラマだったんですが、この作品が描いている問題をより多くの方と共有していきたいということを目指して、制作チームでお金を出し合って、映画化したり、その宣伝を一緒に考えたりするようになったんです。作り手が宣伝のことを考える、企画を考えるという場に役者だとなかなか参加できる機会ってないじゃないですか。僕は役者なのでそれが自分にとってすごく面白くて、勉強の場みたいな感じで毎回参加していたんです。そこで仲良くなりまして、「ワンダーウォール」を劇場版として公開していくと同時に、渡辺さんと一緒に映画の企画を進めていたんです。それは『逆光』とは別のもので、僕が書いた脚本を渡辺さんに直していただくという形で、僕の実体験を踏まえた2時間ぐらいの映画を準備していて。その2つの企画を動かそうというタイミングでコロナ禍が来てしまったんです。それが『逆光』制作のきっかけになりました。その2作品をこれからやっていくということは自分の人生の新たな光、新たなステージの兆し。これをやっていくことが、冒険にもなるだろうし、新しい活路を切り開いてくれるぞというタイミングで、コロナ禍が来てなくなってしまって、いろいろ探ってはいたんですけど、自分の中にずっと抱えていた熱量みたいなものを段々閉じ込めるしかなくなってしまった。その中、渡辺さんに「何かやれることはないですかね?」とずっと相談していたんですけど、ある日時代設定を少し昔に戻して、70年代の尾道という設定だったら、中編映画が撮れるかもと連絡をいただいたんです」
渡辺あやさん(以下 渡辺さん)
「それで緊急事態宣言が終了してすぐに、私が島根県に住んでいるので島根から、須藤くんは東京からきて尾道でどこなら撮れるかとシナリオハンティングを始めたんです。その後4日ぐらいで脚本を書きました。なので実質シナリオハンティングから2週間ぐらいで書きあげた感じです」
須藤さん
「映画の作り方、進め方を今でこそ僕も1本撮ったので、知っているかのように振舞っていますけど、当時は作ったことがないので、「どういう風に脚本を作っていくといいですか」「まずは行ってみるのがいいんじゃない」というやり取りの中で尾道に行って。実際に見てみて、このロープウェイ使えそうとか、このお寺は高低差があるから撮影できそうとかを話しました。出てくれそうな役者さんも先に決めておいて、吉岡と文江と晃役を当てはめて、その3人が70年代の尾道にいるとしたらどういう話になるかということを考えながら歩いていきました。その中で渡辺さんからみーこという役を出したいという提案があって、メインは4人での話になりました。街の風景を見ながら、脚本を考えていく流れでした」
渡辺あやさん
「吉岡役の中谷くんは「ワンダーウォール」の時にご一緒して、晃役は須藤くんなので、知っているじゃないですか。「ワンダーウォール」とはまた違った役で二人を一番魅力的に見せられるかなと。二人ともシュッとしているので、登場人物に女の子を出したいんですけど、普通の子より意外なキャラクターを出したくて文江やみーこを出しました」
須藤さん
「僕が脚本を書きながら作っていくと、文江さんやお手伝いのとみさんを出すという発想にどうしても至らなくて、結果、映画に成熟性が伴わないんですよ。二人がこの作品を担っている部分があって、その部分を渡辺さんに支えていただきました。僕には絶対にできない。その大切さは撮影しながら知りましたね」
・監督をやりながら役者をやるって大変ですよね?
須藤さん
「僕は人から言われたことを自分の腑に落とすまでに時間がかかるんです。人より何十倍というエネルギーを持ってしないとそれができないんです。逆に言うと演出家さんとの相性が良くない場合の芝居っていうのはすごく良くない(笑)。その分そういう不器用な人がすごく好きで。今の映画界の現場ではすくい取れない才能を見いだして、こういう演出をしたら、実はもっとうまく使えるんじゃないかと。多分相当苦労すると思うんですよ。でも自分がそうだからというのもあるんですが、そういう役者さんを使いたいと思うんです。もちろん役者をやりながら、映画を撮るってめちゃくちゃ大変なんですが、下手に相性のよくない演出家さんとご一緒するよりは、自分がやる芝居のポテンシャルは上がります。苦労はしますけどね(笑)」
渡辺さん
「いや大変だと思いますよ。芝居は主観的にやらないといけないですし、監督は客観的に見ないといけないですから」
須藤さん
「深いところに下りると主観と客観が両立する。渡辺さんはそれができていらっしゃるんです。登場人物に喋らせながら物語はちゃんと出来ている。それは主観と客観の両立なんですね。だからそれができるレイヤーに下りれば別に難しくないんですけど、そこに下りるのが難しい。脚本を書くみたいな営みを現場でやっている感じなんです。僕はいい演技ができている場合は演出も考えられるんですよ。要は主観的に物事を考えながら、すごく広い世界を見ている状態じゃないですか。掴んでいるというか。渡辺さんが脚本の段階で一度掴んでいるので、その掴んでいるものをインストールしながら同じところまで下りる。だから渡辺さんなしでは無理なんです。下りている人が現場というかチームに1人いないと混乱します。自分がどっちかにブレたなって思った瞬間にすぐ確認出来る、照らし合わせられる人がいるからちゃんと出来ているというのは正直ありますね。いなくなったらどうしようということです(笑)。出ながら撮ることは、そういう方がいないと絶対に出来ないです」
・脚本家さんも現場に?
渡辺さん
「完全に自主映画で、人手が足りない現場なので、私もずっと現場にいて何でもやりました」
須藤さん
「人手が足りないからと渡辺さんはおっしゃいましたけど、必要なんです。必要な存在な上でいろいろやってくださったんです」
・撮影はどれぐらいかかったんですか?
須藤さん
「1週間と追加撮影で2日間です。予算のマックスまで伸ばして。なるべく撮影に時間をかけたかったんです。かけすぎてもダレてしまうし、ちゃんと余力もあるスケジュールでやれたかなと思います」
・作品の色合いがすごく気に入りました。色のこだわりはありますか?
渡辺さん
「色はとてもこだわっていて、須藤くんが一度編集したものを直した方がいいと言われてプロの方にお金をかけて調整してもらったんですけど、それを気に入らないと言ってまた自分で直していました」
須藤さん
「70年代を色で表現しようというアプローチでは全然なくて、作品にフィットする色を探るという感じです。僕の中では、ビビットなんだけど、静謐であるという。すごくビビットでうわっと飛び込んでくるんだけど、化学的じゃない。毒々しい色じゃないんだけど、派手というのを目指したんです」
渡辺さん
「須藤くんは昆虫とか好きなんですよね。自然のビビッドさとかね」
須藤さん
「天然色の鮮やかさが好きです。ある一定のラインをちょっと超えるとイラッとくる、ギリギリのところなのがいい。あとちょっと行き過ぎると緑の色が気に入らないとか」
・作品の色はセンセーションですが、鮮やかさが心地よいですよね
須藤さん
「70年代とかレトロとか昔を表現するときにセピアみたいな色が使われるじゃないですか。あれに違和感があって。写真は薄れていますが、薄れていない記憶を撮るんです。映像が自然の色から離れすぎると映像にしたときにスクリーンを超えて訴えかけるものの総量が減るんです。極端に言うと緑色を紫色に変えちゃうとか。調整を加えすぎてしまうと、夏の暑さや砂浜の照り返しの熱い感じとかが、人の五感に訴えかけなくなる。五感に最も訴えかける色、水の中に飛び込んだ時に気持ちいいと感じる色、目が気持ちいい色。それが体に染み込んでくる感じにしたんです。自分のセンスというよりはこだわって頑張って作りました。カメラマンも、衣装の方もすごく色の感覚のいい方で、渡辺さんもそうなので、チーム全体でこだわれた感じです」
・この作品を岐阜で上映しようとしたきっかけは?
渡辺さん
「もともとは共同通信社さんから来たインタビューがきっかけです。あまり私は取材のオファーを受けないんですが、『逆光』のこともあり、お受けしまして。その記事が岐阜新聞さんに掲載されたんですね。それを今回岐阜の上映の宣伝をしてくださっている関谷さんが見て。関谷さんは映画『天然コケッコー』の時に配給会社で宣伝担当をしてくださっていて。結婚して、こちらに戻って来られていたんですが、記事を見てメールをくださったんです。その中で、映画宣伝の仕事はしたいけど、岐阜ではなかなかないと書かれてあったので、これはいい機会だ!と思いまして、ダメ元でお願いしたら了承いただけて、しかもめちゃくちゃ頑張ってくださって。それで、岐阜で何がやれるか、どんな人たちがいるのかと二人で岐阜にやってきて集まってくださった方から話を聞いたんですよ。その中で柳ケ瀬商店街でイベントが出来たら面白いんじゃないかと。さらに話を聞いたら柳ケ瀬は元々映画館が沢山あった映画の街なので、そこに繋げて出来たらという話が出てきて、トントン拍子に話が進んで。私たちも本気で、全力でやろうということで今に至ります」
・柳ケ瀬の夏祭りは7月23日、24日ですね。その1週間前に『逆光』のプレ上映がありますが。
須藤さん
「これは僕が頑張る日ですね。祭りが成功するかどうかがかかっているので。いや、絶対成功させます!なぜかというと僕らの活動は Instagram で毎日アップしているんですが、岐阜に行くって投稿したときすごく盛り上がったんですよ」
渡辺さん
「多分 史上最高ぐらい盛り上がったんです。いいねがついたのが、「逆光チーム岐阜に行く」ということで柳ケ瀬で撮ったものをアップしたんです。武田玲奈ちゃんが舞台挨拶に来た回を抜いたらトップです!(笑)」
須藤さん
「主にミニシアターで映画をかける、興行するということはほぼ今のままのやり方で普通に勝負したら、無理なんですよ。例えば今、いろんな劇場を回って話しているのが、予算2000万円ぐらいの映画が一番回収できないよねと。2000万円が回収できないってどれだけ映画業界はダメなんだと。今ミニシアターという映画館は苦しい時期。でもそこで何とか、創作の純度も保ちたいし、これから物を作っていきたいと思っている若い人達に希望を持ってほしいし、自分自身もやっぱり希望を持ちたいから、何とか可能性を探そうと思って上映を尾道から始めました。それから公開していく地域を回りながら、ミニシアターサイズの、『逆光』サイズの映画がどういう新しい可能性になるのか、生き残れるのか、この新しい光、可能性を持てるのかということを探してきました。これは僕なりの解釈なんですけど、それは僕らのような可能性がないと思われているものを、可能性として提示したいっていう気持ちをずっと持ってやってきているんです。ミニシアター映画って今、東名阪以外やる意味がないと言われていまして」
・名古屋すら飛ばされる名古屋飛ばしもありますからね
須藤さん
「飛ばされる、それって結局意味があるところに集約させていくということですよね。最終的に東京のみになっていったりする。でも封切ってみたら東京でも盛り上がらない。そうするとなくなっていくしかない。だとするなら新しい意味を全く可能性がないと思われている場所で僕らは見つけていきたい。いろいろ各地を回っていくと、すごく映画を新鮮だと思ってくださるんですね。初めて岐阜に行った時に『逆光』のチームが来たということで集まってくださったじゃないですか(何が柳ケ瀬で出来るかを有志が集まって会話したことがありました)。すごい何かを期待してくれているのを見て、ここにあるこの人たちの中に眠っていた熱いもの、何かエネルギーみたいな、何かを盛り上げたいけど、発散どころがないエネルギーみたいなものをすごい感じて。それにインディーズ映画の映画宣伝がしっかりうまく結びついて、新しい可能性を一つ大きく提示できたら、それはすごい面白いことだなと思うし、賭けていきたいと思って。それが夏祭りという、全く想像もつかない形で今ここに生まれようとしているということが、可能性だなと。だからこそ絶対に成功させたいんですよ」
・映画以外にも計画されている目玉イベントは何ですか?
須藤さん
「昭和歌謡ショーです。これはもう絶対見ないと損ですよ。超面白いんですよ。これは僕がずっとやりたかったことでもあるし、多分渡辺さんも目指していることに近づいていると感じます。歌謡ショーって言うと近所のカラオケ大会みたいなものを想像してしまうんですけど、映画を作るのと同じぐらいの熱量で本気でこういうことをやるって大事ですよね。岐阜の音楽をやっていらっしゃる方とか、歌が上手いけど披露する場がない方とか。そういった方の中に元々眠っていたエネルギーを昭和歌謡というテーマと、渡辺あやと岩崎太整という一流のクリエイターのもと、目覚めさせる。そのエネルギーを体感することが1970年代を描いた『逆光』にあるような熱量を感じることになるのではないかと。最初はカラオケ大会になっちゃうかなと思ったんですけど、いろんなハードルをクリアして生バンド、生演奏でやるんです。それってなかなか出来ないです。しかもプロの方とやるならなおさらできません。でも、その生演奏をしかも、岐阜柳ケ瀬のロイヤル劇場でやるということに新しい可能性が見られるし、単純に昭和歌謡というものを本気の生バンド演奏で見たらすごく面白いと思うんですよ。昔の映画って今の映画に比べてしっかりしていて、正直、面白いじゃないですか。それと同じように昭和歌謡という音楽もものすごくちゃんと作られている。シンガーソングライターとかがいない時代なので、本当にプロの作曲家が海外から取り入れたメロディーを、当時のスターに託すことで生まれたもの。1曲1曲の足腰がしっかりして、歌い手がその歌を最も美しく聞かせるということで自己顕示欲とかそういうものを超えた表現として成り立っていたからこそ残る。昭和歌謡は今聞いても素晴らしいです」
渡辺さん
「昭和歌謡はやるなら本気でやらないとだめだと言われています。いろんなハードルを乗り越えて、関谷さんと、柳ケ瀬の方が実現しようとしてくださっていますので、ぜひ『逆光』と合わせて観に来ていただきたいです」

左:渡辺あやさん 右:須藤蓮監督
映画『逆光』https://gyakkofilm.com/ は7月23日より岐阜CINEXで公開。
岐阜柳ケ瀬夏祭り 7月23日・24日
CINEX映画塾『逆光』須藤蓮監督トーク 7月16日
CINEX映画塾『ワンダーウォール 劇場版』須藤蓮さん、渡辺あやさん、岩崎太整さんトーク 7月23日
渡辺あや企画構成 岩崎太整プロデュース 昭和歌謡ショー 7月23日
美川憲一 歌謡ショー 7月24日
詳細は柳ケ瀬夏祭り公式インスタグラム
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